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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
3章 動くモノと静寂のモノ
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2 ブレイカー

現れた新たな勢力「キエル教会」

その司祭ラムルがナナカの下へ来た理由とは?

 本日最後に現れた、キエル教会からの訪問者「司祭ラムル」。

 ゲームの世界なら中堅ボス的なタイミングと言ってもいいのだろうが残念ながら、こいつが本当にボス的なものであると想定するならば、現れて良い出来事など起こるわけもない。つまり、歓迎ムードが生まれる隙などないといえよう。


 もちろん、姿を見せた彼の見た目は人畜無害に見えなくもない。仮にも聖職者なのだから当然と行ってよいのだろうが。


 その格好は質素な白のローブに身を包まれてはいるが、腕に見える装飾やサークレットが安物で無いことくらいは貴金属に興味のないナナカでも分かってしまう。そして何よりも司祭と言う割には若い。30歳に届いているとは思えない。警戒レベルを上げるには十分な理由である。とは言え、それだけで敵視しては早計というもの。ナナカ自身が宗教が好きではないのは間違いがないが、助けられたと思っている人間だっていないわけではないだろう。周りから見れば真の問題解決になっていなくても、本人がそう思っているなら仕方がない事もある。


 ……さて、目の前の男は詐欺師か政治屋か? それとも本当に救い手なのか?


 ナナカは思いを面には出さず、やってきたボスに気後れしないように小さな口を出来るだけ偉そうに動かし始める。


「教会から使いの者であれば、朝一にでも時間を作らせたのだがな」


 この世界でどういう立ち位置なかは分からないが、ナナカは白々しく教会の司祭を他の来訪者よりも上に持ち上げておく。分からない中での入り方としては無難がいい。夢のサラリーマン経験がそう判断させた。


「姫様のお気遣いに感謝いたします。しかし今回の会見については、わたくしから本日最後になるように事を申し出たのです」


 つまりは今回の最後尾であるタイミングは、この男が意図したものであると言うことだ。

 何か計算でもあるのかと疑いたくなるのは自然な流れと言える。


「最後に会う事の意味を聞いてもいいのか?」


 ダイレクト。

 回り道をしたくてもラムルの言葉を聞けば、そう聞かざるを得ない。そして言わされた言葉とも言える。


「そうですね……。今の国内状況から言えば、私たちとナナカ姫様との間に妙な噂が出る可能性を排除したかったから、と説明すれば納得して頂けるでしょうか?」


 こちらに気を使ってやったと言うわけだ。

 それだけの会話だけでも教会の力は小さくはなく、次期王の選定を左右する材料になる可能性を示唆している。この男も教会も油断していけないと頭で警鐘が鳴り響く。


「たかが第三王女如きの私に気を遣う理由がどこにあるんだ?」


 ここも続けて無難に惚けておく選択。

 当然、返ってくる言葉も予想が出来るわけだが。


「いえいえ、もうすぐ継承権を得られる後継者1人であるナナカ姫様に細心の注意を払う事は私の大事な役目の1つでございます」

「遠回りな会話はやめようか。目的はなんだ? まさか私の幸運を祈りに来たとは言わないだろう?」


 正直、惚ける行為を続ける手もあったが、この相手には無駄な遠回りに感じた始めていた。本題は別にあるのだろうと。だから、ストレートな問いを向けるべきと選択した。6歳の少女からデッドボール気味の球に驚きを見せるのか、打つ気満々で振りかぶってくるのか、それとも……


「それではナナカ姫様は、どのような立場を目指すおつもりですか?」


 予想の範疇とばかりに表情1つ変えずに、質問に対して同じ球種の質問で返してくる。ただし、そこには「次期王の選定について」とは言葉にしてない。全く嫌らしい事この上ない。


「最近まで眠り姫役が長かったせいか、記憶の方もあいまいで質問の意味が良くわからないな」

「いえいえ、聡明なナナカ姫様が、この程度の質問を理解出来ないわけがございません。3ヶ月とはいえ『人生経験の1つとして良い糧を得た』のではありませんか?」


 ……!?


 他の人間には言葉の意味がどう聞こえたかは分からない。だが、ナナカにとっては座っているはずなのに立ち眩みになるほどに心を揺れ動かした。その姿に何か満足したように口の端を上げるラムルを天敵でも発見したかのように視線をぶつける。


 ……落ち着け! 違う意味かも知れない


 夢の経験は誰にも話していないし、自身でもよく分からないほどに信じられない経験だった。だが、目の前の男の会話は理解した人間の、それにしか聞こえなかった。気持ちの悪い空気を肌に感じながらも考えの纏まらない頭に演技を続ける事を命令する。乗り切れと。


「いや……長い眠りのせいで3ヶ月を無駄にしてしまっただけだな。眠りすぎは体に毒にしかならないと経験者からは言って置こうか」

「さようでございますか。しかし、その毒で失われるものは少なく、ご無事であったことはお喜びするべきかと思います。宜しければ目覚めの体に良い薬をお持ちしておりますので後でご利用くださいませ」

「ああ、ありがたくもらっておくとしよう」


 先程までのやり取りが勘違いだったのかと思えるほどに、ラムルは自然な会話で重いと感じた空気ですら嘘のように自然な笑みを崩さない。


 だが、双方の思惑をあざ笑うかのように状況は一変する。


 不快に思っていた、その空気を破壊したのはナナカ自身でも、その場にに居る、ラムル、カジル、メイド長でもなかった。


 突然、会見場に入口からの光が差し込む。

 その光の中から現れたのは……ルナとサン。

 まさかのゾーンブレイカーの登場に誰もが視線を奪われる。


「会見中ですよ! 何を考えているのですか?! あなたたちは!」


 場違いと言える2人にカジルは執事としての役目を果たさんと声を張り上げる。


「土子族が何故ここに?」


 先程まで笑みを崩さずにいたラムルでさえも表情を変えていた。


 ……ナイス!! ルナ! サン!


 やられ気味のナナカにとってはラムルの表情を崩した2人の元奴隷に称賛を送る。


「ナナカ姫様っ! サンが……サンが消光の森で大変な何かが起きているって!」


 ルナが口にする「大変な何か」がゾーンブレイカーを誘導したのかもしれない。

 そして会見場は突如として躍り出た2人の主役により、新たな幕を開け始めていた。

2019.1.13

描写と表現の変更修正致しました。

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