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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
6章 平和に裏あり
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9 疑念と思惑と企み

 銀髪の勇者が私の元を訪れたのは予想外だった。

 まだ昇りかけた太陽が姿を半分も見せていない時間の事。

 予想外と言ってよかった。

 姫様はもちろんの事、あの傭兵親子も自分の存在には気づいている様子はない。

 それなのに彼女は当たり前のように現れて私に依頼してきたのだ。


「私は人同士の争いに関わる事は許されていない。だから貴方にお任せする」と。


 私も気づいていないわけではない。出来れば、関わる事を避けたかった。

 しかし、それを言っている状況ではない事も理解している。

 姫様はあまりにも目立ちすぎたのだ。


(裏の人間が動き始めた……)


 私は頷きで返答した。

 銀髪はそれに満足したように姿を消した。


「私のような人間が必要な時代が再び訪れようとは……。いや、あの方は予想していたのかもしれない」


 私は必要最低限の準備を整えると部屋を後にしたのだった。



 ◇◇◇



 姫様の気配が掴める、最低限の距離だけを残し追走をしていた。

 傭兵の親子が護衛している事は既に掴んでいる。雑魚の相手は彼らで十分。

 本当の問題は、彼らを裏で操っている闇なのだから。


 姫様を狙う雑魚共は人の切れ目を狙って仕掛けてくる予想へは容易に辿り着く。

 それは何事もなく傭兵親子に処分されるだろう。

 しかし、裏で動く奴らが本気になれば簡単な話ではなくなる。

 親子はどれくらいの規模の敵が動いているかすらも、ハッキリとは掌握できないだろう。

 



 そして――

 姫様達が短い自由から帰路に着こうかと言う時に、それは始まった。


 明らかに荒くれ者と判断出来る、それはそれは分かりやすい奴らが姫様達の背後へと集まり始める。

 その数は20人を超えている。

 少女2人に対して、あまりに多すぎる人数。間違いなく過剰と言える暴力。


 気づいた様子もなく歩く姫様達は、幸せそうに会話を弾ませている。

 その楽しみを邪魔しようとする彼らを引き止めたのは、彼らにはない圧倒的な存在感を持った親子。

 愚かな集団は、その2人の力を見誤り敵意を示す。


「逃げればいいのに、馬鹿な奴らだ」


 傭兵から出た言葉の通りに馬鹿な戦いに身を投じた奴らは地面に叩き伏せられていく。

 それはもはや戦いですらなかった。猛獣と昆虫では戦いすら成立するわけがない。

 ただ親子も、その戦いに集中している様子はない。明らかに意識が別のモノへと向いている。

 そう。本当の敵は他に居る事を気づいている。


(さすがに彼らも気づいてはいましたか。しかし――)


 ここからは私の専門だった。


「おやおや。私たち以外にも仕事中の方がいたのですか?」


 予想された存在の背後からの声に視線を送る。


「貴様らとは雇い主が違うがな」


 そこに居たのは目元以外は青い布で覆い隠す、誰が見ても怪しい人物と言わんばかりの存在。

 ただし、私自身もそれほど変わりはない。布の色が灰色なだけだ。つまりは同職業の人間。


「そうでしたか。どこの雇い主かは知りませんが、あの獲物は私達の物ですよ?」

「生憎、私はそれを邪魔する方なのでな。貴様らの思い通りにはならんだろう」

「ほうほう~。お一人でですか? こちらの戦力を理解されていないようですね」


 目の前の男が1人でない事は十分に理解している。


「15人と言ったところだろう?」

「素晴らしい。そこまで把握しているとは、少々あなたを見誤っていたようですね。しかし貴方は1人でしょう? あの姫様の護衛を合わせても3人。私たちは、あのごろつき達とは違いますが邪魔できますかね~?」


 目の前の奴はプロだ。当然、他の奴らもプロだろう。

 しかし――


「お前らは『マガットギルド』の手の者だろう?」


 饒舌だった男の言葉が止まる。

 わずかに見える瞳が見開かれるのを見逃さない。


「エルバルドの奴はまだ死んでいないのか?」


 今度の言葉が男にバックステップを踏ませる。

 

「貴様! 何者だ!?」


 それまでにない警戒を見せる男に覆面の下で笑いを浮かべそうになる。


「『灰色の死』と言えば理解してもらえるか?」

「は……灰色の死だと!? そんなわけはない! 奴は死んだはずだ!」

「見たような言葉だな。それを確認した者はいるのか?」

「もう7年以上前に死んだと聞いている!」

「だから、それを見た奴はいるのか?」

「ハッタリだ! 奴は任務に失敗して死んだと……」


 面倒なやり取りを続ける男に辟易としながら、懐から長年眠らせていた愛刀を抜く。

 その刃から放たれる光は鈍い。鈍いと言うよりも光を跳ね返しているように見えない言うべきか。

 わずか30センチにも満たない刃には波打つような黒い波紋が浮かんでいる。

 獲物の血を吸いすぎた為に黒く変化したとも言われるほど数々の役目を果たしてきた愛刀。

 そしてその刃は十分な証明として理解された。


「それは……なぜだ! 生きていたとしても、今まで裏の世界に現れなかった貴様がどうしてここに居る!?」

「必要な時が来たからかな?」

「クソがっ! どうせ今回は様子見だ! 今回は引いてやる! だが貴様がここに居る事と敵である事が分かった! 次の時は貴様の余裕を奪い取ってやるぞ!」


 捨て台詞と共に青い影たちは町の外へと向かい消えた。

 

「時代が動くかもしれませんね……」


 灰色の存在は口にした言葉を残し風の中に消えた。



 ◇◇◇



「ルナ! 楽しかったな! また今度も行こう!」


 2人は既に館の敷地内でナナカの次の外出を話し合っていた。

 自分たちがどれだけ危ない状況だったかも知らずに。


「出来れば次はカジル様にお伝えして出てきた方が良いのではないですか?」

「い……いや、ちゃんと伝えてきたぞ? だから問題ない!」

「で……でも……」


 ナナカはルナにゆっくりと指を差される。

 その行動の意味が理解出来ずに首を傾げる。

 

 ただ、その指が示すのが微妙にずれている事に気づく。

 そして指の先を視線で追っていく先には――カジルが真っ赤な顔で仁王立ちしていた。

 その距離はナナカの背後50センチ。


「姫様……!」


 その顔にはミミズが皮の下に入り込んだのではないかと言うほどに色々と浮き出ている。


「お……おうっ。カジルじゃないか……お、おはよう?」


 ナナカの挨拶に対して、カジルからの挨拶の返答はなかった。

 言葉もなく引きずられていくナナカを呆然と見送ったルナだったが、その後に現れた傭兵親子にルナはこう漏らしたと言う「カジル様って怖い」と。

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