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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
3章 動くモノと静寂のモノ
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7 影

シェードから捕縛の報を聞く中で、もう1つの「気になる」という言葉が新たな問題をナナカに突きつける事になる……

 シェードは自身の不安視している状況を語り始めた。


「森でバモルドを捕獲する時にだけど、火をつけた直ぐに捕獲できたわけじゃないんだ。居場所の特定に時間がかかった。さっき言ったようにバモルドが1人だったけど、あれ程の放火を1人で出来るとは思えない。恐らくは、あいつ1人に責任をなすりつける為に誘導されたのかもしれない。今後調べる必要はあるだろうけど、あたしの心にある不安は別なんだよね」

「ああ、誰かが糸を引いている事は予想出来ていたからな。当然、他にあるに決まっているな」

「あたしの不安点は森の様子だよ」


 森と言うキーワードに、サンが言っていた森の騒ぎと頭の中で連動する。


「森の中の生物が大きく動く気配がした。たぶん火から逃れるための行動だと思うんだけど、その意志が、あまりにも統一され過ぎている気がしたんだよ」

「統一? どういう事なんだ?」

「火が発生している部分から扇状方向に逃げるなら分かるんだけど、その方向が一致している気がしたんだ」

「そんな事があるのか? シェガードは何か心当たりはあるか?」

「お嬢。俺は傭兵で冒険者じゃねーからハッキリとは分からねえ。ただ、その行動も糸を引いてるやつの仕業だとしたら、その可能性は十分にあるとおもうぜ?」

「同じ方向か……どの方向に向かっているのか分かるか?」

「バモルドを捕縛するのに集中していて、自身の走っている方向すら分からなかったから、はっきりとは確認できなかった。……すまないナナカ姫」

「今回の火事の発火地点も分からないか?」

「それなら、カジルから俺が聞いてるぜ?」


 シェガードが説明する発火地点は森を横断するように直線で結ばれていた。実際にはカジルの手際が良かったおかげもあり、地点同士が火で結ばれる程の大きな火事にはならなかったのだが、火に敏感に反応した生物たちは、その分断されるような発火ラインから、引き波の様に揃って同じ方向へと逃げた様だと。


「たぶん、火から手前側に逃げた生物は森の入口に集中しているんじゃないか?」

「シェガードもそう考えるか?」

「それしかないだろうな。しかし、何の意図があってそこへ集めたかだな」


 きっと今回の黒幕は火事を起こす事が目的ではないと感じて取っていた。しかし、森の入口に生物達を集めてどうすると言うのか? 森の外に出たとの報告は聞いていない。つまりはそこで密集しているだけになる。


 それぞれが思い耽り、沈黙が室内を満たし始める。時間だけが無下に経過して行くように。


 その流れを良しとしない人間が空気を変える。それは3人以外の人物――


「ななちゃん入るわね~。えっと……たしか勇者マコトちゃんだったかしら? 急ぎの報告があるって来てるわよ」


 新しい2つの風が沈黙を破る。それは姉のレイアと勇者のマコト。良い知らせでない事はマコトの表情を見れば分かる。


「ナナカ姫様! 大変な事件の後に急遽の訪問を申し訳ございません! しかし、どうしても伝えねばらない事がございます!」

「良い知らせではなさそうだな?」


 ナナカの言葉に空気を飲み込む姿を見せつつも、マコトは落ち着く為に深呼吸後、慎重に報告へと移った。


「ナナカ姫様は、甲殻竜族をご存知でしょうか?」


 竜。確かにマコトは竜と口にした。

 夢の世界の竜と同じものかはわからない。

 もしかすると近い生物なのかもしれないが……


「申し訳ない。分からないな」

「お嬢はマジで知識の方はからっきしだな」


 そう言うとシェガードは甲殻竜について大まかに説明を始める。


 甲殻竜とは純粋な竜ではなく、亜種ともいうべき部類であり、その名の通り硬い甲殻で身を固めた竜である。動きは遅いが力と生命力は突出したものがあり、かなりの攻撃力をもって戦わなければ、その壁を破る事は難しい。と言っても用がなければ、こちらから甲殻竜に手を出す必要もなく逃げる事もたやすい為、基本的に戦う機会などないに等しいという事らしい。


「なるほど、その甲殻竜がどうかしたのか?」

「はい。その甲殻竜ですが……消火作業の後に森の入口へ向かっている姿を冒険者ギルド内で見たと言う者がおりまして……」

「私たちも似たような話をしていたところだ。生物たちが森の入口に集合しつつあるようだと」

「その両方の集合に問題がございます」

「問題だと?」

「その甲殻竜なのですが……あのミドアースなのです」


 ミドアースの言葉にナナカ以外の人間は息すらも凍り付いたようにフリーズしてしまった。冷たい空気が漂い始めた周りの様子に、その生物自体を知らないナナカですら頭の中でレッドランプが点滅しはじめた。


「おいおい……マコトだったか? お前、それ冗談じゃ済まねえぞ?」

「たしかに、それが事実なら大変な事になりかねないかな」


 親子からの発言が更にナナカを緊張させる。


「え~っと、マコトちゃん。分かればなんだけどサイズまでは聞いてないの?」

「はい。自分が直接見たわけではないですが、20mは超えていたそうです……」

「「「20mだって!?」」」


 全員の声が合わさる。さすがに20mのサイズを聞いて、その竜を見た事がないナナカでも周りのフリーズした理由が分かった気がした。ただし、先程の逃げるのが難しくないという事であれば、それほど慌てる程でもない気もする。


「しかし動きが遅い甲殻竜、そのミドアースとやらが入口に向かっているのが何が問題なんだ?」

「ナナカ姫様。ミドアースは動く事は稀です。良い餌場に移動すると、そこで待ち伏せて餌を捕獲するのです。大きな体を維持する為に無駄な動きを抑えているとも言われています。ただし動き出せば納得の出来る餌場に辿りつくまで止まらないとも言われております。そして今回、向かっている森の入口。更にその先にあるのは、この町ベルジュです」

「餌場にする為に、この町まで来る可能性なんてあるのか?」

「必ずとは言えません。ただし、そのミドアースがここまで来ないとしても、生物が密集したそこへ20mの捕食者が現れれば……」

「生物たちは森の外へ逃げ出すという事か?」

「当然そうなります。その生物の中には人間にとって危険な魔物も含まれます。一番近い、この町は間違いなく被害の対象となるでしょう。その魔物の予想数は500を超えると思われます」


 周りはマコトの説明を聞くまでもなく、その状況予想に辿りついている。最後にようやく危険な事態を理解をしたナナカだけが、遅れてやってきた氷の冷たさを知る。


 ここに至って、サンの予知は現実味を帯びようとしていた。

魔物の命名に一番苦労しましたが、なんだか微妙と思った人! これくらいで勘弁してください。魔物をイメージさせる名前って難しいです。基本は白亜紀などの動物図鑑を参考にしました。

2015.9.9

描写と表現の変更修正を致しました。

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