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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
11章 世界の風はどこへ
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4 闇より暗し

 誰もがナナカから放たれた質問に答えられない時間が続いた。

 それはいろいろな問題から、ふと生まれた疑問だった。

 ナナカは”ソルガドの元領主”を知らない。当然会ったこともない。恐らく、あの誕生会の場には貴族であればいたはず……いや、あの時までは領主のはずであり、居て当然の存在である。そして領地について先代王から前もって話を聞いているとすれば何か接触があってもいいはずだ。逆に聞いていないかったとしても反論のために接触、もしくは異議を唱えていただろう。それなのにナナカが会っていないという現状の状況は異常事態である。それがナナカの一言で理解できてしまったからこそ、この場の静けさが生まれたわけである。この空気を生み出した者の責任として、空気の流れを誘導すべくナナカは再度、口を開かざる負えない。 


「元ソルガド領主は何を考えていると思うか、皆で思うところを話してほしい」

「お嬢、俺はあまりいい予感はしないぜ。キナ臭せぇとしか思えねぇ」

「たとえどんな理由があるにしても領土の移行や引継ぎが発生する限りは会合は当然です。それをしないという事は……」


 シェガードの予感にカジルの予想が乗る。

 二人の言う通り、王の指示に従わないという意思をヒシヒシと感じる。それがどのような形で今後現れるかは分からないが、前進しかできない馬車に乗っている気分ではない。どちらかと言えば坂道の途中で止まってしまった馬車の状況だと考えたほうが正しく思える。


「メシェがソルガドの事について知っていることを教えてくれないか?」

「それは難しい質問ですね~」

「何故だ。お前の情報収集能力はその程度だとは思いたくはないのだが、私の買い被りだったのか」

「いえいえ、私が現在興味あるのはナナカ様であり、その他の事については常識の範囲でしか把握しておりませんよ~」


 なんとも微妙な情報収集家である。それでもナナカよりはその常識とやらは備わっているだろうし、この中で情報に関しては頼りにするべき人間だ。その情報の中から拾えるものを拾うしか今はない。


「構わない。今知り得る限りの知識と情報をここで広げてほしい」

「そういうことでしたら……」


 最初にメシェから語られたのはソルガドの領地についてだった。

 王都ほどの華やかさがあるわけではないが人口は8万程度でベルジュの町よりも規模は大きい。主な特産は小麦であり、国内最大の生産地らしい。夢の中と同じ小麦であれば、保存も効くため重宝されていることは間違いないだろう。今更ながらに現実世界の他の食糧についても気になる部分も心の中に生まれてきたが今はそれどころではない。またの機会に考えるべきだ。

 ちなみに生産の働き手はほぼ奴隷のようだ。つまり奴隷使役についても国内最大の規模でもあるようだ。しかも働き手にほとんど金がかからないという事は領主に入ってくる利益は相当に高くなる。更にどうやら不当な値上げ操作もされているなどの噂もあるらしく、かなり莫大な利益が懐に入っていたようだ。そしてその利益を先代王の一言で王族に召し上げられたようなものだ。反発が生まれる可能性はとても高いというよりも当たり前であろう。

 もし今回の件で会合があり、何らかの異議や反論があったなら……会話による解決も可能性もあったのかもしれないが現状は会う事すら拒否されたも同然である。それが示す未来には暗さしかない。そして元領主である”ファン・ソルガド・ルージスト”は既に王都を離れたという決定的な情報。これで話し合いをする機会は失われたに等しい。

 以上がメシェの常識の範囲らしいが、ほかの者が口を挟まないという事は常識以上の知識だったに違いない。周りにメシェの有能性を示した格好となっただろう。


「誰か、ソルガドに走らせて真意を問うべきだろうか?」

「それは王族が貴族に対して下手に出る行為。あまり勧められるようなものではありません。しかも現領主が元領主に先に使者を送るという事はまだ領主はルージストにあると言っているようなものです。そうなれば先代王の意思に反する行為をナナカ様自身が行ったと見られても仕方がありませんよ。ちなみに僕としては先代王はこうなることを見越して領土をナナカ様に与えた……という考えも切り捨てられません。力を持ち過ぎた貴族を無理やり下ろそうとすることで軋轢が生まれ、しかも王座争奪戦の力を示せ、という先代王の趣旨にも沿っています。つまりはナナカ様が試されているということですが、やり方は少々強引に見えるかもしれませんが国を一つにまとめた方なら、それくらいやっても不思議はないかと」


 ナナカの提案はクライフから即指摘が入った。とんでもない想定つきで。

 どうやらナナカが無難だと思えた行為は同格に対する行為であり、上の者が下の者にする行為ではないようだ。それどころか、先代王の意思に反するとまで言われては提案を引っ込めるしかない。しかもそれが先代王の目論見であり、最初からレールの上を歩かされていたとなれば問題放棄することなど許されるはずもない。もちろんクライフの想定が当たっていればの話ではあるが、誕生会でのサプライズプレゼントで領地を与えるような人間だ。否定できない。


「では今は相手の出方を待つしかこちらにはないということか」

「もちろん長期に渡り相手からの接触がなければ先代王の判断に対して反意ありと見て、討伐部隊が出る事態になってもおかしくはありません。ただし、その場合はナナカ様の統治能力もなしとみられる可能性もございますが」

「なるほどな、しかし私としては統治能力なしと見られてもかまわないのだがな」


 そうである。そもそもナナカは別に領地拡大にも興味がないし、望んでもいないのである。プレゼントだなんだかんだと言われて押し付けられたような気分でしかない。面倒な話になるならベルジュの町で引きこもるつもりですらいる。無理やりに戦略結婚させられたりしなければ、あとは手元に小さな自由と平和が残ればそれでいいのである。元々王座を求めたり権力が欲しいわけでもない。それこそ町娘にでもなれるならその方がいいと思ってすらいる。現状はこちらの気も知らずに周りが妙な期待をナナカに背負わせているだけなのだ。


「お嬢らしいな」

「わたくしはナナカ様が統治する世界を見てみたい気もするのですが……」

「僕はナナカ様が一市民になってもついていきますからね~」


 シェガードが私の言葉に笑みを浮かべ、カジルが残念そうな表情を浮かべ、メシェがストーカー発言をする。なんとも意思がバラバラ集団である。だが誰も反論することがないのことだけはナナカにとっては少々うれしい部分でもある。ただしここまでは。


「メシェからナナカ様は王座に興味がないと聞き及んでおりましたが、どうやら本当の様ですね。ですが王族であるナナカ様が、統治放棄することは難しいのではないでしょうか。この国が王政である限りは統治というものは市民に対しての義務なのです。民主国家ならば辞任すれば次の人間が市民から選ばれるのでしょうが、王族という血は替えがききません。それに今回に限ってはナナカ様が動かなくても既に遠方で波は発生しており、いずれ足元まで波はやってまいります。しかもそれは小さくないと私は予想しております」


 クライフがまたもや空に雲を漂わせ始めた。

 しかもナナカが動かなくても勝手に波がやってくる……つまりは相手から何かを仕掛けてくるという予想。不吉しか感じさせない嫌な話である。しかし確かに会見すらも拒否するようなソルガド元領主であるファンとやらの行為は何かのアクションの前触れにも思える。クライフに考えすぎだと直ぐに返答できなかったのもそのせいだ。そしてここで問題となるのは……


「波はどのくらいの影響だと考えておるのか?」

「遠方で起きた波は離れるほどに時間をかけて大きくなるものです。ですから今は測りかねますが、最悪の事態にも備えておくべきかと」


 聞きたくない言葉だ。最悪という言葉は人に色んな想像を植え付ける。それがいま、ナナカに向けられた。しかもこの場合の最悪というのは一つしかない。


「内乱か……」


 ポツリと引き出されたナナカの言葉は、まるで確定事項のように部屋の中に重い空気を漂わせる。それは嵐の前の静けさにも感じられたのだった。

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