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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
7章 誕生日の贈り物
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7 世界のルールの交差点

 本来なら王族の末席に位置するはずの、7歳の姫の誕生会は大きく動き出した。

 それは大人達の思惑と野望を乗せて、本来の趣旨すらも分からないくらいに規模が膨らんだ為。

 主役の座を明け渡す本人であるナナカは、昨日ルナと別れるとそのまま執務室へと向かい、カジルに本国での誕生会を打診するように手配を頼んだ。当然、本国からの返事は、まだ届いていない。しかし断る事はないと確信している。こういった貴族の参加するイベントを開催する事は自己権力の主張できる大事な場でもある。打診された方は、こぼれた物が地面に接触する前に拾い上げるだろう。


 恐らく先代王は、それがどこでやる事になっても気にするとは思えない。王座を争う事に対して暗黙の了解を出しているのだから、それも当然といえよう。権力を示す場を譲ろうが放棄しようが静観するだろう。つまりは打診した時点で開催場所の移行は了承されたと言ってもよい。こちらは他の王座を争う王族の陰で目立たない主役を務めあげる準備をするだけである。


 そして今日も執務室で、ナナカとカジルの仕事が始まっていた。


「それで王座に群がる人間達が、こちらを敵視するような様子はありそうか?」


「それはないと思います。先日の魔物との戦いも成果は教会のモノとなっております。姫様のお望み通りに、あくまでも誕生会は名目としか見ていないかと。間違いなく姫様が表向きは主役として扱われるでしょうが、裏ではラルカット派の派閥拡大の場所として宰相バールが利用することでしょう。念の為に確認しておきますが、今回の誕生会にて姫様はジェスト王子を支持する方向に変わりはないのですね?」


 それは以前に決めた方針。しかし今も変更の気持ちはない。自分にとって一番は面倒事に巻き込みそうにない派閥を支持することである。当然、それを選択するにしても時間が必要だ。先日の魔物の襲来で、ただでさえ状況確認が遅れている。時間があるに越した事がない。明確な答えを用意するのはもっと後だ。ジェスト王子には申し訳ないが、それまでは「生きている」と口にさせてもらうしかない。不謹慎ではあるが少しでも長く死体が見つからない事を願うばかりである。


「うむ。やはり決断するのは、もう少し周りを見てからでも良いと思う。まあ、先代王がいる間は時間をいくらかけても問題はあるまい」


「たしかに先代王が王座に残っている間は他の国も傍観するでしょう。それに内政に関しても宰相バール様が手を抜く事はないと言えます。それが自身が支持する、ラルカット王子の評価にも繋がりますからね。ただ今回の誕生会の開催移行で結果的にラルカット王子の背中を押すような形にはなってしいますが……」


「仕方がない。支持を明確にするよりはマシだろう。言葉を濁しつつ最善を探るしかない」


 時間を掛けて検討した結果、最後はラルカット派を支持する事になるかもしれない。だが姉レイアのように、わけのわからない相手と結婚させられる可能性を考えれば真っ先に消したい選択肢である。見た事もない相手と結婚させられる歴史を夢で学んだ覚えがあるが、自分がその立場になると考えるとおぞましい。


 もちろん、ナナカは間違いなく姫。つまりは女性であるが夢の経験が邪魔をしているのか、どうも男を好きになる気持ちなど湧いてこない。それなのに男と結婚して初夜を迎えるなど……


(うんっ! やっぱりラルカット派とは相容れない! 頼む、ジェスト。腐敗した体でも逃げ続けてくれっ!)


 自分で「兄は生きている」と宣言するつもりなのに、実際には生きているとは思っていない。完全に言葉と思いがあべこべである。実の兄に対しての扱いとは思えない。と言っても血が繋がっていても記憶にない人間への扱いなど所詮は他人事である。そんなナナカの心の底を知らずに、目の前のロリコン疑惑の男は自身の願望を口にする。


「私としては、やはり姫様が治める国を見てみたい気持ちはあるのですが……」


 それは以前にも聞きた話だ。どうも周りは、まだ7歳の姫である自分に期待が大きすぎる。カジルもその1人ではあるが、口にしているだけで実現を目指すような勝手な真似はしないだろう。あのシェガードの奴も面白半分で言っているだけに見える。問題は姉レイア。彼女などは裏で貴族を焚き付けていそうで怖いくらいだ。それくらいにナナカ押しだ。もしかすると一番の厄介な人物は、あの人なのかもしれない。


「前にも話したが、私に人を導く器も度胸もない。平和に普通の暮らしが出来ればいい。なんなら王族の地位を捨てたって構わないぞ?」


「姫様……そちらの方がよほど難しいです。国自体が亡くなったとしても王族であった事を無にするなどできません。王族は死ぬまで王族なのですから」


 言われなくてもナナカとて理解はしている。しかし奴隷として生きてきた、あの姉弟と言えどもナナカと同じ赤い血が流れている。だが生まれた下がどこだったかで全てが決まってしまうのだ。もっとも、これは夢の世界も同じではあった。やはり生まれる前に人は優劣が決まる。


 それに自然の世界も弱きものは強きものに屈するだけである。仕方がないのかもしれないが、それを納得するのは難しい。自分は生まれる前から運が悪かったと、生まれた後に頑張った者でも蔑まれる世界が嫌いだ。しかし、それを7歳の娘如きが口にした所で世界が変わるわけがないのも理解している。


「いつか、ルナ達と真の友人と言える様な世界が来るのだろうか……」


 ふと漏れた、その呟きにカジルから返ってくる言葉はなかった。

 まるで誰も世界のルールが変えられない事を、どこまでも広がる静かになった空気がナナカを諭しているようであった。

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