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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
6章 平和に裏あり
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14 時価が導く世界

 あの匂いに悩まされた日から1週間が経過していた。

 ナナカの油田浄化計画とでもいうべき作業の結果は十分な成果を見せつつあった。

 計画が始まる前には上手く泥を除去出来れば数倍の価格上昇を見込めると、カジルの奴は言っていたのだが、いざ作業が完了してみれば自身の予想は間違いだったかもしれないと現地で漏らしてはいたのだ。


 たしかに実際に市場に流してみると、その最後の予想は当たっていた。しかし、結果を受けたカジル本人としては予想が外れたと口にした。たどり着いた答えの矛盾に戸惑うナナカは説明求めた。カジルは「見て頂いたほうが早いです」と売上表を見せてくれたのだ。


「なんだ、この価格は? 数字が間違っているではないか」


「いえ、姫様。それで間違いありません。確かにその値段で取引は成立しております」


 迷いのない返答に手にある売上表を再度確認する。

 何度見ても異常だ。そこに計上されている数字は石炭が圧縮されて人工ダイヤにされたような金額だったからだ。もはや同じ種類の商品と言っていいのかも疑問なレベル。


「こんなに目に見えて変わるものなのか?」


「はい。正直、姫様が泥の除去について話を持ち出した時に、大した除去は出来ないであろうと思っておりました。ですが、実際に得られた結果は私には驚くものでした。あれほどの純度まで達するとは思っておりませんでした」


「しかし、それにしても泥が除去されただけで、ここまで値段が上がるのはおかしくないか?」


 油は大抵の場合は使い捨て。永遠に使えるものでもなければ飾るものでもない。ただの消費品である。そんな物が何十倍にも価格が上昇するわけがない。


「いえ、姫様違います。上がって当然なのです」


「どういうことだ?」


「当初の油の状態、あれは確かに酷いものでした。ですが他の産地も驚くほど違いはないと言っていいでしょう。やはり泥は含まれていますし、臭いがないものなどはありません。どれもこちらの物よりはマシ程度のレベルであり、その多少の差で値段が倍以上違ってしまったりしていたのです。ところが姫様の生み出したアレは今ままでの油と比べ物になりません。泥の臭いは抑えられ、混ざっている泥も少なく、微かに透明度すら感じられます。同じレベルのものがないとは言えませんが市場に出るような事はないと言っていいでしょう」


 熱の籠った言葉は、それだけカジルの興奮を表していると言えた。

 しかし、やはり値段の差に納得出来ない。うれしい誤算とはいえ、突然向こうから歩いてやって来た様な富は不安を植え付けるものである。それは心当たりのない、へそくりを見つけた時に近い。特に、この世界にとっては未知の技術を引っ張り出してきたのだ。それが先々でどんな変化をもたらす事になるのかは知っておくべきである。


「買い取られた油の用途は分かるのか?」


「はい。買い付けた者達は確認できております。そこから予想されるのは主に機器への潤滑油としての使用ではないかと思われます」


「潤滑油? 今までの物ではダメなのか?」


「短期間では問題がないでしょう。ですが取り換えが簡単ではない歯車や船の部品に対して不純物が多いものを使えば、それだけで消耗を早めてしまいます。特に船の方は死活問題です。部品を持ち歩くわけにもいかず、交換となれば大きな出費を生み出します。それを思えば安いものなのかもしれません」


「なるほど、確かに消耗を抑えられるという事は私の思っている以上に大きな利益に繋がるのだな」


 しかし、ここでナナカはそれが生み出す、もう少し先の可能性にまではたどり着く事が出来なかった。それがどういう結果に繋がるかまでは予想できなかったのである。


「つまり、これであの甲殻竜ミドアースの遺骸を処理する資金の目途をつける事が出来るというわけか」


「はい。各地から職人を集める事が出来ましょう」


 もちろん遺骸を処理するだけなら簡単だ。捌いて売ればいい。簡単に手に入る素材じゃないだけに買い手は数多だろう。だが、それを良しとはしなかった。更に加工して商品として売り出した方が利益は出る。その為には準備金が必要だったのだ。それが解決したわけである。


「どれくらいで解体は終わりそうだ?」


「解体は3日で終わらせましょう。なんと言っても誕生日会が近づいております。魔除けに効果がありそうではありますが、あれを晒したままで客人を迎え入れることは出来ません。急がせましょう」


 魔除けとはオーバーにも聞こえたが、あんなもの遺骸が町の入口にあっては確かに魔物は近寄らないかもしれない。もちろん同じ人間の盗賊や蛮族ですら躊躇うだろう。一瞬、そのまま放置しておくのもいいかもしれないと考えたが、誕生日会で来る客人にも要らぬ武を誇る事にもなりかねない。それが火種となる可能性を考えると解体しか行き着くところはなかった。


「そうだな。出来るだけ早く片づけてくれ」


「ところで姫様。その誕生日会についてですが……」


 その言葉を続ける事はカジルには出来なかった。


「ナナカさま~! 本国の先代王から手紙が届きました~~~!」


 突然、扉を開け放ち発せられた、まだ子供っぽさが抜け切れていない言葉が、カジルの会話を途切れさせた。それを実行したのは一番ナナカと年の近いメイドであるミーヤだった。


「ミーヤ! 何度、ノックをするようにと注意されたら理解するのですか!?」


 言葉を途切れさせられた怒りも乗せるように、カジルの注意が飛ぶ。形だけのように「申し訳ありません」と口にしたが「この娘は次もやるだろう」と、ナナカは確信している。最近はそんな、おっちょこちょいのミーヤが妹のようにかわいく思えている。もちろん、現実の年は倍ほどに相手が上だ。


「それくらいでいいじゃないか。それで手紙の内容は?」


「はい。ただいま……」


 素直に返事をしながらも「姫様はあまいんですから」という声も洩らしながら開封する。意外と心の狭い奴である。ロリコンとはそういう人間が多いのかもしれない。


「これは……!?」


「1人で驚いてないで内容を話せ」


 そこから生まれた内容は大きな流れの変化を感じるものだった。


「……姫様の誕生日会に、先代王も参加の意思を表明致しました」


 辺境とまで言わないが本国から離れたベルジュの町まで、たかが孫娘1人のために、この国の王自身が誕生日会如きに駆けつける。来てもらう側が言うのも可笑しいかも知れないが異常である。

 長い眠りから覚めて以来、周りから聞いている話では一癖も二癖もある相手だ。何かあるかもしれない。目的は他にあるのではないか。否、きっと何かある。


 ただ、今はまだ、ナナカもカジルも未来を予想出来ずにいた。

これで6章は終了となります。次章から「じじぃ」登場です。どうなることやら……

とりあえずは次話はいつものアレです♪

<+0.5> チョイ話!

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