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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
3章 動くモノと静寂のモノ
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1 繰り返しの言葉

国内の状況確認の為に時間を作りたいナナカ陣営。

しかし、来訪者は待ってくれないのだった。

 権力や名声を得たと感じた時はあるだろうか?

 人はそれぞれの人生の中で一度や二度はあると思う。

 それは周りから見れば大きなものであったり、小さなものであったりと差がある。しかし、本人にとっては一度二度訪れる歓喜は人生で最高の瞬間と言っても良い。


 今、ここに数日前までサラリーマンと呼ばれる、一般市民レベルの経験を夢の中でしただけの6歳の姫様が王族としての力を手して、その力を試されるように毎日の日々を送っていた。


 ある日の姫様のつぶやきを執事カジルが聞いたと言う。「権力や名声を欲しがる人間の気がしれない」と。


 6歳の言葉とは思えないセリフが、その生活を物語る。

 もちろん今日も、そのナナカ姫様の日々は始まるのでした。




 と、日記帳を書いているかの如く、心の世界に入り込んでいたナナカは目の前にいる明らかに高そうで無駄な装飾を付けた、ちょび髭の男の挨拶も世辞も完全にスルーしていた。


 ここは勇者たちの会見にも使用した会見場。

 昨日から目の前の男の様に「私は高貴な家柄です」と、衣装で表現した様な人間が20組近くは訪れている。


 彼らはナナカへ挨拶と目覚めた事へのお祝いと称して、心にもないセリフを吐いては消え、その後も同じような人間が来ては同じセリフを吐く事の繰り返していた。


 最初は初めての経験に「これが国家レベルの権力か!」と驚きと緊張があったものだが、5組目を超えたあたりからは適当に頷いて、最後に「ご苦労であった」との返事をするだけの流れ作業になった事を誰が批判できるだろうか。


 おかげで昨日の夜は疲れて食事の内容も憶えていない。

 お風呂にも入らずに寝たと思う。

 今朝、起きた時ですら記憶は曇り天気の様にぼんやりしていて、着替えも何時終わったのかすら覚えていない。いつもは「仕事」の一言を盾に、ナナカを苦しめるメイド達ですら会見前には「大丈夫ですか?」と優しい声を掛けてくるほどに疲れの表情が残っていた。


 とにかく今日も、この高貴な家柄を前面に押し出してくる男たちの相手を1日中予定されていると言うのだから気は重い。


「……でありまして、これからも王家とナナカ姫様に尽くす事を我が一族はここで誓います」

「そうか、ご苦労だった」


 内容も聞いていない状況であっても、そう返事しておけば問題ないと執事のカジルが言っていたのだから大丈夫だろう。

 6歳の少女に難しい返事も期待してない事が、来訪者たちに不信感や疑問を持たせなかった理由かもしれない。その知恵を授けた男は、ナナカが繰り返していたように、ちょび髭に対して無難な言葉とともにお帰り頂いていた。


「メイド長。今日は後どれくらいの会見予定になっているんだ?」


 カジルの反対側で少し下がった位置で控えている彼女に確認する。


「残りは1人となります」


 昨日よりは少ない。

 ただ変わり映えのない光景にズル休みしたくなる人間の気持ちが十二分理解出来た。同時にこの平和過ぎると感じてしまう状況は少々違和感を感じざるを得ない。


 ……なんだか予想と違うな


 その思いは仕方がないと言っても良かった。

 国内の現状は派閥闘争が始まっており、土砂降りの雨の中のドロの様に粘着質な状況を想像していただけに来訪者たちはアクションやアプローチを積極に行ってくると構えていたからだ。


 ところが蓋を開けてみれば、ほとんどの人間は様子見と挨拶だけと言う感じで盛り上がりに欠けていた。別に望んでいたわけではないが肩透かしを食らったのは間違いない。


 ……第三王女と言っても所詮は6歳の王族なんてこんなもんか?


 同じように傀儡の王として担ぎ上げるだけならば、8歳のラルカット王子の方が宰相の後ろ盾もあり、既に派閥も出来て大きな力を持っている。


 つまり6歳の姫君よりも「可能性」がある。

 そちらを選ぶのが当たり前だ。

 あえて「大きな冒険」をする人間は居ないと言っても良い。こちらはダークホースの役割を与えられたと言う事だ。そう考えれば納得出来なくもない。


 ……これはこれで演技も必要なく、敵を作らなくて楽かもしれない


 ナナカとしては王座など目指すつもりもなく、普通に暮らせればそれでいいと思っている。誰もチョッカイを出してこなければ身の危険もないだろう。敵はいないに越したことはないのだ。このまま無害を装い続けて存在自体を忘れられれば、どれだけ楽だろうかと考えもするが流石に難しいだろう。やはり、この身に「自由」と「安全」を保障してくれる勢力を見つける必要があると言える。ぎりぎりまでそれを見定めるのが必要だ。下手に、この場でこちらの思惑を探られるのは出来れば避けたいのが本心。数日前まで眠って居て、相手よりも後手に回っているナナカとしては本来はありがたい光景である。


「次が最後の訪問者ということか?」

「はい。次のお方はキエル教会の司祭 ラムル様でございます」


 ……やっぱり、宗教は存在するのか


 夢であろうと現実であろうと人は見えない力を求めるのである。

 見えないからこそ神秘的に感じて、その存在を勝手に高める。

 理論的に考えれば矛盾だらけで弱点だらけの『神』。何もできない『神』を何でも出来る『神』に祭り上げてしまう愚かな行為は現実世界も同じという事だろう。


 そんなナナカは夢の世界では勧誘に来た宗教の人間を理論をもって論破して泣いて帰らせていた。祭り上げられた『神』など叩き潰すのが正義だと思っていたくらいだ。宗教が無くなれば半数の戦争は起こらなかったと確信している。そんなナナカの所に「キエル教会」の司祭が来たと言う。


 ……今日のイベントこれで決まりだ!


 繰り返された挨拶集団の対応で溜まっていた鬱憤は「司祭ラムル」へと向けられたのだった。他人に八つ当たり行為をする。これを一般的に迷惑クレーマーと呼ばれるのであろうが、今のナナカにそんな事を考えている様子はない。


 突然、瞳に燃える力を漲らせ始めた赤毛の少女ナナカへと隣で心配そうな顔を見せる執事カジルにメイド長は小さな応援の声を掛けるのだった。「頑張ってください」と。

2019.1.13

描写と表現の変更修正を致しました。

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