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いつものチョイ話です。
ある日のある時のある話になります。
本編から少々時間軸がずれてきますが、今後に関わってくる大事な話になります。
おっと、誰かが来たようだ。
人間生きていれば、こういう経験もあるってことか。
今回のお客様が求めてるものは複雑な状況を打開する力ってところだな。ただ残念ながら、そんな便利な力は世の中にはない。いつも複雑な状況を解決するのは人間の想像力と経験だ。そういう意味で言えば少しは力になれない事もない。
そうそう、自己紹介がまだだったかい?
そう長い付き合いになるわけでもなさそうだし、そうだな……。人によっちゃあ「空の錬金術師」って言われる事もある魔術師なんだが、このお客様は知らない可能性が高そうだな。ともかく、お客様の望む力を与えるなんて神様みたいな事は俺にはできねぇ。だから経験って言う形で力になるくらいで勘弁してもらいたいところだ。
しっかし、このお客様は静かだねぇ。まあ無理はねぇか。それでもなんとなく伝わってくる相手の気持ちって言うのは、変人扱いされる事もある俺みたいな魔術師には貴重な体験だ。まあ、今から「見せる」経験は、そのお礼って事だと思ってくれればいいぜぃ。
そうだな折角だから魔術ってやつを教えてやるか。
こいつはむか~~しに環境の変化に対応するために人間が繰り返した実験の副産物なんだが、実際には副産物の方が役にたっちまったって言う笑える話なんだが、あん? それはいいのか? じゃ、飛ばすかねぇ。
とにかくだ。魔術の元になる魔力ってやつは生物であれば誰でも当たり前に持っている生命力みたいなものさ。わかりやすく言えば、死にかけている人間が弱気になると本当に簡単に逝っちまう。生きるんだって強い意志を持っている奴ほどしぶとく生きるだろ? これが生命力であり魔力の源ってやつさ。
人生経験の多い奴ほど、これが強くなる傾向にあるんだが……これが難しい所でねぇ。長く生きていればってわけじゃなくて、濃密な経験が多ければ若いうちにそれを身に付けちまう奴がいるんだなぁ。中には幼少で大人顔負けの力を示すやつもいるわけだが、お客様もその口だったりしてな。まあぁ「見えない今回みたいなお客様」なんて、そうある事でもない。こういう想像するくらいの楽しみは許してくれよ?
それで、お客様は全く魔術を使えない部類なのかねぇ。その方向でやってみるか。じゃあ、まずは魔力の感じ方からさ。生命の流れってやつを感じた事はあるかい?
よく人間を1つの生命なんて馬鹿な考え方をしている宗教があるが、あれは無知で馬鹿なやつらだ。人間ってやつは生命の集合体さ。そして、とんでもない数の小さな生命に指示を出す役目をしているのが魔力ってやつさ。
じゃあ、その流れを逆にしたらどうなるんだろうね? とんでもない数の生命から魔力を分けてもらったら大きなものになるとおもわねぇか?
つまりはそれをどれだけ上手く運用するかで魔術の強さってのは決まってくるが、それが全てってわけじゃない。そこが魔術の面白みってやつだ。今後も追及していく価値があるように見えてこないか?
とにかく、昔に科学って言われてたものの延長線上にあるのが、俺の使う錬金魔術の基礎なんだけどよぉ、まぁ魔術の中でも一番真理に近いとは言われている。俺の所に来たのはラッキーだったと思っていい。いい経験になるぜぇ。じゃ、実践行こうか。
まずは体の感覚ってやつを感じた事はあるかねぇ。たとえば痛いって感覚だ。どこの部分がどのくらい痛いかってぇ細かく感じるんだよ。そうだなぁ……よく初めの頃は指と爪の間に針を刺すんだよ。一番感覚が優れていて感じやすい部分を刺激出来て、生命と魔力の流れを掴むには最適だって言われている。
おっと、今回は俺も痛い経験なんてしたくもないからやらないぜ? たぶん、お客様の今の状態なら魔力の変化も感じ取れるだろうから問題もないだろう。じゃあ……。
どうだい? 今、魔力を循環させているよ。一般的にこの状態を魔術を練るって言うんだが強くなれば人によって体から洩れる魔力で発光する事すらあるからな。そんな奴を敵にする事だけは避けろよ。ちなみに俺もその部類さ。これは自慢だぜぇ!
まあ、ともかくだ。簡単にこの感覚を味わえたお客様は、もう魔術を練る事が出来る様になったかもしれねえな。後は「魔力機構」って言う闘法があるんだがぁ、魔力で体を動かす方法の1つさ。これは簡単には出来ないかもなぁ。人は無意識下で体を動かしているだろう? それを意識して部分部分を動かすわけだ。
例えば歩くって動き一つでも、とんでもない数の行程が必要なわけだが、この方法は1つ1つ意識して魔力を送る事で体を強引に身体能力を向上させるわけだが、こればっかりは鍛錬が必要だねぇ。やるなら頑張ってみるこった。
そして、いよいよ魔法についてだが、さっきも言ったように想像力と経験が必要だ。この想像力はある意味で素質的な意味合いが強い。体内にある魔力を外へ具現化させる必要があるからなぁ。「想像出来なきゃあ、創造も出来ない」ってな。これは大事だから覚えておけよ?
もう1つの経験についてだがこれが厄介でなぁ。不思議なもんで人生経験が必要で魔法の経験ってわけじゃないんだよなぁ。だから年を取った魔術師の方が、より強い魔法を行使する事が多い。そういうわけで別名で「精神経験」とも言われている。もしかしたら、お客様は今回みたいな経験を繰り返しているならあるいは……。まあいい。早速つかうぜぇ?
魔力が手のひらに集中するのが感じられるかい? これは具現化させる準備段階さ。十分に蓄積することが出来れば、後は具現化するだけ。どんな魔法を具現化させるかは、さっきも言ったように想像力だ。
人によっちゃあ、言葉を発して使用するやつもいるけど、そこらへんはそいつ次第さ。俺はあまり好きじゃねえから黙って使う派だ。相手にわざわざ魔法を使いますよって宣言しているようなもんだからな。とはいえ、たしかに使う魔法を言葉にする事で想像する事も容易になって、具現化を強くしたり早くしたりする事が出来る奴も多いからな。個人の好みに任せるしかないな。
おっと、言い忘れていたけどな、得意な魔法ってのは意外と本人の体のどこかに適正って言うのが現れたりしている。代表的なのは髪の色とかだな。お客様はどこかにそれが現れているなら、今言った事は参考にすると良いぜぇ?
さて、腕に十分に蓄積したこの魔力だがな。具現化するのが難しかったら魔具を使うのも手だぜぇ。コツを掴むのは難しいとは言わないが簡単とも言えないからな。もちろん俺はそんなもの必要ないからなって……おっおい!! 話の途中なのにどこに行くんだよ!? なんて半端な奴なんだ! おいぃぃぃぃぃぃっ!
◇◇◇
息苦しい。
口を何かに塞がれているかのようだ。生暖かい何かが口の中で蠢いている気がする。俺は……私は……そう、ナナカ。第三王女シャールス・ベイル・ナナカ。
たぶん、今日は消光の森の火事発生の翌日だったはずで朝だろう。消火作業に成功したとの連絡は入っていない。
今のは夢だったのか?
長い眠りから覚めたあの時以来の夢?
夢にしては随分と現実感が強い気がするがなんだったのだろう?
それに妙に疲れと脱力感の感じる今の状況は関係があるのだろうか?
口に感じる感覚に強制的に意識が回復していく中で、ぼやける視界に飛び込んできたのは人の顔。口に感じていたのは、その人物の同じ部分。
「うぐぐぐぐっ。やめろっ!!!」
ようやく覆いかぶさる人影を両腕で押しのけ、自身の唇を奪っていた人物を確認する――それは姉レイアだった。
「お姉ちゃん……?」
「ごめんねぇ~。あんまり可愛い寝顔に、ついついキスしちゃったの。とてもおいしかったわよ? 御馳走様でした」
「え……えええええええええええええ!?」
つまりは夢から強制的に意識を覚醒させたのは姉妹からの濃密なキスだったという事。美女と言っても誰も反論しないであろう、姉レイアからのキスは世の男は誰もが望みそうな高級品。29年を男として生きた経験のあるナナカに取っては「ご褒美」と言えなくもないが、同じ女性で姉妹からと言う事実から考えればショッキングな事件にもなりかねない。
「あら~ナナちゃん。そんなに喜ばなくてもいいのに」
「いやいや……! もちろんよ……違う! なんで女性同士、姉妹にあんな濃厚なキスで起こすんですか!?」
「眠り姫を起こすのはキスでって決まっている・も・の・な・の・よ!」
(これは何を言ってもダメそうだ)
姉の壮絶な性格を直接感じて、手に負えない事に諦めの表情を見せるしかない。何よりもこの人は何を目的にここへ来たのだろうか。
そんな赤毛の少女の思いを気にした様子もなく姉は会話を続ける。
「ナナちゃん。ま・た・夢見てたでしょ?」
「え? なんで分かるの?」
「そっか。教えてもらっていないのかな?ななちゃん前に「また死にたくない」って言ってたでしょ?」
「そんな事言ってたっけ……?」
(言っていたかもしれない。でもそれがどう関係あるんだろうか?)
「これは私たち王族だけの危険な力に関係してくるの」
「危険……?」
「私たちはね。夢の力を持つ一族なのよ」
初めて聞く言葉。しかし全ての糸に繋がっているかもしれない言葉。
一瞬、自分がどこにいるか分からなくなる程に動揺してしまった。
「夢の力はみんな別々で色々あるんだけど、たぶんナナちゃんが持つ夢の力は「夢を糧にする力」。とても危険な力よ」
「どうして、そんなことがわかる?」
「今までも一族で同じ力を持つ人間は少なくなかったの。ただし、夢の世界での経験を自身の糧にする事は精神に大きく影響を及ぼす事になるの。特に夢の世界で死んだりすると現実世界でも死んだりする事が多いの。だから、ナナちゃんが「また死にたくない」って言った時は驚いたの」
つまり、29年の男としての経験は自身に大きな影響を与えているという事。海で溺れた、あれは下手をすれば本当に死ぬ事に繋がっていたという言葉。
「夢の中で死んだのね?」
「う……うん。溺れ死ぬ夢を見た」
「必ずではないけどね。力が強い程、影響を受けやすいから気を付けてね? 今だって魔法も習っていないはずの寝ているナナちゃんの体から魔力が漏れていたのよ?」
「えっ!?」
「お姉ちゃんが魔力を口から吸い取ってあげなかったら、結構大変な事になっていたかもしれないわよ? と言っても口じゃなくても大丈夫だけど、そこはお姉ちゃんへの報酬ってことなの」
(口じゃなくてもよかったのか……しかも)
「ほ……ほうしゅう……」
もしかすると現実世界でのファーストキスを姉に奪われたかもしれない事実に、これほどのショックを受ける事になるとは男の人生では分からなかった事だった。
(ファーストキス? ディープファーストキス?)
繰り返される言葉に頭の中が埋められそうになる中で、いつものそれはやってくるのだった。
「「「「ナナカ姫様!! 今日もお仕事に入らせて頂きます!!!」」」」
もはやドアのノックすらも無くなり、今日も掛け声とともに入室してくるメイド達の姿は、ナナカにとっては本日も恐ろしい存在に感じられた。
「け、今朝は色々あったから、じぶ……」
「あら皆様、遅かったじゃないの? あんまり遅いから先に来てナナちゃんから目覚めのキスもらっちゃったわよ?」
その言葉を聞いたメイド達は夕焼けの空の様に顔を変化させ喜声を上げる事になり、いつも以上にやる気に満ちた行動を開始する。幼い姫の助けを求めるような叫び声は本日も館に響いたのだった。
こんな毎日が平和だったんだなと思う出す事になるのは翌日。魔物との戦いへと赴く馬上での事だった。
さて、少しは魔法に関して理解を深めてもらえたでしょうか?
そして今回出てきた人物も予想出来る人がいるのではないでしょうか?
ちなみに「メイドの活躍が少ない!」って思う方は彼女たちに応援を!
2015.9.12
描写と表現の変更修正を致しました。
ですよね?




