+0.5 圧力
今回もやってきました「 メイドの園 」
前回は「メル」さんが主人公でしたが、今回はどんなメイドが活躍するのでしょうか? お楽しみください!
ようこそメイドの園へ。
皆様、こんにちわ。
ナナカ様のお屋敷でメイドとして、お勤めしているミーヤと申します。
年は13歳とメイドの中では最年少なんです。
淡い髪をツインテールしていて、ちょっと垂れ目でアヒル口が特徴です。
家柄は上級貴族の三女と血筋は悪くないはずです。
といっても三女程度では戦略道具としてしか考えてもらえないのが現実です。
王家で働いていたという肩書を持って嫁ぐのが決められた未来ではあります。
特に気にした事もないので「そんなものかな」って思ったりもしています。
とにかく、現在はここで眠れる姫様のお世話をする事が私の役目です。
ちなみに、ここで働き始めたのは大体3ヶ月前からでした。
あのメイド長の元で集められた他のメイド仲間と仕事に励んでいました。
そんなある日、眠っていただけの姫様が目を覚まされたのでした。
「ねね~、みんな姫様を見た見た~~?」
「可愛かったよね~」
「寝ている時はお人形様みたいだったのに、起きたら男の子っぽい口調でギャップがあって、なんていうか、わたし……きゅーんってしちゃったわ」
いつも着替え担当の中心人物である、メルさんが姫様について話し始めると一緒のグループの2人は待ってましたとばかりに話題に乗っかり、あっという間に他のメイド達も熱を帯び始めました。
残念ながら私は寝ている姿を部屋の掃除と加湿作業の時に、ちょっとだけ見た事がある程度で、今朝目覚められた姫様の様子は良く知りません。とはいえ、それは他の4人も同じなのに何故そこまで話題に入れるかと言うと、着替えの際に恥ずかしがる(?)姫様が悲鳴に近い声を館に響かせた事から、それを聞いたメイド達も興味津々で着替え組の帰りを待っていたようです。
「何それ何それっ!着替えを恥ずかしがって頬まで染めちゃうの!?」
「明日はわたしと代わりなさいよっ」
「じゅっ、じゅんばんよっ」
「明日が楽しみだわーーーーっ」
談話はヒートアップする一方。
なんというか、私は他の7人に置いて行かれ気味なのです。
それというのも彼女たちは一番若い方でも15歳。つまりは自分よりも2つ以上、年上なわけで……メイド達の中で完全に妹的な立ち位置の私はお姉さま方の会話から置いて行かれて、放置され気味なのです。もちろん、わたしだって気にならないわけがありません。
「わ、わたしもっ、わた……うくっ!」
輪に入ろうと努力を重ねるものの、お姉さま方の「けつ圧」はわたしには太刀打ち出来ないレベルで、外へ外へと出されて会話どころではないのです。
これは完全にスタートミスの上、力の差も歴然としています。諦めるしかありませんでした。
◇◇◇
翌日
入れ替えされた着替え部隊4人の興奮は昨日以上でした。
「なに~~っ、あのかわいい姫様の恥ずかしがり方っ!」
「ダメっ! わたし、なんだかそっち方面に目覚めるかもっ」
「今日着用の下着を見た時の、あのお顔……!」
「わたし、姫様みたいな妹が欲しかったかも……」
これでわたしは着替え話題に「1人だけ経験していない」状況で挑む事になるのです。
はいっ。まずいです!
でも、今日は作戦を考えてあります。なぜなら……今日は既に輪の中に入っています! いえ、というよりも中心部分に陣取っていると言ってもいいはずです! はず……はずなのですが……。
「あしっ、あしたっ、あっ……うっ……!」
お姉さま方を侮っていました。
まず、わたしは13歳でただでさえ他の方よりも若いと言うのに成長が遅いせいもあり、他のメイド仲間よりも30センチ以上低いのです。つまりは……今日の敵は「胸圧」。
「はなっ、しっ、きい……て……!」
わたしの願いは空しく、お姉さま方の14個の山の渦に埋もれて行ったのでした。
◇◇◇
3日目
今日は5人で行ったそうです。
もう、わたしは諦めました。
わたしにはお姉さま方の様な、魅力的で力強いお尻はありません。
わたしにはお姉さま型の様な、足元が見えない山脈ような胸も持っていません。
「どうせ、わたしは魅力的な、あれも、それもありませんよ……」
姫様の話題に入れずに1人でメイド待機室の隅で「真っ直ぐに足元を見れる」自分の両胸に視線を落とすのでした。
「はぁぁぁ~~~」
落ち込みを含んだ溜息は、更なる深みへと心を誘うのでした。
しかし、世の中はそんなにひどいものではありません。
「何してるのよ。ミーヤちゃん」
突然、背後から掛けられた声に子猫の様に飛び上がる仕草をしてしまいました。振り向いてみれば、そこに居たのは――
「「「「「「「明日はミーヤちゃんの番だよっ!」」」」」」」
わたしが隅でいじけている間に、お姉さま方はわたしの事も考えてくれて出番を準備していてくれたのです!
「みっ、みなさま……っ!」
不覚にも13歳にもなって、うれしさに頬に温かい物が流れるのを感じてしまいました。
「ああああっもうっ。ミーヤちゃんったら、姫様に負けないくらいにかわいいんだからっ!」
「ミーヤちゃんだって、わたしたちの大事な妹分だよっ」
「姫様とミーヤちゃんの掛け合わせって……最高の絵になるかも!?」
なんだか最後のメルさんの言葉に違和感を感じたりもしましたが、みなさまの優しさはわたしの小さな(?)胸に響きました。……小さくても胸です! ないわけではありません! えっと、角度を変えれば、こう……出ていない事もないはず? ……うん! 胸! ……はい、ちょっと寂しくなってきました。とにかく明日こそはわたしの出番!
◇◇◇
4日目
「「「「ナナカ様!本日もお仕事に入らせて頂きます!」」」」
3日目には5人で行われた着替えも、さすがに多すぎると4人に戻されたのですが前日の予定通りに、わたしの出番を取り消される事はありませんでした。
起きている姫様に近寄るのは本日が初めてでした。気になるのはメイド達を見ただけで明らかに動きの硬い様子の姫様。お姉さま方は恥ずかしがっていると言っていましたが、これは怖がっているように見えるのはわたしだけでしょうか?
「今日くらいは、自分一人でやらせてもらいたいのだが……」
今にも消え去りそうな声で意志を伝えてくる姫様に、一番楽しそうにしているメルお姉さまが準備していたような言葉を口にするのでした。
「姫様。ここにいるミーヤは、本日初めて姫様の着替えの仕事をする事になったのです。それなのに「その仕事」を取り上げるおつもりなのですか?」
この言葉で姫様は抵抗する意志を失い、ウサギの様に小さくなって瞳をうるうると悲しそうな顔をされました。
「メルお姉さま……」
止める言葉を続ける事が出来ませんでした。
お姉さま方の獲物を前にした、魔物の様に嬉しそうな顔を見てしまっては。
「「「では、お仕事に取り掛からせて頂きます」」」
抵抗が低くなった姫様の状態を確認出来たとばかりに、わたし以外の3人の合図によって、それは始まったのでした。
わたしも遅れてはいけないと、3人の後に続くように仕事に入ります。姫様は声にならない様な声を出しているようですが、始めた仕事を途中で投げ出すわけにはいきません。お姉さま方に負けじと、わたしも上の方の着替えに取り掛かりました。
その時でした!!! わたしに今年一番の衝撃が走ったのは!!!
(ひっ、ひめさま。7歳になっていないのに……! 小さなふくらみがっっっ!!!)
それは驚きと悲しみ……そして大きな敗北感……。
「だ……だれだ……今日も揉んでいるのはっ!??」
姫様からの苦しそうな声に自分が知らず知らずのうちに両の手が姫様の、それを覆い隠す様に触っている事に気づいたのでした。
「し、しつれいしましたっ!」
(無意識に欲しそうに触ってしまった……。王族に対してこれはまずいかもっ! って、あれ? 今日も???)
「姫様。いつも伝えている通り、こうなってしまうのは着替えの仕事では仕方がない事なのです」
メルお姉さまの当然の様な言い訳に反論も出来なくなる姫様。
(えっ? そんなおかしな言い訳が通るの……?)
悔しそうな姫様の表情を見る限り、何時もこれで納得させられてしまっているようです。少しばかり申し訳ない気持ちを持ちつつも仕事は続けられ、終わったころには頬を染める可愛いと噂の姫様を見て満足するメイド達が居ました。どうやら、わたしにお咎めもないようです。
そして挨拶も終えて廊下へと移動したメイド達は待機室に戻る時間も待てずに姫様の話題に入るのでした。
「今日も姫様もかわいかったよね~~~」
「そうそう。終わった後の、あのお顔が溜まらないのよね~」
「そういえば、ミーヤちゃん。姫様の触ったのよね?」
「そうだったわね」
「「「でっ、ミーヤちゃんと、どっちが大きかったの!?」」」
そう言ってくるお姉さま3人の目は姫様を見る時の目と同じ様に見えました。
「えっ……。もちろん。13歳の私の方が……」
「「「本当かな~~~?」」」
声を合わせた3人の手は何かの触手の様に器用に動きながら、わたしへと迫り、近寄り、にじり寄り……。
そして姫様に続く声にならない、わたしの絶叫が館に響くのでした。
誤解がないように言っておきます。
わたしは成長期です。今後たぶん成長するのです。これからのはずです。きっと……。
「神様! お願いします!!!」
こうしてメイド達の園は、一部の人間を犠牲に成り立っていくのでした。
めでたくないめでたくない。
ミーヤさんはどうでしたか?
一部の方に人気が出そうですが、メルさんの方が好きな人は多いのかな?
今後の活躍に期待してもらえると何よりです。
2015.9.19
描写と表現の変更修正を致しました。




