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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
3章 動くモノと静寂のモノ
24/142

5 問題にならない問題

消光の森の火事の消火作業が完了する。はたして、その事件の原因と被害は?

 消光の森の火災は2日間掛けて治まり見せていた。

 おかげで誕生会の準備は難しい状況を迎えていた。

 だが、そちらの心配は無用となる事態に発展しようとしていた。


 火災の被害が予想以上に広がったことが大きな問題ではあったのだが、その火災が自然発生したものではなく、誰かの手による形跡が見られた事の方が状況を複雑化させたのだ。しかし現状は犯人の追跡まで手を回すだけの余裕はなく、執事カジルは消火作業に専念したらしい。


 もちろんナナカとしても、それを責めるつもりなど全くない。

 自然環境が失われる行為は後にどれだけの損失を生み出すかは、カジルも分かっているからこそ、そちらを優先する事を選んだのだろうから。


 寝室で休んでいたナナカに報告に来たカジルの姿を見れば、2日間ほとんど寝ていない事は目元の濃い影が証明している。だが状況を確認しないわけにはいかないのだ。もう少し頑張ってもらうしかない。


「それで、犯人の追跡は出来なかったとしても予想はある程度出来るんじゃないか?」

「姫様。言いにくい事ですが……」

「味方の方が少ない状況で、心当たりは多すぎるか?」

「はっきり申し上げれば、その通りでございます」

「では、町への被害はどれくらい出そうだ?」


 表情は疲れを表しているものの状況説明に手を抜くつもりはないようで、カジルはナナカの質問に対して丁寧な報告は続けられた。


 火災の規模は消光の森入口から、それ程の奥で発生したわけではないが範囲は広い。広いと言うよりも長いと言った方が適切かもしれない。


 犯人は消光の森を分断するように現場に火をつけており、今回の消火作業も、もう少し遅れていれば奥へ広がる火を食い止める為に通る道すら寸断される形となり、予想も出来ない事態となっていたかもしれいが、幸いにも広がりを抑えるとともに放火の継続を許さず、拡大被害とはならないらしい。田畑にも飛び火する事もなく農作物への影響は現在の所はないと言っていい状態であると。


 しかし焼けた森はこの町の半分ほどの範囲に及び、その回復には数百年単位の時間が必要かもしれないと言う。ナナカのイメージでは夢の中の世界の森林が考えの基礎になっており、20~30年もあれば十分な森を形成すると思っていたが現実の消光の森は想像を超えていた。


 山の上に木々が育っていると思っていたのだが、あれは山ではないと言う。

 あの周辺の基本は平地であり、木々の高さは高いもので500mを超える。奥地まで行けば1000mを超えるサイズも見られると言う。つまりはその木たちが集まる森の、あまりに高さにナナカには山に見えてしまっていたという事だ。その事実に失われたものの大きさを実感する。


「今回はなんとか抑えることが出来た様だが、その犯人を捕まえない事には心配がなくなる事はないな」

「姫様の言うとおりにございます。ただし後手後手に回っている現状では早期の解決は難しいかもしれません」


 その2人の心配を解決したのは――


「邪魔するぜ! お嬢達は運がいいぜ!」


 2人の心配を吹き飛ばす様に扉を開けると大声で自慢げな声を張り上げるシェガードが1人の女性を連れて現れた。その声を聴いただけで風で煽られたようにふらつくカジル。少々気になるがまだ終わっていない。限界は超えるためにあるのだ。踏ん張ってもらおう。


 もちろん先日のスカート捲りの仕返しではないと言っておく。いや、少しだけその気持ちもなかったと言えば嘘になるかもしれない。


「シェガード。もう少し遠慮と言う言葉を頭の隅に置いてほしいな」

「その言葉をお嬢が言うのか? ブーメランって遊び道具知っているか?」


 言いたい事は「お嬢も遠慮なんてないだろう?」という事だろうが、これでも乙女(?)なのだ。ただ心の中で一瞬、頭に浮かんだ疑問符がリベンジの言葉を返すタイミングを失い、形的には聞き流す事になってしまった。


 抵抗を見せないナナカに面白みを無くしたのか、シェガードの表情はつまらなさそうだった。反論を期待していたのだろう。選択したわけではないが結果的には「してやった」というところだろう。


「まあいいか。お嬢たちも気になっているだろう消光の森の放火の件だがな、犯人は分かったぜ?」


 一気に問題解決に歩を進める発言に疲れも忘れたかのようにカジルの顔が上気していた。ナナカとしても解決は先になると思っていた矢先、シェガードからの発言に冗談かと疑いの目を向けてしまった。


「まあ、分かったと言うよりも捕まえた。このシェードがな」


 一緒に入ってきた女性。それが隣のシェードらしい。

 シェガードに並んで居た為、その容姿が目立たなかったが、この男と並んでいて目立たないと言う自然な空気がある。いや、それは異常なのだろう。つまりは簡単に表現すれば、デカイ。ほとんど身長差がない為に違和感が薄いのだ。それにシェガードに飲み込まれないだけの雰囲気を持ち合わせているという事になる。ただし今はそんな事よりも……。


「ちょっとまて。捕まえたとはどういう事だ? もう少し順を追って話してくれないか?」


 問題が一歩進むどころか解決してしまった事実に驚きよりも理解出来ずに混乱してしまった。カジルなどは驚きを通り過ぎて思考が停止したように動きが完全に止まっていた。


「おやじはストレートすぎるんだよ。話は砕いて話せよ。おじきが止まっちまってるじゃねーか」

「おっ、おやじ!? おじき!?」


 言葉を聞いてしまえば納得する事実なのかもしれない。並んで違和感のない理由は、それで解決する。何よりも確かに親子としての面影もある。


 ……しかし、シェガードの子供とは


 年齢的には居てもおかしくはないだろう。

 ただし、この男が結婚していて子供がおり、それが娘などと冗談にしか聞こえない。何よりもそれはカジルの姪っ子にもなるという事だ。


 その直後に安心からか疲れがピークに達したからか、カジルがその場に倒れてしまったが、その姿を見て楽しそうな笑顔を浮かべる親子を見て、ナナカは性格も親子で似るものだと学んだのだった。

2015.9.9

表現と描写の変更修正を致しました。

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