05 誘拐
「それで目的地にはたどり着いて・・・」
「帰るとこだったよね?」
そこまでは思い出した。
しかし、俺にも彼女にもそれ以降の記憶が無い。
「もしかして誘拐とか?」
彼女がそう言う。
それは俺も思っていたことだ。
あの学校の制服を着て歩いていたのだ。
しかも、路地裏を。
勘違いされて攫われた可能性は十分ある。
迂闊だったか?
俺だけならともかく彼女を巻き込んでしまった。
いや、俺だけならそもそも襲われたりしないか。
落ち込んでいても仕方がない。
どうにか脱出できないだろうか?
幸い縄で縛られていたりはしない。
「そろそろ動けそうだし、出入り口を探してみよう」
「そうは言ってもねぇ・・・」
彼女の言いたいことは分かる。
この部屋、兎に角狭い。
薄暗いが壁はすぐそこに見えている。
扉らしきものは見当たらない。
しかし、入れられたのなら、どこかにあるはずである。
「隙間から風が来てるし、完全な密室じゃない。
どんでん返しとかがあるかもしれない」
そう、忍者屋敷的なアレである。
「ああ、なるほどね!」
「探してみよう」
食料などがないし、普通は動かないほうが良いかもしれないが
さっきも言った通り、この部屋は狭く
労力はそれほどいらない。
それ以上にまだ希望はあるのだ。
しばらくして
出入り口はなかったが、
トイレを見つけることができた。
大きな成果である。
これで生理学的な問題を回避できる目処が立ったのだから。
全く考えていなかったが、今思うとかなりまずい状況だった。
そんなことを思っていたら急に・・・
「ちょっと使いたいんだけどいいか?」
「うん、どうぞ」
いやー、危ない。
これが見つかっていなかったら大惨事だったに違いない。
どんでん返しを使って元の部屋に戻ると
なんか俯いている高月さんの姿が
「あのさ、私もこのあと・・・使いたいんだけど・・・」
「あっ、ああ、ごめん」
こういうことで気を使わせてはいけないな。
「・・・耳、塞いでて」
「え?」
そう言い残して扉の向こうへ言ってしまった。
なんか目が怖かった。
耳を塞ぐ?どうしてまた?
そんなことを思っていると・・・
聞いちゃダメだ、聞いちゃダメだ!
「あ〜、あ〜あ〜」
何も聞こえない、何も聞いてない!
俺の骨髄グッジョブ!
ナイス反射だ!
さっき、彼女が俯いていたのはこのせいか。
聞かれたのか?
恥ずかしすぎる・・・
ハードだ。
トイレが見つかり最悪の事態は回避できた思っていたが
こんな地雷が待ち受けていたとは・・・
ボロいとは思っていたが
どういう造りをしてるんだ?
気まずい。
そのあとすぐに彼女は戻ってきた。
現在俺とは反対側の隅でうずくまっている。
この状況は知り合いだとしても、そうでないとしても
厳しい。
むしろ知り合いの方が厳しいか?
イケメンだったらこの状況でも
何とかなるんだろうか?
気の利いた台詞を言ったりするのだろうか?
無いものねだりをしても仕方がない。
俺にそんな能力はない。
早急に出口を探さねば・・・
そして彼女を開放してあげなくては・・・
そう思いながらも俺は眠りに落ちた。