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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
4章 ベルジュ防衛戦 前半
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4 シェガードの戦場

傭兵の娘シェードが離脱する中で、大将同士の戦いは続けられる。

傭兵シェガードの笑みの意味とはどこにあるのか?

 ナナカからの願いを受け入れ、シェードが戦場を離脱する中で、その行動さえも予想の範疇だったかのように動揺も見せずに戦い続ける傭兵シェガードは、魔物からの攻撃を危なげなくかわし続け続ける。ただ有効な攻撃を魔物に与えている様子はない。


 自分達の首領がさしたる攻撃を受ける様子もない事から、後方で控えている魔物達も傍観の体制を崩す事もなく、動きを見せていなかった。


 双方ともに膠着状態に近い状態を保っている事はナナカにも分かる。そして恐らくはシェガードが作り出している状況である事も。


(シェガードの心配は要らなさそうだ。こちらはこちらでやる事しなければな)


 シェードが離脱したために部隊の報告については副官的な立場と見られる「ミゲル」と言う男から確認した。


 ここまでの戦闘で多少の怪我人が出てはいるが死者はいない。対して魔物側も何匹かが戦闘不能と見られるが、まだ多くは残っている。もちろん現状は押している様にも見える。


 一つ問題があるとすれば、こちらは魔力消費を続けながら戦っている。

 長引くほどに不利になる事は明白であり、巨体から繰り出される圧倒的に攻撃力の差のある相手。更には傭兵は対人のプロであり魔物のプロではない。魔物との相性の悪さも精神的に影響が大きく、魔法力の不安定化も生むかもしれないと、聞けば聞くほどに暗くなる点ばかりだった。


(予想以上の苦戦か……)


 明るい話もないわけではない。

 シェガードが首領との戦いを長引かせれば回復をはかることが出来る。

 その回復とは文字通りに魔力機構を利用して軽傷程度であれば治すことが出来らしい。ただし、これには条件がある。他人の魔力では拒絶反応を示す為に自身の魔力で治すしかない事と限度がある事。つまりは重傷者と言うのは魔力機構で治せる範囲外の者という事だ。


 全快までは届かないとしても、消費の激しい戦いを強いられる状況に一呼吸入れたシェガードの選択はありがたかった。


 ただもちろん、言っても後から押し寄せる別の魔物集団が何時来るか分からない状況では、それが最悪の結果に繋がる事も考えられるのだ。つまり、この戦いは「消耗と時間」というバランスの難しい天秤。一つ間違えば傾き崩壊する。


(そろそろ、シェガードの笑みの意味を全て知りたい時期だ)


 その視線を向けられている傭兵は度々こちらの状況の確認も行っているようで、何かタイミングを図っている事はナナカにも分かっていた。当然、こちらの心配そうな視線に気づいるはずである。彼はいつもの笑みを、ナナカに向かって送ってきた。あれは何かを企んでいる顔に間違いないと確信した時だった。


 戦場に変化が起こり始める。

 シェガードが大げさに剣を振った。

 あまりにも露骨で相手の首領に当たるとは思えない。何よりも先程まで剣の動きの見えなかったナナカですらギリギリとは言え認識出来るほど。


 そのオーバーアクションから繰り出される剣は当たれば大ダメージは確実に見えるが過剰な力みは俊敏さを失う。その程度の事を歴戦の傭兵が分からないはずはない。


 当たるわけのない攻撃に何かを見つけ出そうと魔物を見るが、やはりと言うか魔物の方ですら意外な攻撃に拍子抜けをしているようにすら見えた。ナナカが困惑を見せる中で周りの傭兵達は、シェガードのやろうとした事。いや、「やった事」を理解しているようで1人だけ取り残された雰囲気すらあった。


(どういう事だ?)


 傭兵ミゲルが疑問を浮かべる姫様の疑問に答える様に首領と別の方向を指で指す。どうやら彼らとは見ている風景が違っていたのだ。


 指された方向には戦いを見守る別の魔物がいた。その額の後方からは霧を作るように赤いモノを吹き出し、座り込むように崩れた。それを見ても状況が理解出来ない。


(間違いなく、シェガードの剣が届く範囲ではなかった)


 ナナカだけでなく、魔物達の方も仲間が倒れた状況を理解出来ずに声もなく倒れた仲間に不可解な視線を送っている。


 そんな状況でも当然の様に1人と1匹の戦いは続けられていた。変わらずに大振りを続ける人間に警戒心を強めるドンケダル。だが倒れた仲間の事を見ている余裕がなく、急激な戦いの変化についていけずに対応は遅れている様に見えた。シェガードの方は、それに遠慮する事がなく大きな空振りが続き、その度に魔物が1匹づつ崩れ落ちて行く。


「どういう事だ? 何かしているのは分かるが魔法を使っている様子もない。あの大げさな大振りも相手に当てる事を狙っているようには見えない」


 そう倒れた魔物に向かって空振りをしているだけにも見えた。たぶん狙いは魔物の首領ではない。


「姫様。しっかりとシェガードの剣の根元を見ればヒントがありますよ」


 簡単に答えをくれないミゲルに、ナナカは口を尖らせながらも言われた部分に集中する。


(……剣の側面で攻撃している?)


 見えたが意味が分からないとばかりに視線をミゲルと交錯させると、目の前で戦っている傭兵が良く見せる、悪ガキの様な笑みを浮かべながら「ぎりぎり合格点ですね」と口にした。


 「傭兵は子供っぽい奴が多いのか?」と口にしそうになったが黙って説明を待つことにする。これが夢の経験による余裕と言うやつだ。


「あれは剣の側面で攻撃している訳ではありません。剣を振る前に刃の根元に、ある物を仕込んで剣を振る事により側面にある溝を走らせて飛ばしているのです」


 簡易性の砲弾のようなもののようだ。シェガードの膂力と剣の遠心力を使った遠隔攻撃。側面を向けての攻撃は恐ろしい程の風の抵抗があるだろう。だからこそナナカでも、ギリギリで認識出来る剣筋だったのだろう。とは言え、あの体格と剣から生み出されるそれは、あの魔物の頭を貫通するほどの威力を持っているという事だ。


「大げさな動きと剣筋から相手が油断しているか密集している時くらいしか当てる事は出来ません。その状況を作り出す為の首領との決闘だったのでしょう。シェガードの奴が生み出した戦場です」

「巧みな誘導と戦場作り、そしてそこまでの行程。なるほど、ゴールドクラスと言われる実力に偽りはなしか」

「もっとも普通の人間なら、あんな馬鹿げた武器の使い方は出来ませんよ。出来るのは、あいつくらいなものです」

「このまま全滅させてくれると助かるが……」

「姫様。それは無理でしょうね。そろそろ相手も気付き始めました。怒った奴らと戦いが再開されますよ」


 言葉通りに魔物達は行動に移し始めた。見えないほどの速さで飛んでくる「何か」に仲間が倒れる中で危険の察知と怒りが叫びの共鳴を生む。


「戦いの再開だ! みんな! 頼んだぞ!」


 ナナカは相手の叫びを受けて張り合うように声を出した。

 

(氷上の戦場にようやく春の風が来た!)


 シェガードの企みが多くの敵を葬り去り、2対1以上の状況へと導き、勝利への道が開かれ始めたのだった。

シェガードのオリジナル武器投入です。

どうでしょう? オリジナル性は出せたでしょうか?

他にもいくつか武器は出てくる予定ですが、オリジナル武器って難しいと感じる今日この頃です。

2015.9.11

描写と表現の変更修正を致しました。

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