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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
6章 平和に裏あり
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12 旅のお供はメイドのメル

 朝日が頭を覗き始めた時間、油田へと向かう列が出来ていた。その中心に1台の馬車が走っている。乗り込んでいるのは、ナナカ、カジル、シェガード、そして現地で世話役としてメイドのメルの4人。隊の護衛はミゲルとシェードが行っていた。


「お嬢。またカジルに無理させてるな」


 急すぎるピクニック計画に向けて、そのカジルは朝まで手配が続いたようだ。もちろん、それでも今日も頑張ってもらう。現地に着くまでの時間が彼にとっては唯一の休める時間なのかもしれない。決して乗り心地の良いとは思えない、この世界の馬車の中で体制を崩さないで器用に寝ているようだ。

 

「そっち方面はカジルくらいしか動ける人間がいないしね。護衛だけじゃなく、内務についても人が必要かもしれないね」

「ナナカ様、本国から応援の方を呼ぶ事は難しいのですか?」


 メルから自然と言える解決策が出される。それは既にナナカ達の間では交わされた話。それを説明するには少々立ち入った部分まで話す必要が出てくる。どう伝えるべきか、こちらが迷いを見せる中――


「あっ! メイド如きが立ち入った事を申し訳ありません!」


 メルは自身が出過ぎた事を言ってしまったと勘違いしたようだ。


「いや、それは構わない。実は昨日、私たちも話し合ったんだがな……結論としては難しい状況なんだ」


 それ以上に詳しい事は口にしない。王族のゴタゴタにメイド達を巻き込ませるわけにもいかない。


「そうでしたか。差し出がましいマネを申し訳ありませんでした」

「いや、何かアイデアがあれば聞きたい。いい機会だし口に出してほしい」


 別に自分たちの方が優秀などと下らない意識はない。アイデアに位も役割も関係ない。出る人間もいれば出ない人間もいる。当然、出ない時があれば出る時もある。アイデアなんて、そんなものだ。


「……では一つ。商人達から募集するのは如何でしょうか? 彼らは金に対して嘘をつきません。事務的な事だけでも、そちらに回す事が出来ればかなり楽になるのではと」

「商人か……」


 まったくの盲点。王族と貴族によって行うのが当たり前と、この世界の常識に流されて難しく考えすぎていた。しかし――


「ちょっとした、お抱え商人のようになってしまうと後々でややこしい事になりかねないぞ?」


 そこに疑問をぶつけてくるのはシェガード。


「シェガードの言うとおりだ」


 下位の継承権をもつナナカとは言え、王族の内政に関われるとなると、それだけで大きな力を手にする事になる。それはその場所を巡る争いとなりかねない。


「でしたら、既に姫様の下にいる商人の子を採用すれば良いではありませんか?」

「私の下にいる……?」

「そうです。私たちメイドは貴族の子だけでなく、商人の子も中には居ます。教育も受けているはずですから知識に関しては問題がないはずです。親達も私たちがメイドとしてナナカ様に仕えているとしか思ってはおりません。きっと妙な企みが入り込む可能性は低いかと思います」


 確かに王族の下でメイドとして働いているはずの娘に妙な入れ知恵をする事は出来ない。情報漏えいがどれだけ愚かな行為か親子共に承知しているはずだ。何よりも任期が終えるまで自宅に帰る事は難しい。もちろん、自身の家に有利になるように考えないとは言えないが直接商人を雇うよりは安全かもしれない。


「シェガード、どう思う?」

「悪くはないだろうが、そうなると今度はメイドが足りなくなるんじゃねーのか?」


 それは間違いない。元々、ギリギリの人数で仕事を廻していた。それがナナカが長い眠りから起きてからは問題だらけだ。ルナが手伝い程度に加わったとはいえ、その人手不足がカジルに更なる負担をかけているのだ。


「どこも人手不足。そして、その追加採用には金が必要になる。結局はそこに辿り着くわけか」

「お嬢、本当に油田は何とかなるんだろうな?」

「たぶん?」

「今、疑問符つけただろ。これだけの人出を動員して「ダメでした」は不味いぜ?」


 確かに「ダメでした」となると今回の遠征費が無駄になる。それは益々財政を打撃する。

 しかし泥が混ざった状態で出荷している現状よりはマシになると思っている。夢の経験がある意味で現実である事がわかった今なら、そこで得られた知識は大きな力だ。

 問題はその知識をどこまで、この世界に反映させるかという事だ。過剰な知識は下手な武力よりも危険である事は夢の世界の戦争という歴史が示していた。


「いろいろ方法は考えてある。全部がダメでしたとはならないはずだ」

「確かに、お嬢は変な知識と度胸だけなら、かなりもんだしな、今回も期待をしたいが……」

「それよりもナナカ様!」

「はいっ!?」


 突然色の変わった、メルの声はナナカに何時もの起床の出来事を思い起こさせる。


「そろそろ時間ですよ」

「時間って……何の時間?」

「油田と言えば汚れる事も予想される場所です。となれば、その恰好では無理がございます」


 気のせいだろうか? 頬と目の色も声に合わせるかのような変化したような……。

 嫌な予感――


「着替えは準備してございます――」

「ちょ、朝に着替えましたよね……?」

「朝は朝! 今は今にございます!」

「でもほら。カジルもシェガードもいるしさ……」


 その言葉に反応するようにメルの視線は歴戦の傭兵へと向けられた。

 こちらからは確認できないが、その表情を見たはずのシェガードの態度に変化が訪れたのは間違いない。


「お、お嬢。俺とカジルは外に出てるわっ。ゆっくりしてくれ――!」


 その言葉が終るよりも早くカジルの首根っこを掴んで扉を開け放つ。そして走る馬車から危険も顧みず飛び出た。カジルの「うぎゃー」という声は気のせいではない。それほどの危険を侵しての裏切り行為。


「うおぃ! シェガードぉぉぉ!?」

「ナナカ様。ようやく二人きりになれましたね……?」


 その眼には輝きと鋭さを感じる。ナナカの勘違いでなければ、人はそれを幸喜と呼ぶ。

 流れるようにゆっくりと扉とカーテンを閉める動きは獲物を狙うハンター。


「さぁ! メイドの仕事の時間です!」


 いつもと違う場所と時間である、消光の森へと続く朝日の射す道で本日も天使の声が響いた。

久々の登場となる、メイドのメル。ようやく本編に登場です。お忘れの方は+0.5シリーズで確認くださいませ。

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