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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
2章 王族の役目
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5 いつもの

夢から覚めてから、初めての友人を作ったナナカ。

更に初めてメイド長から雷を落とされたナナカ。

そして3日目の朝が始まる。

 過去3ヶ月の間、毎日同じ少女が眠って居た場所。

 そこが彼女の為の寝台である限り、長い眠りについていた少女が起きたとはいえ、夜になれば過去の見慣れた風景に戻る事は当然であった。


 6歳の姫は昨晩のメイド長の怒りが長引いたために寝る時間が遅くなった事もあり、鳥たちの朝の歌声に反応すら見せず、その姿は再度の長い眠りに就いたのではと思うほどに穏やかだった。


 室外からメイド達は小さな姫の起きている気配が感じられない状態ではあっても、三か月間やってきた同じ事を繰り替えすつもりで室内に侵入する。過去と違っていた事は起こさないように泥棒の如く音を立てていない事だろうか。


「……姫様が、まだ起きていらっしゃらないわよ」


 先頭行くメイドが囁くような声で残り4人に確認する。その声を合図に5人はベッドを囲むように寝ているナナカへと近寄り、寝顔を見下ろしていた。


「3ヶ月間の無表情の姫様と違って、表情がある寝顔よねー」

「「「「うん」」」」


 覗き込む5人の顔には堪えきれない様子の笑みがあふれていた。


「見て見てっ。このほっぺ、かわいいよね~~~」

「「「「うん」」」」


 寝顔を覗くだけで飽き足らず、その頬の弾力を確かめるように指でつつく動きは非常にスムーズで、過去も同様の事を繰り返していた姿を連想させた。


「これこれ……ぷるんっ、ぷるんっ。この艶のある唇……食べちゃいたいっ!」

「「「「うんっ、うんっ」」」」


 頬から唇へとつつくポジションが変化する流れも見事なコンポと言って良い。




「でもね~~~。姫様。もう起きてるでしょ?」

「「「「ですよね~」」」」


 その瞬間にナナカの瞳は上から眺める5人のメイドを捉えた。


 ……スルーする計画が……! しかも、また1人増えて……5人に!?


「なんでわかった!?」

「だって姫様。その小さなお鼻が、ぴくぴくと動いていましたもの」

「「「「ですよね~」」」」


 両の手で自身の鼻を隠すがもう遅い。過ぎ去った時間は戻ってこないものである。


「では、姫様。今日も私たちのお仕事に取り掛からせて頂きますね?」


 その後、満面の笑みを浮かべた5人のメイド達は少女の小さな抵抗を飲み込み、暗殺者の様に無言で仕事に取り掛かかるのだった。


 当然――今日も少女の声にならない悲鳴が館に響くのは当然の流れであった。


 ◇◇◇


「「「「「姫様。お疲れ様でした。失礼いたします」」」」」


 丁寧に声を合わせた5人は廊下へと姿を消していく中、「明日は誰が行く~?」と言うような、恋話をする若者の様に楽しそうな会話が響いてくる。全く、ナナカの抵抗など気にした様子はないようだ。


 ……間違いなく私を姫様扱いしていない! 楽しんでいる! そのうちやられちゃうヨ!


 3日目にして今頃気付き、小さな拳を握る姿は標的にされて抵抗を試みるナナカの姿は、リスの様に見えたかもしれない。だがこの小さな体ではそう見えても仕方がない。実際にメイドたちに抵抗する手段がないのだから。


 そのタイミングを計ったかのようにどこから現れたのか、執事カジルがいつの間にやらナナカの横に立ち、口元に笑いを堪えるようなエクボを作りながら挨拶をしてきた。


「おはようございます。本日も姫様にお似合いのドレスでございますね」


 褒められたドレスはたった今着替えさせられた物である。ひまわりをイメージしたかのような色と見る者に春のイメージを与えるような鮮やかな刺繍が目を引かせていた。着せ替え人形の様に着せられたナナカとしても「似合っている」とメイド達の見立てを認めるしかない。


「朝を迎えるのが、なんでいつもこんなに憂鬱なんだろうな」

「変に意識をしすぎるのではないですか?」

「意識するなと言う方が無理な気がする……」


 口を尖らせながら、つぶやくように反論する姿は6歳のわがままっ子そのものに見えるかもしれない。昨日まで大人たちと対等に渡り合っていた姿からは想像出来ないほどの子供っぽさに、カジルも心配な顔を見せるどころか隠していたはず笑みを深めたようにみえた。


 その表情に悔しさを感じたが、このロリコン疑惑の男にとっては単なるご褒美なるかもしれないと、これ以上の表情に出す事はなんとか抑える事に成功した。夢の経験が何とかここでは役に立ったようである。


「姫様。そんな事よりも先日にお話しした通り、本日ですよ」


 その本日の意味が理解できない。

 心当たりがないナナカは返答する事も出来ずに考え込んだ。


「お伝えしたではありませんか。レイア様が今日こちらに訪問予定だと」

「あっ、そういえば、言っていたような?」

「なんとなくは覚えていらっしゃるのですね。とにかく本日いらっしゃいます。あの方の性格からすれば到着するのは予定よりも早い時間になるでしょう。心構えと準備をしておいた方が良いと思われます」

「性格? そこら辺も良く覚えていないんだがレイア姉様はどのような人だったんだ?」

「はい。それはですね……」


 カジルの言葉が返ってくるよりも早く、廊下から室内へと風が巻き起こる。


「ナナちゃん! よく無事で!!!」


 扉が開くのが先か、声が先か、その声の持ち主はどことなくナナカに雰囲気が似ているものの、髪の色は空に溶け込むような淡い色であり、瞳の方は優しさと幼さが両立した綺麗な青を持ち、見る者を虜にしそうな魔術を持ち合わせているかのようだ。


 ただし、その行動は容姿とは関係がないのか、ナナカとの間に居たカジルを埃か何かの様に押しのけ、目標であるナナカを抱き上げると言葉を出す事が困難ほどに強く抱きしめてきた。


「ちょっ……!」


 ……これは立派な胸! じゃなくて、まずいっかもっ!


「ふぐっ! ううううぅぅぅ、か、かじるぅぅ……」


 目覚めてから初めてカジルに助けを求めた。それ以外に道は残されておらず、当然の行動と言えたかもしれない。押された勢いで倒れていた、その男も事態に気づき慌てて主の危険に対応した。


「レイア様! それ以上はナナカ様がー! ナナカ様が危険な状態です!」


 感情で動いていたレイアも力の抜けたナナカの異常に気づいたようで慌てて下ろすが、その時には少女の意識は現実世界から遠のき始めていた。


「くっ、今日も……」


 ……難問の始まりか……


 言葉は最後まで続ける事が出来ずに続きは心の中でつぶやき、ナナカは意識を手放す事となり、館内は一騒動起こったらしいが、意識のなかったナナカにはどうでもよい話だったかもしれない。

2018/12/30

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