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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
5章 ベルジュ防衛戦 後半
53/142

10 落ちた脅威

町に迫るミドアースと1万の獣蜂だったが、ナナカ達の行動により獣蜂たちに変化が訪れる。それは光への道筋なのだろうか?

 町へ向かってくる獣蜂は半数以下に数を減らしていた。

 落ちていない獣蜂は当然いるものの、その動きは鈍い。いずれ落ちてくることは誰の目にも確かといえた。

 

「おいっ、お嬢! これはどういうことなんだ!?」


 シェガードの、こんなに狼狽える姿なんて、そうそう見れるものではない。かなり貴重なシーン。もちろん、状況に戸惑いを見せている人間はシェガードだけじゃない。というよりもナナカ以外は理解している様子がない。


「あれは気化熱という現象だ」

「きか……ねつ? なんだそれは?」


 気化熱。それは液体が気体に変わる際に接する物体の熱を奪っていく現象。

 アルコールは、それが水よりも早い。更には魔法による上昇気流の発生により、あの周辺の気圧は低くなっている。風を当てられているだけでも気体変化は早いのに、その人工的な低気圧により加速的に効果は表れたという事。


 真冬とは言わないが日が沈み始めた今の時間であれば、あの周辺は相当に寒い筈だ。しかも奴らは飛んでいるのだから体温低下は更に著しい。体感温度は冬の季節のそれに近いだろう。


「詳しい事は戦いの後に教えてやる。状況としてはあの周辺の温度は急激に下がっている事だ。獣蜂達にとっては突然、冬が訪れたようなものだ。しばらくは、まともに動けないだろう」

「なんだかよく分からねえが、敵が減ったことは間違いない。あとはミドアースを何とかすれば勝てる見込みが出てくるな」

「それも考えてある。とりあえずは、このまま酒を投げ続けてくれ。ミドアースにも効果はあるはずだ」

「本当におもしれえな、お嬢は。任せとけ。投げるだけなんて楽な仕事ならいくらでもやってやるぜ。ちょっと酒が勿体ないがな」


 言葉通りに気温低下はミドアースにも効果が表れ始める。

 獣蜂のように動けなくなるほどの事はないが明らかに動きは鈍くなっている。

 それでも止まらないのは獣蜂の幼虫からの痛みによるものか、空腹からくる飢餓感からなのかは分からない。ただ、気温低下だけでは止まらないという事は間違いない。


(それも想定内だ)


 夢の世界と現実世界で、どれだけ違いがあるかは分からないが、あれだけの群れがミドアースを中心に移動をしているという事は指示を出している、もしくは群れの中心個体が居るという事だろう。つまりそれは女王蜂。


 ただし、ここから見る限りは、その女王の区別がつかない。いや、見えてないと考えるのが正しいのではないか?


 気化熱による攻撃は、それを確認するためにも必要だったのだ。もし女王が低温状況で地面に落ちる事があれば、その周辺に集まるはずだ。ところが減り続けているのに、ミドアースから離れる様子がない。そこから予想できる事は――


「マコト! ミドアースの体内で獣蜂が生存出来るだけの空間はあるか!?」

「空間ですか……? 幼虫ならまだしも成虫が生きていられる空間なんて……。もしかすると人間で言う肺にあたる場所なら可能かもしれません」

「肺か? それはどこだ?」

「ミドアースの前足付け根の後ろ辺りに、空気の吸排口があるはずです。あそこは肺に直接繋がっているはずです」

「たぶんだが、その肺に獣蜂の統制を取る主が居るんじゃないか?」


 これなら落ち続けながらも統制が崩れない理由としては納得出来る。つまりは主と思われる女王だけは他よりも安全な場所に居る為、低温地帯の影響を受けていないという事。しかし逆に女王の場所を特定出来たという事でもある。


「なるほど、姫様の考えが分かりました。その主である女王を倒せば統制は崩れて獣蜂は完全に崩壊するという事ですか。問題は幼虫たちはどう動くかですが……やってみる価値はありそうです」


(やはり主は女王か)


 昆虫の世界は女主権で動いていると夢の知識にあった。それは、この世界でも間違ってはいないのだろう。つまりは女王を倒す事は群れを討伐する上で絶対の条件。


「マコト、任せられるか?」

「申し訳ありません。無理です」

「えっ?」


 あまりに、あっさりとした返答。同時に作戦の崩れ去る音が聞こえ始める。


「何故だ!? お前の実力と武器を変化させた、あれがあればミドアースの攻撃を受けることなく、蜂の一匹を倒すくらい難しい事じゃないだろう!?」


 ここまで一度もマコトが攻撃を受けた姿を見ていない。吸排口まで辿り着けば、あの武器で体内であろうと鞭のように変化させて攻撃できると思っていた。


「確かに全力の錬金魔法を使う事がなくても、獣蜂が減っている今の状況であれば攻撃も受けませんし、倒すのも難しくはありません。ただし、それがミドアースの体内にいるのでは、どうにもなりません。あの銀を武器とする「変化武装」が使えるのは視界の届く範囲までなのです」


 それは女王蜂が本当に安全な場所にいるという事。

 

(甘かったか?)


 あまりに強すぎる姿を脳内に焼き付けられて、勝手な解釈をしてしまったミス。あれだけ複雑で強力な武器に変化出来た戦闘。眼に残るその姿が、ナナカの想像の中で万能性を高く昇華させてしまった。


「ただし、私は無理でも姫様なら出来るかもしれません」

「えっ?」


 自身でも無理だと言っている状況で、ナナカなら出来るかもしれないという言葉。


(ありえるわけがない)


 マコトの表情からは冗談で言っているようには見えなかった。しかし、マコトの次の言葉は自分が夢の世界の住人ではなく、この現実世界の人間なんだと認識させることにもなる。


「姫様が魔法を使えばよいのです」

すいません。10話までで終わる予定でしたが結局、終わりませんでした。もう少々お付き合いくださいませ。

2015.9.26

描写と表現の変更修正を致しました。

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