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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
1章 王女の目覚め
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8 道具の使い道

自身の信念に従って、奴隷制度への一石を投じ、勇者バモルドへの支援を打ち切ったナナカ。その行動は何を変えて行く事になるのだろうか?

 勇者は去り、残されたのは浄化された空気だと感じたのは、ナナカ自身だけではないと思いたい。

 ただ、実際に残されたのは見えない物体ではなく、目の前のルナとサンだった。手元に置いたは良いが、どのように扱うべきなのか迷う。ナナカ自身は2人よりも世界の知識がないと言っても良い状況であり、正直な言葉を吐露してしまうと今後の事は考えずにバモルドとやりあっていたのだ。


 そのナナカが無言のままに考えている姿を、しばらくは目元に笑みを浮かべて見守っていたカジルだが先ほどまでと違い、出ない答えに困っている姿に一つ助言をする事に決めた様だった。


「姫様。とりあえず、ルナさん達の着替えを優先するのは如何ですか?」


 この言葉にナナカも、ルナとサンの人としての尊厳を与えられていない服装の事にようやく思い至った。餌としての魅力など、もう必要ない事を。


「そうだな。まずはその服装からだ。餌にする気はないからな。メイド長。2人に……そうだな、使用人達のお古で構わないから何か頼めるか?」


 一度はメイドや使用人と同じ物と考えたが、いくら話の流れとは言え先程まで投棄奴隷だった人間を他の者たちと同じ扱いをしてしまっては不満が出かねない。となれば、あくまでもメイド達よりも下とは直接は言わないまでも、見習いレベルの待遇の扱いが無難だと思えた。


「畏まりました。では、わたくしどもが一旦お預かりして着替えが終わり次第、姫様にご連絡を入れるように致します」


 自分たちの権限無き所で決められる話に、ルナもサンも戸惑いを超えて混乱に陥る寸前なのだろう。その顔は今にも泣きだしそうである。ただ当然といえば当然かもしれない。生まれてから明日をも知れぬ命を自分以外の誰かに権利を握られ、気付いていみれば勇者の投棄奴隷になり、強気に死なないと言ってはいたが難しい事は本人も自覚はしていたであろう。


 それが突然、こんな所に連れてこられて、自分たちの主人は小さな姫様に変わったという。会話のなかで「自分は死なない」と発言した事で実験動物にでも使われると勘違いすらもしてそうだった。家畜同然の扱いを受けてきたわけであるのだから、良い方に考えろと言う方が難しいのは仕方がなかったかもしれない。


「ルナ、サンよ。悪いようにはしない。心配しなくても大丈夫だ。メイド長の指示に従えばいい」


 ナナカの言葉に完全に信用している様子はないものの、無言のままに2人はメイド長に連れ添われ会見場を後にした。


「ふぅ……。なんだか、すっごい仕事をした気分だぞ」

「お疲れ様でございます」

「大金の使い道を変更しちゃってごめんね。工面とか後で大変になったりする?」

「いえ、元々バモルドさまにお渡しする予定でした。名目が変わっただけのお話です。予算内ですので気になさらずともよいかと」

「そ……そうか。ちなみに長く支援してきた勇者との関係を切った事には問題はあったりする?」

「それについては、いくつか問題はありますが王妃もバモルド様への支援は失敗だったかもしれないと、いつか漏らしていた事もございました。ご存命であれば、ご自身で支援を打ち切っていた可能性は十分にございます」


 そう語るカジルの表情は満足と納得している様にも見えた。


「打ち切る理由は違っていたかもしれないが、同じ結果に進む可能性はあったという事だな。だが、いくつかの問題とはなんだ?」


 笑みすら浮かべていた表情が固く緊張したものへと変化させたカジルの姿に小さな問題ではない事は今のナナカでも予想できた。


「そうですね。直ぐに問題になってくるとは言えないかもしれませんが、ブロンズクラスの勇者の支援を打ち切ったことにより、貴族達の姫様への見方が変わってくる可能性はあると思われます」

「ブロンズでか? もしかして結構高いクラスだったりするのか?」

「はい。姫が知らないのも無理はないかもしれません。クラス分けはストーン、アイアンの上に当たります。もちろん、その上にもシルバーやゴールド、プラチナと言ったようなクラスもございます」

「では下から3番目か、それじゃあ高いクラスにも思えないが?」


 ここまでの話を聞く限りは下から3番目では大したことがないと言う感想だった。その後の話をきくまでは。


「ブロンズクラス。たしかに言葉からは響きは良くないと思われるかもしれません。ですが、これは上級クラスでの評価です。下級クラスがその下にあり、そのクラスは星の数で5段階に分けて評価されております。通常、1つ上がる為に2~3年かかり、上級クラスになるまでに早くても8年は掛かると言われております。当然、ブロンズクラスまで生きて辿りつく者はかなり限られており、この国でも20人はいないと思われます。更にシルバーやゴールドまでとなると、その中でも1人か2人上がれれば良い方だと言われております」


 知らなかったとはいえ、会話の内容に体温が上がるのを感じる。これが驚きと焦りの為である事は自身でも理解できた。


「つまりは、あのバモルドはこの国に20人いるかいないかの優秀な部類だったという事か」

「そういう事になります。一部の支援をする側にとっては良い投資先の部類と見ても良いでしょう」

「早計だったと言われても仕方がないという事だな」

「いえ、姫様の判断も間違いとは言い切れません。私も全て賛成というわけではありませんが反対する気もございませんでした」

「バモルドが嫌いだったのか?」


 その言葉に口角が上がる姿は否定ではないと見てよさそうだった。


「それもありますが、何よりも勇者マコトの存在が大きいでしょう。もし先にマコトへの支援の予定を決めて居なければ、姫がどう思っていようとも反対しておりました」

「偶然とはいえ、順番が逆だった場合は口を出していたという事か」

「はい。やはり支援している勇者がいないと言うのは、表向きにも恰好がつきません。貴族の娘であればまだしも、王族が勇者を支援しないなど存在意義を否定する行為ともとられかねません」


 勇者の支援がそこまで重要な事だったとは驚きである。どうしても夢の世界と勇者の存在意義や関連性が違いすぎて、現実の世界の勇者が安っぽく見えてしまう為、政治の道具として有用性をそこまで高く評価していなかったのはナナカの落ち度と言っても良かった。


「安易だったかもしれないな。すまん」

「姫様が謝る必要はございません。わたしも反対していない時点で納得はしているのですから」

「そうか……ちなみにその勇者マコトをどう見る?」

「先ほど申し上げた通り、クラスとしては間違いなく下位クラスでしょう。星1か2……しかし師である魔導師ラッシュの存在が大きい事は間違いありません。それに16歳の若さ。十分な付加価値はあると思います。将来性ならピカイチと言って良いと思います」

「つまりは、その活躍だけでなくブランド力も有用性が高いという事か」

「その通りです。ただでさえ国が揺れ動いている時です。その存在はいつか姫様にとっても重要になってくると思われます」


 天井を見上げて肺から空気を抜く。

 知らなかったとはいえ、結局は自身もバモルドと同じく、人の存在を道具の一部かのように利用して行く事が重く心に圧し掛かる。


 ――バモルドを非難する資格はないのかもしれないな。


 その様子を見て何を考えているかを読み取っていたのであろう。カジルは静かに両目を閉じて言葉を続ける。


「姫様の気持ちは分からないでもないですが、人を道具として考える意識も持たなければ上に立つ方の心が壊れてしまいますよ。少なくとも今はそういう時代なのですから」

「必要か……でもやはり、道具の冷たさよりも人に人として暖かさを求めたい。それが世界の流れから外れるとしても」


 ナナカに返ってくる言葉はなく、こちらに向かい感謝も込められたように頭を下げてくるカジルの姿だけがそこにあった。

これで1章は終了となります。

間にちょっとした話を入れて2章へ突入となります。

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