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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
4章 ベルジュ防衛戦 前半
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2 戦闘+魔力

魔物との戦闘は始まったばかりだった。

冒険者ではなく、対人のプロである傭兵がどこまで魔物に対抗できるのだろうか?


 戦場に場違いな少女が居る理由を知らない人間が見れば、逃げ遅れて親とはぐれたと思われるだろう。逆に知っていれば知っているで何も出来るわけもないのに、なぜそんな事をすると正気を疑われるのではないだろうか。


 人間とは自分に理解出来ない他者を見る時に自分が普通であろうと振る舞う為、その他者を貶める事により精神的な防衛を図ろうとする。それが差別や虐めに繋がるわけだが、それを認めてしまえば自分が悪役になる為に、これすらも回避しようと周りも自身の意見に同調させようとする。こうして派閥社会が出来て行くわけであるが、その差別の対象の中に独創性や新しい発見をする者が現れる事が多いとは、なんという皮肉だろう。


 話は逸れてしまったが問題は、この戦場にいる子供に分類されるナナカ王女が、その皮肉と見るかどうかは歴史の専門家が記す事だ。今は言えるのは少女の存在は間違いなく、防衛隊の士気を上げている事。そういう意味では戦場にいる意味は十分に果たしていた。


「シェード。戦況をどう見る?」

「かなり優勢に運んでいると思いますけど、疲労もそろそろ見えてくる頃です」

「少しづつ不利になる可能性があるという事か?」

「このままなら何とかなるでしょうが、想定外の事が起きればそれに対応するのは難しそうです」

「今のところ私には、これ以上に駒が無いからな。ギリギリの綱渡りを続けるしかないという事だな」


 戦場は2人の視線の先で当初の予定よりは善戦しているように見える。もちろん、初めて魔物との戦場を見るナナカにとっては相手は思った以上に大きく俊敏であった。


 最初に地面を赤黒く染めたオオールは、その後は現れなかった。女傭兵シェードによれば弱い部類に入るオオールの大多数は敵が少ない集落の方面に移動したためだろうと言う。戦い慣れた人間であれば、それほどの脅威にならないとしても一般の民衆にとっては脅威になる事は間違いない。


(勇者や冒険者を集落に回したのは正解だったか?)


 ナナカの手配は間違いなく集落の被害を減らせるはずだった。しかし多数対少数の戦いで少数派が戦力分散などは下策である。他の支配者から見れば集落を捨てて町に戦力を集中する事は当然。きっと、所詮は子供で戦場を知らない愚かな人間の所業だと馬鹿にする事だろう。ナナカとてそれが頭に無かったとは言わない。


 だが、目に見えるところ、手の届くところ、助けられる可能性は捨てたくない。その思いを変えたくない。今後も変えるつもりはない。ナナカの思いに応える様に傭兵たちは奮戦していた。ただし戦いは特撮映像でも見ているかのような光景だった。


 相手にしている魔物は記憶の中では熊と言われる動物に近かった。こいつを「ケダル」というらしいが先ほどの魔物と違うのは大きさ。人間が並ぶとその足で踏みつぶされそうな程に大きい。5mに届こうかという高さから振り下ろされる腕は、当たるだけでどこまで飛ばされるかわかったものではない。


 もっとも、その腕から伸びる爪は切り裂く為にと言うよりも、ひっかける為に備えられたような形状であり、実際には飛ばされる事はなく捕まえて確実にトドメを刺す為のものだと理解出来た。


 ただし特撮の様だと思ったのは、そちらではない。傭兵たちの動きの方だ。飛び上がれば「ケダル」の頭上を超えて剣を振り下ろす事も出来、走る姿は早送りの映像を見ているかのようだ。当然、武器の軌道などはナナカには見えてもいない。つまりは人間の限界を超えている。


「シェード。初めて戦闘を見るが、どれほど鍛錬を積めば、あの域に達すると言うのだ?」

「鍛錬は人によっては差が出るとは思います。魔法の素質の差が大きく影響しますから」

「あの動きは魔法だと言うのか?」

「いえ、魔法とは少々違います。しかし魔法の一部だと言えば一部なのです」

「どういうことだ?」


 説明を求められたシェードは分かりやすい言葉を選ぶようにして口にする。

 魔法とは自身の体外に効果を生み出す事。魔法の源となる魔力は体内で作られている。魔力は誰もが体内で蓄積されている。ただそれを魔法として体外へと放出して、空間に作用させる事は容易ではない。そこで考えられたのが「魔力機構」だという。


 魔力を体内に循環させる。体外に出さずに肉体を魔力で動かす方法が開発に成功したというのだ。元々体内にある魔力を循環させる方法の為、魔法として使用するよりも消費も少なく大きな手間も必要ない。単純な肉体強化に繋がる事から戦いを職業とする者にとっては必須の戦闘技術だと言う。


「それを使うどころか、知識すらなかった私がここに居るのは可笑しな話だな」

「いえ。ナナカ姫の役割は、そこではないはずです。ここに居る事だけでも十分に皆を奮い立たせているはずです」


 理解はしているつもりだが、ナナカ自身が居る事でシェードと言うブロンズクラスの貴重な戦力が護衛の為、戦闘に加われずに無駄になっている事も事実である。しかし、ここで見守る以外に何も出来ない事に顔を歪めるしかない。足手まといと言う言葉が頭をちらつく。


「ここから下がるべきか……」


 ナナカが言葉を続けようとした瞬間だった。戦場に地滑りを連想させるような重い音が響いたのは。


「あれは……ドンケダルの声……この群れの首領です!」


 一個体の魔物の声だと知らされたナナカは更なる脅威を感じずにはいられなかった。しかし決闘の申し込みとして受け取ったかのように、その声に被せるようにシェガードが吠え返す。


「あれを倒せば、この群れは乱れる。オヤジの出番だ」

「倒せるのか?」

「私も魔物退治のプロではありませんが、大丈夫だとは思います。しかし勝てなければ、その時点でこの戦いの負けは確定的です」


 シェガードからの挑戦を受け取ったかのように立ち上がった、ドンケダルの体格は他の個体よりも1mほど高い。5mから6mの違いは数字にしてしまえば違いは小さく感じるが「実際に見ると聞くのでは違う」という言葉は、こういう事なのだろう。


 1m違うだけで倍の大きさの違いに見える。いや、実際に体重は倍以上違うのかもしれない。傭兵たちの持つ得物は冒険者たちと違って対人用の物ばかりであり、ナナカから見ても通常のケダルの相手で限界と言っても良かった。シェガードも体格が大きいとは言っても武器は他の傭兵たちと同じく対人用であり、ドンケダルを見た後では玩具のようにすら感じる。


「心配するな、お嬢! 一休憩の予定を入れておけ! 直ぐに終わるっ!」


 魔物に対峙する「戦場の災厄」と言われた男の言葉は不思議とナナカに安心感を与えるのだった。

2015.9.10

描写と表現の変更修正を致しました。

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