6 方向性と力
傭兵親子の登場は急展開を見せる。
しかし、問題は簡単には終わらないのだった。
現れた傭兵親子が一番の難題となるはずだった。
放火したとみられる犯人を捕まえたと言う報告には驚きと同時に異例の親子コンビの行動力に感謝した方がいいだろう。とはいえ、今はその犯人をどこで管理しているのか、それがどういう人物で背後関係の洗い出しが大きな問題と言えた。
ちなみに倒れた、カジルの事は忘れていない。あの後に傭兵の娘のシェードが、お姫様抱っこヨロシクで叔父を休憩室に運ぶ姿は良いネタを手に入れたと残された2人で笑っていた事は当然の結果と言えた。数日後にはメイド達からもカジルが聞けば恥ずかしくなるような噂が流れる事になるのだが、ナナカとシェガードが広めた事は秘密である。
シェードが戻ってくるとカジルに取っては悲壮感が漂いそうな状況は落ち着き、その後に聞き始めた報告はナナカに更に難問を突きつける事になった。
「それで犯人は現在、どこに拘留しているんだ?」
自分の口で言えとばかりに娘に顎で合図を出す姿は、娘の成長を見守る父親そのものだ。
「自分でか……こういうのは苦手なんだけどな。えっと、ナナカ姫でよかったんだっけ?」
「私に対する呼称を聞くだけで、おやじさんよりは十分にまともだと判断が出来るな」
いつもぶっきら棒なシェガードも、娘の前ではナナカからの指摘に恥ずかしさがあるのか、視線を窓の外へと流す辺りは、実は初心なところもあるんじゃないかとカジルに続いて良いネタを仕入れたと頬が緩むのが自覚できた。
「おやじ……そんなんだから、母さんからも捨てられるんじゃないか」
娘からの止めの一撃に口を「ヘ」の字に結ぶ姿は親に叱られる子供の様な姿だった。娘に弱いのはどこの家庭も一緒なのだろうと夢の世界のドラマを連想させた。
「あはははっ。シェガードも娘には形無しだな」
「うるせえぇ! やっぱり、お嬢に合わせるべきじゃなかった……」
「まあ、そう言うな。私は会えて、いろいろよかったぞ?」
含みを持たせた言葉に、もう反応しない事を決め込んだのか下を俯いたまま口を閉ざしてしまった。
「まあ、おやじは母さんに注意された時もこんなんだったから、ナナカ姫も気にしなくてもいいと思うよ」
……言われなくても、シェガードが落ち込んだ所で全く気にする事はないな
今日の男二人は女性二人(?)にやり込められて弱みを握られる不運な日として、しばらく心に傷を残す事になったかもしれないが、それは現在の問題が解決した後にしてもらうつもりだ。
「じゃ、そっちのは置いておくとして、犯人の事をそろそろ頼む」
「いいよ。そうだね~。こっちに連れてこなかったのは少々わけありでね。ナナカ姫も無関係じゃないよ」
「無関係じゃないだって?」
「今回の事が発生する前にね、おやじに1人の男の捜索と調査を頼まれてたのさ」
「捜索と調査だと?」
夢の経験が話の流れが良い方向を向いていない事を知らせてくる。
「ああ、ナナカ姫と関係を切られた男さ」
他人が聞けば如何わしい言葉にも聞こえるがナナカにとっては、そんなことすら考える暇も与えられないほどに早く辿りついた、その答えに怒りを覚えるだけだった。
「バモルドか!?」
「そういう事だよ」
シェードから聞く事は自分の甘さを認識するには十分な内容だった。シェガードが護衛に着く事が決まってから、娘である自身に話があったらしい。「あの男を調べろ」と。
当初は恨みを持った『勇者バモルド』が直接的にナナカに手を出す可能性を考慮しての行動だったが、実際にはもっと悪い方向に流れた。王族と関係を切られたバモルドは町の有力者からも支援をするに値しない価値を失った勇者として、当日のうちに会う事もなく伝言や伝文で孤立無援へと追いやられたそうだ。
他人の傘に入った権力など、それが取り払われれば雨の下である。ナナカとしても力でなく政治屋としての能力で支援金を集める行為をしていた人間が一番大きな傘が無くればそうなる事は予想はしていたが、まさか当日に町全体が連動するとは思ってもいなかった。
王族の影響はナナカの予想よりも大きいという事だろう。ただし、その情報がどこから漏れていたのかも疑問点として残る。
「1人で犯行に及ぶに至るとは考えづらい所だな」
「確かにその通りかな。ただ捕まえた時はあいつ1人しか居なかった」
「利用されたか、捨てられたか、それで奴を直接、館に連れてこなかった理由の方はなんだ?」
「それは、ナナカ姫の立場的にまずいでしょ?」
数日前まで直接ナナカが支援していたわけではなくとも、母親の代から続いていた関係の勇者が森に火を放ったというのは、その情報を知る有力者なら理解を得られる可能性はあるが、一般市民が聞けばどうだろうか? 恐らくは「そんな危険な奴と王族は関係を持っていたのか?」「王族が追い込んで悪い方向へと歩ませた」と騒ぎかねない。何よりも勇者が放火したなどと話が出ること自体が大きな騒動の元になる。
つまりは表向きには自然火災と見せておき、放火犯人を捕まえた事は秘匿にするべきと判断したという事だ。シェードの判断は間違っているとは言えない。
「いろいろ気を遣わせてしまったようだな。すまないな」
「親父と違って力任せに進むつもりはありませんからね。もちろん感謝についてはいくらでも受ける準備はしてますよ?」
「結果的には力任せに捕縛したんじゃないか?」そう聞きたくもなるが心に留めて口にしない。これも夢の経験からくる対応力だ。
「しかし、よくブロンズクラスの勇者を相手に捕縛できたな?」
その言葉を聞くと、それまで俯いていたシェガードが聞き捨てならないとばかりに開口する。
「お嬢。勇者の所属する冒険者ギルドと、俺たちの傭兵ギルドの強さを勘違いしてないか?」
「どういう事だ?同じクラスでも価値が違うとか、審査の基準に差があるという事か?」
「おいおいおい……」
力なく言葉が途切れたのは、ナナカが傭兵ギルドを侮っていると思ったからのようだ。
「おやじ。ナナカ姫は戦闘に詳しいわけないだろ? 傭兵の強さを疑っているんじゃないだろ。まだ6歳なら仕方がないよ」
……6歳だな。見た目は。知らないのは記憶がないからの可能性が高いが
「あたしが説明してやるよ」
「すまないな。頼むとしよう」
「私もあいつと同じ傭兵のブロンズさ。そのクラスについてだけど、価値も特権にも差はないと思う。審査基準はどうか知らないが在籍比率的には同じくらいの数字らしいから、上がる為の難易度も同じくらいと思っていいんじゃないかな?」
「それじゃ、実はシェードもシェガードの様に更新をしていなかっただけで、もっと上の実力を持っているとか言う事か?」
「ナナカ姫。どう見えているか知らないけど、あたし17歳だよ? 更新してなきゃ、この年でブロンズに辿りついてないよ」
「えっ!?」
シェガードに引けを取らない雰囲気が17歳と言う若さを感じさせない原因。その原因の一端を担っているシェガードは両の手で吹き出しそうな口を塞いだままシェードから視線を外し、そのシェードは父親を殴らんと右の拳を強く握りしめ、プルプルと震えている。
……意外と繊細な心の持ち主かもしれない……
「でも17歳でブロンズって、相当すごい事だとカジルから聞いた覚えが……」
「まあね。このオヤジが母さんに捨てられてからは、ずーっと一緒に戦場回っていたからね。最初は13歳の頃だっけ?」
さらりと、とんでもない事を口にする目の前の娘にナナカは口の中の渇きを感じた。夢の世界では13歳と言えば学生の中盤辺りのはずで、子ども側に分類されると言っていい。大人からは軽んじられて、反論する事すらも反抗的と注意を受ける年齢だ。それがシェードは13歳から大人達ですら生き死にする戦場で生きてきたと言う。
「シェガード……」
名前を呼ばれただけでナナカの言いたい事を察したのだろう。それ以上の言葉を聞かずに弁解が開始された。
「待ってくれ! お嬢! 俺を見りゃ分かるだろ。戦場が当たり前の人間だぜ? 教えられるのは戦場のことぐらいだ。第一に俺は12歳で戦場に出た!」
必死に弁明に出る姿にあえて言葉で返さず、冷たい視線のみを送り続けると「いや、おれだって……」と言う言葉を最後に口が閉ざされた。
「いいんだよ。不器用なおやじだけど、そのおかげであたしは此処にいるし、色々学べて勉強にもなった。責めるつもりなんかないからさ」
その言葉のなかに一瞬寂しさを見せたのを経験豊富な、ナナカは見逃さなかった。ただし本人がそういう以上は、そこを突く様な真似はしない。
「まあ、ともかくだ。クラスは同じさ。とにかく、隣にいるオヤジみたいに更新しないでクラス据え置きなんて事はない。ただね、傭兵と冒険者のギルドの差は相手が違うって事さ」
「相手が違うとは?」
「冒険者達は魔物の相手がメインだろ? あたしたちは人が相手さ。武器だって人が魔物を相手する為のそれと、人間相手に使用する武器じゃ全く違うだろ?」
……つまりは魔物相手のプロが人間相手のプロに敵うわけがないという事か
「なるほどな。そう言われれば納得出来るな」
「勇者ギルドの同クラスが5,6人相手ならまだしも、1対1じゃ負ける要素なんてないのさ」
……3,4人じゃなくて5,6人なのか。それほど差があるのか? 実はこの親子が強いだけではないか?
知識のないナナカでは判断基準も無い為、意外と間違っていない様な気もしたが、実践を知らない自分に確認する方法はない。
「それで……バモルドをどうする方がいいと思う?」
「あたしが決める事じゃないけど、ナナカ姫がこっそりと始末しろって言うなら土の下や水中に沈めるなり、なんなら身元が分からないくらいに細切れにして、魔物の餌にしてくる?」
17歳から飛び出るとは思えない残虐な始末の方法に、29年の経験を持つナナカも流石に眉を寄せた。その様子に子供には衝撃的過ぎる発言だったかと「冗談、冗談」と愛想笑いをする勘違いを見せたが、目の前にいる女性が若い傭兵が一流の戦場の戦士である事を認識するには十分な威力を発揮した。
しかし――
「確かにそれも考えの方法の1つとして頭に置いておく必要はあるな」
今度、眉を寄せるのは女傭兵の方だった。
6歳の少女が、その後始末を認める発言をしたのだ。親の教育方針を疑う結果に至ったのは双方同じだったようだ。
その様子に「俺の見込みはすごいだろ?」と親からの視線に頷く事を必死に抵抗している娘が、ナナカにはようやく親子らしいアイコンタクトに見えた。
「ただし、1人の犯行とは思えない状況で、バモルドだけをどうこうしたところで意味はないな。どこか幽閉出来ないか?」
「そういう事なら心当たりはある。俺に任せておいてくれないか?」
「分かった。なら、シェガードに任せておこう。きっと使い道はある。逃がさないように死なないように細心の注意を払ってくれ。それともう1つ。バモルドの影に居る奴らに分からないように、失踪したように工作もしてほしい」
「それは俺の得意な分野じゃないからな。カジルが起きたら伝えておこう」
「ナナカ姫。あたしから、もう1つ気になる事がある」
「もう1つ? バモルドの件とは別にか?」
「分からない。関連しているのかもしれないけど、関係ないかもしれない」
その後、シェードから語られる不安要素は、忘れかけていたサンの予知を連想させる流れと繋がっていくのだった。
2019.1.15
描写と誤字の修正を行いました。




