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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
5章 ベルジュ防衛戦 後半
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2 未来の敗北者

魚型の魔物「ウィッシュ」の強襲により、本来は優勢な状況へと傾いたはずの天秤は再び魔物側へと傾く中で、ナナカは飾りでいる自身に苛立ちを募らせるが……

 人間側に圧倒的に不利な状況で続けられる魔物ウィッシュの攻撃は自身達にも犠牲を出しながらも、その犠牲以上の効果を上げていた。


 勇者マコトと傭兵シェガードが先陣を切り魔物に対応する姿に奮起した一部の傭兵達が餌食となる。


 どうやら飛び交う魔物に剣を合わせようと試みたようだが、結果は思い通りにならない。なぜなら合わせただけの攻撃では威力が足りないからだ。弾き飛ばされれば良い方で、剣と一緒に体ごと持って行かれてしまう者もいた。もちろん、魔物側もただでは済まない。武器にまともにぶつかれば戦闘不能になるものも少なくない。


 それでも結局は四方から飛んでくる魔物に対応しきれる者は少ない。元の数が違う。魔物の自爆覚悟の攻撃に巻き込まれて同じだけの被害が出れば、先に不利になるのは人間側である事は目に見えていた。もはや人間側が戦場の敗退者になる事は時間の問題と思える状況だった。


「てめえらっ! 立つんじゃねー! 俺達2人でやる! じゃまするなー!」


 シェガードの不思議と戦場に響く声は傭兵の行動を規制する事には成功した。

 だが、当然ながら魔物の標的になる行為でもある。焦りが見える表情からは舌打ちが聞こえてきそうだ。反撃するだけの余裕はもう感じられず、回避する事と自身の体の前で武器で受け流すような防御に専念している。攻撃しなければジリ貧になる事は目に見えてきた。


(マコトの奴は……!?)


 ナナカの視線の先にいる勇者は、シェガードから距離を取っていた。

 防御する事が無力に感じられる攻撃に対して、一カ所に固まっている事は自分たちの動きを制限するだけなのだろう。シェガードと違う所は回避のみに専念している事だろうか。


(無理だ、2人だけでは……何か打開策が必要だ)


「ナナちゃん。また無謀な事でも考えてるんじゃないでしょうね? わたしとしては、ここから離脱する事を優先すべきだと思うの」

「それはだめだ! なにか、なにか……」

「でもね、あの2人がやられたら次は”わたしたち”が標的になるの。負けない戦いが大事な時もあるの。集落に散らばった冒険者たちが集まれば、何か手があるかもしれないのよ」


 確かにマコト程ではないかもしれないが傭兵達と冒険者では魔物に対する力はナナカが当初思っていた以上に大きい。冒険者たちならば、この状況でも対応出来るのかもしれない。


(だが!)


「嫌だ! 逃げない! どうせ逃げても追いつかれるだろう!?」

「いえ、この魔物は攻撃の時には飛び交うけど、通常時は這うように歩くの。移動の度に危険な方法を取っていたら種族が全滅しているの。それになぜ、あの2人がまだ生きていると思うの? 一度飛んだ魔物が再度飛ぶまでに時間がかかるからよ?」


 姉レイアが言う事が本当ならば、もしかしたら逃げ切れる可能性もあるかもしれない。ただ先ほどの不意打ちで犠牲者も出ている。つまり、明らかに戦力はダウンしているのだ。冒険者達がこちらへ向かってくる確信もない中で、見えない希望に手を伸ばすのは無謀ともいえる。


 それに夢の中で聞いた、ある言葉が不意に思い浮かぶ。

 「仲間が帰ってくるから次も来る」動物か何かの行動に関する言葉だったはずだが、これは当然ながら傭兵にも当てはまるのではないだろうか。


 「戦場から仲間が帰ってくるから次も来る」つまりは傭兵達にも帰るべき場所がある。帰らなければ傭兵ギルドは今後、ナナカの力になってくれないかもしれない。何よりも信頼には信頼で応えるのは、ナナカの夢の経験で当たり前として身についた考え方。


「王族だ? 上に立つ者だ? 生き残る事が義務だ? それがどうした!」


 ナナカは決断する。王族である前に人である事を選ぶ事を。


「お姉ちゃんは逃げてくれて構わない。だけど”俺には”やるべき事が残されている!」


 無意識に俺と言ってしまうくらいに強く自身の意思を口にしたナナカへ、レイアの静かな視線が刺す。


「ナナちゃん。また変なスイッチが入っちゃったようなの……。分かったの。ただし生き残ったら夢の話について聞かせてもらうの? って、聞いてなさそうね」


 既にナナカは魔物の動きを注視していた。周りの音も届かないくらいに。


 魔物は現在、戦場で立っているシェガードとマコトに集中攻撃している。伏せている傭兵や自分を標的にしていない。いや、出来ないのだろう。地面を走るのではなく空を飛ぶ事で高速攻撃を仕掛けている。先ほど姉が言っていたように地に伏せた相手への攻撃は苦手なのだろう。


 回避に徹している2人は多方面から攻撃されている今は厳しいが、もし単体からだけの攻撃ならば、きっと簡単に交わせるのではないだろうか。何故ならば速いとはいえ直線的だからである。ゆえに読みやすいのではないだろうか。


 そして攻撃力に関しては確かに、ここまでの魔物の中でも一番高い。代わりに爆発的な速度のせいで猪タイプの時以上に玉砕要素が強く感じられる。実際に、こちらに死者が出るほどの被害を初めて与えてきた魔物ではあるが、ほとんどこちらが対応出来ない中でも勝手に戦闘不能になっている奴も少なくない。


 となると、この戦いの問題は相手の数。

 つまりは長引くほど、こちらが不利。あくまでも、ここは戦場の中の1つの戦い。他の魔物がまだ残っているのに、ここで時間のロスは新たなる問題発生に繋がる。


(例えば魔法は?)


 ダメだろう。使えるのなら先程までの戦闘で傭兵達の誰かが使っている。この現実の世界には魔法があると言っても使用者はかなり限定されていると言っても良いレベルなのだろう。しかし先日、レイアは寝ているナナカの体から「魔力が漏れていた」と言っていた。そして、それを吸い取ったとも。


「お姉ちゃん! 魔法……魔法使えるんじゃないの!?」

「使えない事はないの。でも攻撃魔法は無理よ。攻撃魔法は放出系に属する魔法だから難しいの。マコトちゃんなら使えそうだけど……あの状況では難しいでしょうね」

「わ……わたしには出来ないのか!?」

「お姉ちゃんは使い方なんて教えられないし、言われて直ぐに出来る様になるものじゃないの。無理よ」


 現実の魔法を理解していないナナカは魔法に万能性、そして大きな期待と幻想を重ねてしまったのだ。


(安易すぎるのか)


 もう一度、魔物の動きを観察からやり直そうとした考え始めた時だった。

 自分の無力さに怒りを込める様に無意識に握りしめた「それ」が、今まで難しく考えて来た自分を笑いたくなるほどの閃きを与えた。いや、閃きと言うほどの大げさなモノではないかもしれない。

 

 次の瞬間、ナナカの起こした行動は姉どころか、その場に居た人間全員を驚かせることなる。


 「それ」を両手に握ったナナカは立ち上がる。そして――


「ここだー! かかってこい魔物ども! ここに柔らかくて! うまい肉があるぞ!!!」


 戦場に響き渡るその声は戦場にいるもの全ての視線を奪い取る。

 これがナナカにとって、自身初めての魔物との直接戦の火蓋となった。

ようやく次話で「ナナカ姫」が大きな出番を迎えます!

本当に防衛戦の前半では、お飾りそのものでしたから(笑)

ここら辺から頑張ってもらいます!

2015.9.22

描写と表現の変更修正を致しました。

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