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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
7章 誕生日の贈り物
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11 敵陣中枢

 自身の力を誇示するように己を着飾った集団が、それに負けじと飾られた煌びやかな空間と競い合うようにナナカの視界を埋めていた。

 ここは城の一画。誕生会の会場として用意されたものである。

 そこにナナカ自身がいるという事は短い時間の中で「ミッション」をやり遂げた印。


 しかし今頃メイド長はドレッシングルームで倒れているかもしれない。あの人物があれ程に焦りを見せたのは初めてと言ってもよい。着替え以外は見ているだけだったナナカですら汗が滲むほど、あの時間との闘いは壮絶だった。


 ただし、その成果は十分に得られたのではないかとも思っている。

 その証拠に、ナナカの姿が見えた瞬間から主役が誰だったのか思い出したかのように視線が集中しているからだ。それが当然の結果だと自身でも思っている。


 全身を包むドレスのシルエットはエンパイアライン。深緑を思わせる色に染め上げられたもので、まだ幼い少女の姿を更に強く意識させ、若さからくる可能性というものを感じさせ、各所レースが若草の葉を思わせるように夜風で揺れている。胸元は成長を見せ始めたばかりのそれを軽く意識させつつも可愛さを強調した作り。


 何よりも少女の結い上げられた赤髪が、そのドレスと混ざり合い1つのイメージを作り上げている。

 幼いとはいえスタイルの良いナナカの体が幹となり、赤髪が花を象っている。それは完成された薔薇。生命の息吹すらも相手に与える。


 ドレッシングルームでナナカ自身が、その姿を見た時に正に1つの芸術品だと思うほどに感動を覚えたもの。王族の血の結集された遺伝子とメイドの力が生んだ結果。

 これだけナナカの事を理解して、見事に長所を引き出す事に成功した、メイド達に感謝すべきであろう。


「あの方がナナカ姫……」「美しい」「これは想像以上だ」


 各所から上がる感嘆の声は、会場を包み込むには十分すぎるほどに役に立った。本来の主役が誰なのかを、誰もが十分に視界から頭へと浸透させていく。


 もちろん力を誇示する事は、ナナカを王族としての格を上げてしまう事に繋がるために本意ではないが、この誕生会という場の主役を宰相に無条件に渡すつもりはない。それに、この程度の事では貴族も商人もナナカを選択肢に選ぶような愚行を犯すとは思えない。あくまでも視覚的に主役を奪っただけなのである。おそらく数日も経てば忘れるレベルの事だと思っていた。


 しかし――


「なんだか思った以上に目立っているな」


「姫様の姿を見て心を揺さぶられない者など居ましょうか。私としては当然の結果と感じております」


 隣で影のように立つ、ロリコン疑惑の男は自慢するように言葉を口にする。妙に熱い視線がいくつか混ざっていると思っていたが、どうやら1人はこいつだったようだ。


(夢の世界で居た、アイドルという存在はこんな雰囲気をいつも味わっていたのだろうか?)


 正直なところ、ナナカもここまで注目を集めるとは思っていなかった。ただ、近付こうとする人間が今のところは見られない。やはり自分達がつくべき人間は他に居ると考えているか、もしくは慎重に見定めている可能性もある。現状はこちらに真っ直ぐに道を引くべきなのか迷っているといったことろか。


 しかし、それは来客相手だけだった。数分後に現れた男は、夢の世界なら議員就任1カ月で収賄容疑にかけられ、辞職を迫られていそうな人相の人間だった。やや割腹の良い体に丈の長いスーツ、相手に対して威厳を見せつけるような羽根つき帽子が偉そうだ。


「随分と大変だったようですな。あまりに会場入りが遅いもので主役本人が不在のため、危うく誕生会が中止になるかと心配いたしましたよ。ナナカ姫」


 その大物ぶった言葉や態度、そしてこちらの事情を知っている人間。何よりも会場の視線がナナカから、この男に移った事から正体は聞かなくても想像がつく。


「これは宰相バール様。今回は無茶なお願いを聞いて頂きありがとうございました。おかげで大勢の客人を迎える事が出来たようで何よりです」


 素早くカジルが軽く頭を垂れ礼を伝える。そこに今回の罠への探りや恨みを混じらせない言葉は上手いと言えた。


「君は……確か、マイカ王妃が存命中にも近くで何度か見かけたが、娘であるナナカ姫の下でも力を貸しているとは思いませんでしたな」


 母であるマイカの名前がナナカの耳に入った時に、言葉を向けられたカジルの肩がピクリと反応したように見えた。


「”今度こそは”仕える方を亡くすような事がなければ良いですな」


 カジルが肩の動きに続いて視線が細くなる姿をナナカは見てしまった。その視線は執事としては不適切。獲物に狙いをつける狩人のようであった。触れてはいけない部分をあえて刺激してきた相手に表情を隠しきれていない。


「おや、ご気分でも悪いのですかな。ご気分が悪いのであれば”ナナカ姫”は私共にお任せ頂き、休憩室でお休みなされては如何ですかな。無理をなさると”また”大事になりかねませんぞ」


 言葉を向けられた相手は体を震わせている。一瞬だけ我慢したように見えた、その足が半歩前へと動いたように感じられた。あまりに安っぽい挑発であり、見え見えの罠だ。それでも効果があり、我慢の決壊を起こすには十分な威力を発揮したのかもしれない。


 肝心のナナカの方に表面上の動揺がなかったのは記憶がないからだったかもしれない。ただ親族を馬鹿にされ、死を汚されるを良しとは思うわけがない。執事である男が怒りに震える姿を見て何も思わないはずがない。何よりも売られた喧嘩を安く買い取るつもりはない。


「言いたい事があるならっ……!」


「あらあら、ナナちゃん久しぶりっ!」


 漏れ出るようなナナカの言葉は別の人間の登場により遮られた。それは――


「えっ、おねえちゃん?」


「おねえちゃんも、お話に混ぜてもらえるかしら?」


 声の先に視線を向けると、海を思わせる淡いマーメイドドレスでスタイルを強調した大人を感じさせる雰囲気を放つ姉レイアが、妖艶な笑みを浮かべて、その場を支配しようとしていたのだった。

ドレスの種類説明

エンパイア>胸下辺りからゆったりとスカートがナチュラルに伸びていく。自然な美しさを引き出すタイプと言えます。

マーメイド>胸元から膝までのボディラインを強調。そこからはゆったりと広がる。エレガントで大人の女性の魅力を引き出すタイプと言えるでしょう。

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