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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
12章 吟遊詩人の歌
139/142

1 5という数字

 どこまでも透き通るような空の下、ナナカ達は陣を構えていた。

 本当なら陣など必要のない日が続いてほしかったが、当然のように嫌な予感に共感するようにその時がやってきてしまった。何しろナナカ側には選択権などないに等しかった。大体、このような場合に駒を並べ始めるのは横暴者側と決まっている。だからと言って放置すれば相手の思いのまま。こちらはそれ異論を表明し、合わせて駒を並べるしかないのである。ただし問題としては相手の駒はとても多い。こればかりはハイそうですかと相手に合わせて駒を増やせるわけではない。物事とは大抵の場合は不平等であるからだ。手元にある駒でやりくりするしかないのが人生であり、戦いというものなのだろう。


「やはり来たか。日にちも数もクライフの言う通りだな」

「はい、予想通り相手は2000ほど、こちらの約5倍のかずです」

「勝てるのか……とは言うべきではないか。勝たねばならぬのだな」

「そうでなくては私の人生設計が狂ってしまいます。もちろんそれはこちらの陣営の人間、皆がそうではありますがね」


 そう、相手の数はこちらの約5倍だ。これでも数は揃えられた方だとは思う。実際、用意できた傭兵は195人。これにベルジュの町に最低限の警備人員を引いた正規兵34人。そして町の選別された勇士が128人がナナカ陣営の用意できた兵である。ここにフェル=バートン指揮下の元親衛隊20名が全て……ではなかった。なんと予想外の勢力から応援が駆け付けたのだ。


 その勢力とは――バグダリア。

 そう、ナナカにとっては最も謎に近い王族であり従妹にもあたる陣営からである。

 数は僅か30ではあるが、バグダリアを補佐している、ラップという者に率いられた軍団だった。しかも少ないながらも、その30全てが騎兵隊という、ナナカ陣営にとっては喉から手が出るほど必要な部隊だ。何故なら騎兵と呼べる丙種はバートン率いる元親衛隊くらいで、それも一人前とは呼べない半人前揃いの部隊。そこにやってきた正規の騎兵隊は天からの恵みと言えた。

 ただし今の今まで接触も関りもなかった相手からの援護部隊はハッキリって気味が悪い。これがレイアからの援護部隊であったなら。こうも心配する必要はなっただろう。裏がある事は確定時効と見てよい。それでも受け入れるしかないほどに状況は悪かったのである。


 そして問題は他にも色々あった。その一つが……


「クライフ、本当に私が大将で良かったのだろうか?」


 そうである。ナナカがこちらの総指揮官であり大将となっていた。

 確かにナナカは陣営のトップではあるが、戦場という場のトップに立つというのは訳が違う。指揮を執った事もないし、もちろん戦争自体を経験するしたことがない。ずぶの素人そのものだからだ。


「そうですね、本来はあり得ない選択ではありますが、今回の場合は最善の選択だと思っています。何度も話したはずですが……まだ納得されておりませんか?」


 クライフの言葉通り確かに何度も説明はされていた。

 まず最初にナナカが思っていた大将はシェガードである。魔物討伐の時の経験からそれが当然のように考えていた自然な形だった。あの時の様に味方を鼓舞しながら先頭に立って戦う姿を思い浮かべるのは当たり前と言っても良い。しかしこれはクライフに不可だと選別された。理由は傭兵が正規兵も混じる戦争の指揮を執るなど聞いた事もなければあり得ない話だという。

 言われてみれば確かに正規兵を軽視する行為でもあるし、王族の混じる戦争では格が足りないと言えた。魔物討伐の時が特殊な状況だったのだと言えるだろう。


 ならばと元将軍であるバートンを推挙してみたが、こちらもクライフからダメ出しをされた。

 理由は元近衛兵である彼女たちを統率するべき役割を外せないという事からだった。少ないとはいえ、今回、ナナカ陣営で正規の騎兵隊の訓練を受けているのは彼女たち以外にはいない。ただ馬に乗れるだけでは騎兵隊とは言えない。隊として動けて初めて騎兵隊と呼べるのだ。だがまだ半人前の彼女たちを他の者に任せてはその半人前の力さえも出せない。騎兵隊を騎兵隊としてまとめるには彼女たちをよく理解しているバートンの存在は絶対に必要だという判断のようだ。


 だったらとクライフがとは口にしてみたが、それこそあり得ないと断言された。何故なら、突然どこぞの小僧がいきなりしゃしゃり出てきて大将格に置かれた所で誰もいう事を聞かないと。所詮は新参者の若造としか思われない。つまりは格はもちろんの事、実績が圧倒的に足りない。どちらも足りない以上、それでは戦争が始まる前から軍団が崩壊して終わるという話だった。


 そして最後は苦し紛れにバグダリアからの支援部隊であるラップにという案も思い浮かべたが、こちらは格や実績などではなく、ただただ不気味という言葉により、ナナカ自身の心の中で否定した。何よりも借りを大きくしてしまっては、その不気味な相手に何を要求されるかわかったものではない。


 だからと言ってナナカのような7歳の小娘が指揮官というのはどうなのだろうか。戦争とは戦術と戦略、そこにタイミングが合わさって勝利を手にするものである。クライフが補佐をしてくれるから戦術や戦略はともかくとして、タイミングについては経験が物を言う。どこまでナナカがやれるかは未知数だと言えた。


 何よりも「傀儡化していない事の証明としてナナカが先頭に立たなければいけない」とそう言われれば返せる言葉はもうなかった。


「やるしかないのだな」

「心配なさらなくても全てがこちらに不利な状況ではありません。有利な部分を前面に押し出して戦えれば十二分に勝つ算段はございます」

「軽く言ってくれるものだ」

「それに何よりもナナカ様が総指揮官だからこそ組まれる戦略もございます」


 クライフの言う戦略とは戦地選択権の事である。今の所、唯一と言ってよい有利点とも言える。

 何しろ相手はあくまでもナナカが周りの大人たちによって傀儡化している事からの救出を理由にしている。つまりはまともな防壁もない極小と言えるベルジュの町を防衛線にする必要はなく、それどころかナナカが居る場所が戦場になる。相手はどれだけ不利な状況であろうともこれに合わせるしかないのである。


「しかし5倍か……」


 実際、戦闘は戦力の多い方が勝つのが常だ。しかも5倍。それを今からひっくり返そうとしている、この戦争は普通は誰が見たって異常である。戦う前から白旗を上げても笑われない数字だろう。だが負けるわけにはいかない。負けてしまえば誰かが責を問われ、そしてナナカ自身に至っては本当に傀儡化される事だろう。

 

 ナナカは静かに戦場を見つめた。

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