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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
8章 回避不可の力と時間
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3 未熟な果実

 太陽の光が闇の世界から、シルキスの街を浮かび上がらせる。

 もちろん豪華なベッドに埋もれる赤髪の少女にも等しく、それは訪れた。

 いつ眠ったのかは覚えていないが、目の下にクマが浮かんでいる可能性は十分にある。

 結局、睡眠時間を削ってまで出した答えは時間は巻き戻せないという事と、そして先代王の決定も覆す事は難しいという2つだった。


「姫様。失礼いたします」


 扉の外からの声は、おそらくメイド長。

 他のメイド達は今日の午後の到着の予定になっている事から、それ以外にはありえないのだから予想は難しくない。

 そして予想通りの入室者は入り口で規則正しく頭を垂れる。

 いつものメイド達とは違う雰囲気に、少々物足りなさを感じるのは変な色へと自身が染め上げられているのかもしれない。それを認めない為に頭を左右に振って追い出す。


「姫様……もしかしてよく眠れなかったのですか?」


 どうやら、その行動が勘違いを起こさせているようだが睡眠が十分だったとは言えない事は間違いがなかった。なら否定する必要はない。


「流石に昨日の今日では平穏な時間は迎えられないね。私に爺様のいう役目が務まるとは思えないけど、メイド長はどう思う?」

「わたしめが口を挟むべき範囲を超えていますから、それに関しては答えられません。ですが姫様が選ぶ未来を否定する者は館にはいないとだけ、お伝えしておけば多少は楽になりましょうか?」

「確かに背中を押してくれる者がいると分かっているだけでも気が楽になるが……」


 メイド長の言うとおりだ。

 自身が選ぶ未来を否定するような事は誰もしないだろう。それはありがたい。

 しかし己の選ぶ道が彼らと彼女らの未来すらも左右する事になる重圧は増えたかもしれない。


「ああああああああ――――! 面倒くさい!」


 頭の中で延々と廻り続ける考えを追い出すように声を上げると共に、自身の赤髪を掻き回すと心をリセットする。


「ごちゃごちゃ考えても戻れない過去なら、少しでも最善に近づくように進むしかないなっ。そう、あれだ。”それがどうしたっ!”」


 いつもの調子に戻りつつある姫の姿に、珍しく表情を崩したメイド長が満足したように着替えの準備を始める。その行為はいつものメイドたちと違い、なんとなく優しさを感じられたのだった。


 ◇◇◇


 着替えを終えたナナカは今回の誕生会会場変更にともない、館で話し合われた本来の予定へと考えを巡らせる。本国へ来たのは、その誕生会が本来の目的ではあるが、それとは別に2つの計画が練られたからだ。

 

 一つ目は人材の確保。

 間違いなくベルジュよりも人口の多いシルキスは、それだけでチャンスが転がっているといえる。

 ただ、もちろん本国の国家機関で育成された人材の確保は難しいがベルジュでやるよりも可能性が広がっている。


 2つ目は技術の確保。

 ある意味で1つ目よりも重要で優先事項が大事なはずのそれは加工技術。というのも先日の魔物との戦いで多数の素材が確保出来たからだ。

 処理の簡単な素材については町の鍛冶屋、加工屋でも問題がなかったのだが、扱いの難しい素材も多数手に入れる事が出来た。特に甲殻竜の素材などは解体までは終わらせたものの、そこから物へと変える事が出来る者はいなかった。それを品物に変える事が出来れば相当の価値になるという話を教えられれば実行へ移すのは当然の流れ。問題は先代王のおかげで優先度は1つ目の項目よりも順位を下げた事。しかし出来れば進めるべき計画である。


 既にシェガードは両方の心当たりを尋ねに行っている。

 カジルは町の掲示板に人材募集の張り紙を手配をしていた。

 当然、護衛は薄くなっているが、流石に日中に城内で仕掛けてくる相手がいるとは思えない。それに先代王の誕生会での言葉は安易な行動を起こす気さえ奪ったはずである。7歳の少女はダークホースから明確な対抗馬へと変身を遂げたのだから。敵となるか、味方になるか、もしくは第三の道を選ぶか。おそらくは簡単に出せる答えではないだろう。有力者や貴族達も今頃は頭を悩ませているに違いない。とはいえ――


「さすがに手配当日に訪ねてくる者もいないか……」


 暇を弄んでいた。

 こちらにいる期間は10日を予定、それほど時間があるとは言えないが何時も煩いカジルはいない。もしかすると夢から覚めてから初めての何もない日になるかもしれない。本来なら気を休める機会なのだが、場所が場所だけに緊張だけを強いられる中で暇という意味の分からない状況に、いったい何をすればいいのか頭を悩ませる。


「いっその事、宰相のところへ乗り込んでやろうか?」


 誰もいない部屋で心にもない事まで口にしてしまうが、もちろん答えてくれる者はいない。まさに独り言である。しかし、だいたい予想というのは裏切られるためにある。それはナナカとて例外ではない。少女の独り言に答えるように廊下が騒がしくなり始める。


 誰かが言っていたような気がする。


「人生の最大の敵は暇である」と。「誰もが暇には抗えない」のだと。


 そのおかげだろうか、本来ならば厄介ゴトがやってきたと考えるべき事態にも拘らず、心が何かを期待するかのように表情が緩んだ赤髪の少女がそこにいたのだった。

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