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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
2章 王族の役目
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9 王族演技

兄弟たちに対する判断を迫られるナナカ。

誰を敵とし、誰を味方とし、誰を欺くのか?


 4人の大人と6歳の少女が居る会議室は知らない人間が見たとしたならば家族会議でも開いているかのような光景に見えた事だろう。だが実際に近くによれば、そんな軽い空気はその場にない事は分かる。

 次の休みに「どこへピクニックに行くのか?」などと言う冗談も飛ばせる状況ではなかった。

 更にはその場を支配しているのは小さな少女ナナカだというのだから信じない人がいないとしても仕方がない。


 そして、その少女ナナカは選択を迫られていた。


「誰を支持するかで敵と味方が分かれてしまうわけか」


 残された日数は後3日。

 相手の状況や出方など様子見をしている暇は残されていない。もし、こちらに対して敵意がある相手を支持したところで一旦事が落ち着けば何時切られてもおかしくない。噴火した山は簡単には収まらないのと同じである。蓋をする方法などないのだ。


「ナナちゃんに、その気があるなら私は支持してあげるの」

「それはいいな。面白い。お嬢、どうだ舵を握る方に回ってみるか?」


 レイアもシェガードも冗談っぽく話しているが目が笑っていない。


 ただ、自身も所詮は子供である。

 不思議な夢の経験があろうがなかろうが、そこは流石に場違いと思えた。

 だからこそ声を出して反論することなく、冗談として聞き流す事にする。

 もちろん、それとなくカジルに視線を送る事は忘れない。冗談で終わらせるために何か言えと。


「レイア様もシェガード様も冗談はおやめになってください! まだ姫様は6歳なのですよ! いくらなんでも無理がございます!」


 アイコンタクトで、それ理解するカジルの行動に驚きが少なくなってきたのは、カジルのナナカに対する妙な愛情力なのか? いや、信頼関係と信じたい。それが間違いではないと願いたい。


「悪くはないと思うがな。子供離れした偉そうな態度に生意気な考え方。十分に王の資質は問題ねぇ。ありだと思うぜ?」


 褒めているのか貶しているのか微妙な言葉ではあるが、表情は状況を楽しんでいるようにしか思えない。


 無言で頭を振る赤髪の姫の態度を察してか、さすがにその後に続ける事はなかったようだが「満更でもない選択」だと、レイアとシェガードはその考えを捨て切れてはいない様子にみえた。


 ナナカとしてはラルカットの支持を拒否する場合に、その年齢に不安視の声を上げる事も考えていた。それなのに、それよりも年下の自分が名乗りを挙げる事は考えたくもない。何よりも世界が違うとはいえ、庶民の生活経験満載の自分に王など務まるわけがない。


「それを言うなら、私はお姉ちゃんを支持する事にするけど?」


 ここでナナカの世話焼きをしている事からも、そんな気が本人にない事は分かった上でやり返しの言葉である。もちろん本気で言っているわけでない事は誰もが分かっているだろう。


「お姉ちゃんはナナちゃんにラブだから、もし女王になってもその場でナナちゃんに譲り渡すわよ?」


 本気かどうか分からないが真面目な顔での返答に「やりかねない」と感じた。

 この話題についてはこれ以上引っ張る事は避けた方がいいと判断して、本題に話を戻す事にする。


「とにかく今は時間が欲しいけど待ってくれない状況だ。出来れば中立の立場を続ける方法があれば誰か意見がほしい」

「私は先程申し上げた通り、第一王子が短命政権になる事も考えたうえで、そちらを支持する方が良いと思います」

「たしかストレイは病弱で命が長くないと言われていたな。それでは結局はその子供が幼い状況で王位を継ぎ、傀儡の王が誕生するのではないか?」

「いや、あいつは結婚はしているが形式上だけだ。子供はいない」

「それでも、数年後に今と同じ状況が生み出される事になりかねないじゃないか?」

「ですが、先ほど姫様がおっしゃられた『時間』は作れます」


 つまりはカジルは、それまでに自身に有利な状況、周りに振り回されない程度の力を持てと言っているのだろう。それどころか、レイアやシェガードと同じく、ナナカが王位につく事を考えている感じさえ受ける。


 過剰な期待を6歳の少女相手にどこまで乗せる気なのかと、恐ろしい言葉を並べる大人達を見渡す。

 しかし、ここにいる大人4人が6歳の自分に期待するほどに王族が、国が、政治が、腐っているという事なのかもしれない。だが以前の記憶のないナナカにとっては館の外の状況と国内の状況は全くと言っていいほどに未知の世界だ。やはり、それを確認する為にも時間は必要と言ってよい。カジルの言うとおりストレイ王子を支持する「時間稼ぎ」も間違いとは言えない。


 それに夢の世界では国のトップが毎年のように変わって、国民がトップの名前すら分からなくなると言うひどい状況も経験済みだ。国の指針が次々と変わっていては前に進めるわけがない。それが王国制で王の交代となれば、夢の世界以上の大きな混乱となるだろう。普通でいいのだ。例えば、シェガードが蛇だと言い切る姉のミストがこの国を治める事になろうとも。普通の国がそこにあるのなら。


「姫様。明日以降には次々と貴族たちが様子を伺う為にこの館へ訪問してくる事になります。メイド長。予定はどうなっていますか?」

「誕生日までは日中の予定に隙間はございません」

「つまりは今日中に選択を準備した方がよろしいかと思います」


 随分とお客が行列を作ってるようだ。

 少しでも王族に媚を売ろうと必死なのだろうか。

 自分の利益の為なら、寝起きの子供にも遠慮のない貴族連中ばかりである。


「じゃあ、こういう案はどうだ?」


 無駄に会話を続けていただけではない。

 ナナカは状況を聞き取り、確認して、1つだけ方法を見つけ出していた。

 これなら何とかなるのではないかと――


「だったら、私はジェスト王子を支持する」


 何を言っているのかと言葉の意味が理解出来ないような4人が不可解な表情を浮かべていた。


「ジェスト王子の捜索期間はどこまで引き延ばせるんだ?」


 その言葉を聞くとともに少しづつナナカの考えている事が見えてきたのだろう。一人の人間の死を利用、冒涜する事になるかもしれない方法。


 4人は驚きに開いた口が塞がらない状況から少しづつ抜け出したようだ。

 いや、一人、シェガードのみが悪巧みを考えたガキ大将の様に大きな笑みを見せた。


「私は信じている。ジェスト王子は生きていると。王座に座るべきはジェスト王子だとな」


 3ヶ月間も見つからない。

 生きている可能性を誰も信じていない。

 それを白々しく生きていると信じていると宣言して、現実的には誰も支持しない中立の立場を作ろうと言っているのだ。


 レイアは喜劇の様な馬鹿らしさがツボに嵌ったらしく、最初は少しづつ漏れ始めた笑いがやがて大きくなり止まらない。

 シェガードは相変わらず大きな笑みが収まる様子がない。

 メイド長は呆れた顔を左右に動かす。

 唯一、カジルだけが真剣に言葉を返してきた。


「誰も『死んでいる』とは口に出来ないと思います。うまく行けば捜索を引き伸ばされ、3ヶ月程度は時間を稼げるでしょう。ただし、それ相応の演技が必要になりますが大丈夫ですか?」


 カジルのいう通り演技力が求められる。

 しかし、ナナカは夢の記憶の中で学芸会にて主演男優賞を取った思い出を振り返り、大きな決断への言葉を口にするのだった。


「大丈夫! 演技力には自信がある!」


 こうして会議室はカジルの巨大な溜息1つを残し閉じられた。

 国の未来は不透明であっても、カジルの心労がピークに達する日が近い事だけは、そこにいた全員が予想出来た未来であろう。

2019.1.13

描写と表現の変更修正を致しました。

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