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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
3章 動くモノと静寂のモノ
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8 ナナカ姫の決断

ナナカの知らないうちに争いの火種は落とされた。

後手に回る状況にどう対応していくのか?

 そこに居る男女5人の顔は重く深かった。

 ただ力が失われている雰囲気だけは全く感じ取れない。

 彼らは待っているのだ。1人の少女の言葉を。


 視線を集める赤髪の少女は周りの誰も言葉を発してない事にすら気づかないほどに、深く深く自身の中で問答を繰り返していた。大人達も今取るべき行動は限られている為、少ない選択肢とはいえ、難しい判断に迷う小さな姫を見守る。


 どれくらいの時間が経過しただろうか。待つ時間と言うものは人によって違う。たとえ、それが1分間であろうと、内容によっては10分に感じる事もあれば、1時間に感じたりもする。現在が、その状況である事は間違いない。


 やがて、その選択者たる少女から4人へ強い意志の感じられる瞳が向けられると、合わせたかのように少女に向かい首を小さく縦に振るのだった。


「きめたか。お嬢?」

「まだ、ななちゃんには早いかもしれないけど、ななちゃんが決めるべきよ」

「ナナカ姫。心配しなくてもあたし達は逃げないよ」

「姫様。私達に命じてください」


 4人からの言葉に無言で頭を下げると、ナナカは心の中で「ありがとう」とつぶやく。


「時間を取らせた」

「なあに。太陽はまだ上ったばかりだ。時間はたっぷりある」


 余裕を見せる大男の姿は大きな盾のようだ。


「そうだな。今日はまだ始まったばかりだな」

「ななちゃんに待たされるのは、おねえちゃんはそれはそれで嫌いじゃないわよ?」


 よくわからない愛情で全面的に支持してくれる姉は背中を押してくれる。


「いえ、もう決めました。町を守る為に私は動きます」

「まあ、その返答はわかってたけどね。あたし達全員」


 傭兵の娘も選択者が子供だからと馬鹿にした様子は見られない。

 それに追従するようにマコトも瞳をナナカへと向ける。


 彼ら大人4人の濁りのない笑顔を向けられ、自身の立場の重さを感じながらも前進する事を選ぶ事に後悔はしない。


「では、話は早いな」

「さすが、お嬢。切り替えが早い」

「じゃあ、まずは町の戦力予想を頼む」

「それは、あたしが。そうだね……」


 シェードから受ける戦力予想は厳しいものだった。

 一番厳しい内容は、わずか1日の差とはいえ継承権は明日ナナカに与えられる権利。今の状況では誕生会とやらも中止となる事は間違いないとしても、7歳になっていない今日では統治権はない。その為にカジルも消火作業は町の有力者に助けを求めたのである。


 つまりは、統治するための軍備と呼べる力はないに等しい。

 状況が状況なだけに町の有力者も情報を知れば逃走する可能性がある。いや、既に逃げている可能が高い。それだけ魔物の数は圧倒的なのだった。


 現在、ナナカの手元に残されたカードは冒険者ギルド、傭兵ギルド、王都からの援軍の3枚である。館の衛兵は20人程いるが、そちらは住民の避難と保護にあたってもらうしかない。同時に暴動や混乱が起こる事は何より避けるべき事態だからである。


「傭兵ギルドはどのくらい集められそうだ?」

「まあ、俺が声を掛けてどのくらい集まるかだが……50人集まるかどうかだろうな」

「それをまとめて、この町に向かっている500の相手を頼む」

「なかなか厳しい注文だな」


 シェガードは、その言葉と裏腹に表情には興奮と喜びすら感じ取れる。


「冒険者ギルドはどうだ? マコト」

「私の知名度では、それほど期待できないかもしれません。私を入れても4グループ20人集まれば良い方かと」

「いや、十分だ。各グループに分かれて集落の方の警備を手配してほしい」


 本当は十分な数字なんてない。しかし無いよりマシな事は間違いない。


「あまり気が進まないけど、お姉ちゃん。王都に応援依頼を任せてもいいかな?」

「借りは作りたくないところね……王都じゃなくて、1つ心当たりがあるから、そっちを手配してみるの」

「この国と関係が無くなったのに無理言ってごめん」

「だ~~~いじょうぶ、だいじょうぶっ! お姉ちゃんに任せておきなさいって!」


 その心当たりを深く追求する事はしない。王都に借りをつくらなくても済むなら、その方が良いに決まっている。


「では、各自動き始めてほしい! 私も準備出来次第、戦線に出る!」

「おいっ、お嬢! それはまずい!」

「ナナカ姫! 館に残っていてください!」

「姫様っ! 危険です!」


 勇者と傭兵親子の意見は想定はしていたが、もちろん従うつもりはない。声を上げなかった姉の方は、ナナカの過去の性格を知っているからこそかもしれない。しかし――


「危険……それがどうした!!!」


 そこから生まれたレイアの反応には色が混じっていた。

 激しい気性を含むナナカの言葉に姉は他の3人以上に驚き、頬が朱に染まる。まるで「ポッ」という音が聞えそうなくらいに。もちろん華麗にスルーを決め込む。


「今回の戦いは継承権を持っていない私からの各ギルドへのお願いなんだ! 戦いに他人を狩り出しておいて、お願いした本人が隠れていて納得する人間なんていない! 戦場に出る事は、お願いした側の義務だ!」

「でも、お嬢っ……」

「なんだ、シェガード。私を守り切れる自信がないのか? 『戦場の災厄』とやらは、そんなに軽い二つ名なのか?」

「その名前はだな……ぁぁぁあああああ! もう分かった! その代わりに俺とシェードから離れんなよ!」

「という事だ! みんな、準備に取り掛かってくれ! 私の初陣だ! 勝ち戦にしなければ承知しない!」


 大人4人は子供のわがままには困ったものだと言う表情を見せながらも、自分たちの中でやる気が満ちている事を示すかのように拳を握り、役割を果たす為にと部屋を後にした。


 ちなみに、この声が聞こえていたメイド達の間でナナカ萌えが加速した事は言うまでもないことだろう。

2015.9.10

描写と表現の変更と修正を致しました。

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