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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
7章 誕生日の贈り物
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2 マツリの前の神輿

 メイドのメルからの提案は解決方法としては正と負を含んでいた。

 確かに本国に丸投げしてしまえば資金も開催場所確保の問題もなくなる。同時に尻を叩かれて働き続ける今の状況からも解放されると言える。なるほど、画期的だ。

 

 しかし、どうだろうか?

 本国には先代バス王が常駐しているとはいえ、やはり、ラルカット王子派の本拠点でもある。明確な敵とは言えないとしても不安は小さくない。特に、その派閥の宰相バールについては裏で何をしてくるか分からない。暗殺なんて馬鹿な真似をするとは考えたくはないが無いとも言えないのだ。


 結局、簡単に答えを出す事は出来ず、一日の考慮する時間を設ける。カジルはナナカが、どのような決断を下そうと反対するつもりはない意志を示した。後はナナカ自身が悩むだけの話だった。


 こうなってくると執務室に閉じこもっている必要はない。この館で開催される場合の準備についてはカジルに引き続き任せて、ナナカなりに判断材料を集めるべきである。そして今、最初の材料として選んだ姉レイアの元へ訪れていた。


「なるほどなの。確かに本国開催にしてしまえば多くの問題が解決するかもね。でも新しい問題も侵入してくるわよ?」


 やはり、レイアも同じ事を口にする。益と負が混ざり合うと。


「もちろん把握しているつもりではあります。ですが天秤の傾きの計算が難しいのです。私には本国で暮らしていた記憶など残っておりませんし、難しい政と謀は苦手なのです」


 本音を言えば苦手というよりも完全に、そちら方面の経験不足の意味合いが大きい。恐らく知識だけであれば引けを取るとは思えないが、こちらの行動に対しての相対的な動きが読めない。安易な選択が不利な傾斜を生む可能性は低くないだろう。微量ながらも天秤に自身の命も乗せられているとなれば慎重にならざるを得ない。


「彼らがどこまで、ナナちゃんに価値を付けているかによるの。自分たちの肩まで持ち上げかけた神輿が見劣りするような事があれば当然、相手を蹴落とそうするの」


「私の価値を下げる行動に出る可能性があるという事?」


「そういうことになるわね。神輿を担ぐ人間というのは飾る事は得意でも、一定の高さから更に上へと持ち上げる事を良しとしないの。いえ、元々上げるつもりがないのかしらね。力を与えすぎては飾りが本物になっちゃうから。だから相手を叩き落として争いが高騰しないようにするの」


 聞けば聞くほど根暗な世界だ。自身の地位を神輿に近づける事はしても離れさせる事はない。そして別の神輿が目立つ事はもっと許せない。平民として暮していれば絶対に経験出来ない世界。最上派閥争い。


「なるほど……。では、レイアおねえちゃんから見て、私は既に神輿競争に登録されていると思いますか?」


 争いに登録されていなければ心配はなくなる。その為に無駄に目立たないようにと司祭ラムルとも取引をしたのだ。功績を譲る事で。


「うん……、どうかしらね。おねえちゃんは物凄く、ナナちゃんを評価しているわよ。競争相手として隣に立っていたら最初にブーツの紐を切断しておくわね」


 さらりと口にしたが、レイアと同じ評価を下す者がいれば、真っ先に罠を仕掛けてくるという事だろう。やはり少々やりすぎていたようだ。目覚めてからの実績は高く評価されている。もっとも、姉の場合はシスコンという感情的な原因も作用してそうではある。


「おねえちゃんは兎も角、他の有力者や貴族はどうなんですか?」


「兎も角って……ナナちゃんへの愛が足りないのかしら? まぁ、いいわ。今後の課題として心に縫い留めておきましょう」


 異常に、こちらへの愛に拘っているが、いまさら何を言っても無駄な事は分かっている。聞き流すのが一番である。


「彼らは意識しているとは思えないの。あのラルカットですら飾りの域を超えていないですもの。まさか、それよりも幼い上に女であるナナちゃんを警戒するなんて考えにくいの」


 確かにその通りだ。目覚めて、それほど時間が経過したわけでない。その期間で警戒させる様な事はないかもしれない。いや、実際には誰もが驚くような事を繰り返しているわけではあるが、夢世界とは違い情報伝達も収集も楽ではない現実世界では、この短期間でそれら知る事すら容易ではない。


「じゃあ、おねえちゃんは本国に丸投げしちゃっても、益はあっても損はないと判断しているわけですね」


「そうなるの。あくまでも”何も知らなければ”という条件は付くけどね。でも、もっと良い方法がないわけでもないのよ?」


「別の選択肢ですか……?」


「うん。私の館で開催っていう話なんだけど」


 確かに新しい選択肢だ。しかし姉の嫁ぎ先は中立共和国とはいえ、他国である。そこへ、この国の有力者が王を先頭に雪崩れ込んだら国際問題に発展する可能性はある。その理由が「誕生会でした」という理由であっても異常事態と捉えない方がおかしい。もっとも、姉にとっては国際問題よりも可愛い妹の為という理由の方が大事なのかもしれないが。


「……それも選択の1つとして考慮に入れておきます……」


 こう答えるに留めたのであった。

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