7 戦いの流れ
何かを隠す姉レイアに不信感を感じるナナカ。
しかし、問う時間すらも魔物達は与えてはくれなかった。
生命の終りを示す紅い花は1つではなかった。
ざっと見たところで100を超えている事はナナカの位置からでも確認出来た。
そしてそれに群がる狩りを終えた強者の姿。
耳に届く咆哮は勝者の権利。
最初に目に入ったのは、6m近い虎の様な体と自身の頭よりも大きな2本の牙。ナナカの知識ではサーベルタイガーと呼ばれる獣の姿に似ている。夢の世界の絶滅種の図鑑で得られた知識。
(夢の中の生物が現実に? いや、現実の世界の知識が夢に影響している?)
夢と同調する現実の映像に戦場で場違いと言える疑問を捨てることが出来ず、自身が見た夢の世界について、ここに至り答えを欲し始めた。
(そもそも3ヶ月の睡眠中に、あれほど長いの夢を見る事が可能なのか? 数日前に姉レイアの言っていた「夢の世界の経験」を「糧」にすると言うのは一体?)
考えに浸り現実から逃避している少女を元の世界に戻したのは姉レイア。
「ナナちゃん! 危ない!!」
掛け声と共に引っ張られた左腕は関節が抜けてしまうのではないかと言うほどの横への加速をナナカに与えた。
横を抜けて行くのは大きな何か。
「何ぼーっとしているの!? シェードが居ないんだから、しっかり自分の身は自分で守りなさい! ナナちゃんが怪我なんてしたら、シェードが責任を感じる事になるわよ!?」
ナナカがお願いをしたとは言え、護衛対象を放置して場を離れたことは事実。とはいえ、シェードが責任を感じないような人間には見えなかった。レイアのいう事は間違いではない。
「ミゲル!! こっちはいいから、お嬢の方を頼む!」
「ああっ任せておけ! 俺が抜ける分は、お前がしっかり働けよ!?」
「いいから早く行け!」
駆け抜けて行った大きな何かが方向転換をして、こちらへと顔を戻したのは傭兵ミゲルが立ちふさがる動きを見せた時。既に、その大きな何かは意識を王女姉妹からミゲルへと向けられていた。
明らかにサーベルターガータイプとは違う魔物。体長は3m程と二回りほど小さいものの先度の動きを見る限りはスピードは上かもしれない。その顔には敵を噛む為ではなく、敵を刺す為と思われる牙が上下にではなく前面に飛び出している。
(猪!? サーベルタイガーに続いて!?)
先ほどの様な隙を見せるような事はなかったものの、顔に浮かび上がるのは驚きの色。ナナカの表情など魔物にとっては当然関係はないのだろう。今度こそは確実に仕留める為と頭を下げて助走体制に入る。
駆け付けて立ちふさがるミゲルは姉妹に取っては唯一の盾であり槍。他の傭兵には助成に駆け寄る余裕などないのだろう。先程まで戦っていたケダルとは違い、一撃必殺を全身に乗せた攻撃は常に捨身であり、それを防ぐ方もそれだけ危険が増す事はナナカでも分かった。それが間違いでないことは、ミゲルから感じる荒々しい息遣いが物語っている。
姉妹の見つめる中で2つの影は声を上げることなく、十分のあったはずの距離を最初から密着していたのではないかと思うほどのスピードで重なり、牙と剣の異種の武器による火花を散らした。
高い金属音が響く中で膝を地面に落としたのは――武器と膝が折れたミゲルの方だった。折れたであろう剣先が、それを振るった本人の腕の付け根から芽を出す様に生えて、紅い液体がそれを濡らしていた。
「ミゲルー!!!」
誰から出た声か分からなかった。
ただ、その声は状況の流れが魔物に流れている事を示すかのように、続いて響き渡る魔物の声に圧殺されて消えた。
2015.9.16
描写と表現の変更修正を致しました。




