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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
2章 王族の役目
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6 反省と妄想と

元第二王女レイアの「好撃」により歓喜の中で意識を失うナナカ。

彼女は敵なのか? 味方なのか?

 額にひんやりとした感覚がある。恐らくは濡らしたタオルの様な物だろう。

 その感覚のおかげでナナカの意識は現実に戻りつつあった。

 いったい何があったのか、意識を失う前の事を思い出し、体の脆弱さに自身は29歳ではなく6歳の少女である事を再認識させられた。


 原因の元であるレイアは自分の寝かされているベッドの周りにはいないようだ。目の前に居れば一言くらいは文句でもと思っていたが、女性の胸の中で意識を失うと言う、男にとってはある意味で夢のような出来事を多少なりとも悪くなかったと感じている自分に、夢の中の経験は心に大きく影響している事を認めるしかない。


 ただ、17歳にしては、あれはデカイ。

 妄想している姿が少女でなく、29歳の男だったら正常な行動である。

 再度、伝えねばならない。正常であると。

 しかし現在は少女である。

 今の様子は意識を回復した直後で、周りから見れば意識がまだハッキリしておらず放心している姿である。問題は本人が違う世界へ飛び立っている事だろう。


 ……えっと、これくらい? いや、これくらいあったよな?


 既に自身が女で王女と言う立場である事を忘れて、意識を失う前のレイアからの、あの感覚を思い出し、正常な青年の妄想状態は止め処なく続く。加速する妄想は無意識のうちに自身の胸のあたりで、あの形を手で表現していた。


 そこへ、少女が意識を取り戻しているとは思っていなかったカジルが扉を音もなく開け放ったことで、その姿を視界に入れられてしまった。


 時間が凍るとは正にこの事。

 ナナカとしては馬鹿な事をやっていたという後悔が今更ながら自身に襲いかかり、言葉すら口に出来なかった。


「姫様っ!」


 ……何も言わないで! 見なかった事にしてくれ!


「目覚められたのですね! その手は……もしかして胸が痛いのですか!?」

「……カジル、結構便利な奴だな」


 予想外の言葉に思わず、素直に疑惑の男に感想をぶつけてしまう。

 とはいえ、3ヶ月の眠り姫を見てきた立場からすれば、1週間もしないうちにナナカの意思とは関係なしに再度、意識を奪われたのである。心配の方が先で、まさかレイアの胸の事を考えていたなどと、カジルでなくとも思わなかったかもしれない。完全にナナカの焦りは要らぬ思い込みだったようだ。


「全く、レイア様も手加減を知らなさすぎです! 今すぐに医者を呼びます。お待ちくださいませ」


 痛くもない胸の事を医者に診てもらっても仕方がない。いや、胸の内には小さな痛みはある。そして、それ以上に大きな恥ずかしさと自己嫌悪がある。


「い、いや。大丈夫だ。呼ぶ必要はない。体の調子を自身で確かめていただけだ」

「さようですか。ですが意識を取り戻したら呼ぶように伝えられております。念のためにも、やはり呼んでまいります」


 言い終わると同時にナナカの返答持たずに礼をすると、背を向け廊下へと消えて行った。


 今度こそ1人である事を確認する。同じ過ちを繰り返さないためにも今後は注意が必要だろう。それに気を付けないと無意識に男の部分が強く出る事がある。言葉使いも注意した方がいいのかもしれない。

 それに眠り姫と化す前から男まさりな性格だったと言われていても、やはり女性の胸に興味がありますと言うのは流石に違うといえる。ただ、29年の男性としての経験は簡単に修正のきくものではなく、今後もナナカを問題へと誘う原因にもなりそうではあるのだが、今心配してもどうしようもないのかもしれない。せめて細心の注意を払うとしよう。


 程なくして扉を開口したのはカジルでも医者でもなかった。

 蒼の髪と青い瞳。

 見覚えがある。

 意識を失う原因を作った胸の持ち主……姉レイア。


 さすがに意識を刈り取られた思い出を忘れるには短すぎる時間経過に妄想していた胸の事よりもレイアへの警戒心を大きく見せた。


 しかしその状態でどれくらいの時間が経過しただろうか。一呼吸だったかもしれない、いや10分は経過したと言われても100%嘘だとは言い切れない。姉妹の関係だと言うのに2人の居る室内にあったのは緊張と言う重い空気だった。


 空気の壁を打ち破ったのは姉の方だった。

 目の前に飛んできた蚊を叩きつぶす様に胸の前で両の手を大きく打ち合わし、自身の蒼い髪をうちわの代わりにするように頭を大きく振りおろし風を巻き起こす。


「ほんっとっ! ごめんなさいっ!」


 彼女の出せる限りを出し尽くしたであろう声の後に、ゆっくりと顔を上げて片目だけ開けてこちらを伺う。


 その姿をしばらく様子を眺めていたが――


「ぷっ!」


 17歳とは思えない仕草に悪戯をして謝る子供の様なかわいさを感じて、ついつい吹き出してしまった。


「わ、わざとじゃなかったんだよ? すーっごく、すーっごく心配してきてみて、元気そうなナナちゃんを見ちゃったら体が勝手に動いちゃったんだよ? この悪い体めっ!」


 原因を体のせいにしただけでなく、右の手で拳を作ると自身の頭を小突いた。罰を与えたつもりになっているのだろう。ナナカとしては、やはり記憶にない姉妹であり、どういった関係だったかは記憶にない。ただし暗殺しに来たわけではなかったと思いたい。あれほど大胆に暗殺する王族が居たら、それこそ一大事だ。恐らく、ただ思ったままに行動する人間。計画的な行動とは思えない。それ故に敵と感じる事はなく、信用しても良いと思えた。それに夢の世界の人間で巨乳に天然は居ても悪は居ない発言していた奴がいた。蒼い色の瞳を持つこの姉も同様と言えるのかもしれない。


「わかった。許す事にする。でも、これからは気を付けてよ? ま、た、死にたくはないからね」


 反省を促す言葉とは違い、納得した様子の笑みを姉に返す。

 レイアはそれを倍返しをするような笑みを浮かべて、ナナカへと走り寄ると反省の事を忘れたかのように抱き着くのだった。ちなみに若干ソフトに感じられるところが反省した点として表れているかもしれない。しかし行為そのもの自体を反省つもりはないようだ。再度の注意は無駄な気がして諦める。


 ……この程度なら我慢するしかないか。それに……妄想よりも大きい!?


 考え事を表に出さないように気を付けた点については、ナナカが成長した部分と思いたい。


 その後、遅れてカジルがシェガードと医者を連れて到着したが、姉は反省の色が見えないと再度の釘を刺された事は誰もが想像出来たことだろう。ちなみにナナカは姉の胸の中でまたもや妄想を続けていたりしたのが、健全な青少年であれば考える事は同じはず。いや、断言できる。間違いない。だから許してほしいものである。地獄の中で見つけた小さな喜びなのだから。

ナナカの心の葛藤を描きました。果たしてその心はどう成長していくのか?

結末は決めていません(笑)キャラの成長次第にお任せです。


2018/12/30

描写と表現の変更修正致しました。


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