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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
11章 世界の風はどこへ
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3 混迷

 流石に兄ストレイの王座争いの参加については、バモルドの脱走のように内輪で終わる話ではない。早急に追加でクライフも呼び出し、情報の整理をすることになった。非常に低年齢の会議ではあるが現状の戦力はこれ以上ない。7歳であるナナカが旗手となり、ほぼ修学院からの離脱が決定した15歳のメシェとクライフに、傭兵兼護衛のシェガードとその甥でもある執事カジル。これがナナカ陣営の首脳陣。改めてみると本当に人手不足だ。それでもやるしかないのが悲しい現実である。


「それで兄ストレイが動くという未来予想図を描いた理由は説明できるのであろうな、メシェ」


 赤い瞳をいつも通り微笑むような表情のメシェに言葉と一緒にぶつける。

 もちろんメシェを信用していないわけではない。信用した上で根拠と理由が聞きたいのである。それによってはナナカ陣営の動ける範囲と残された時間なども分かるというものである。もちろん、その計算にはクライフの力を借りる予定である。だからこそ呼び出したのだ。


「理由はすごく簡単でして~、第一王子ストレイ様の後継者が生まれるからですよ」

「後継者……! ちょっと待て。それは兄ストレイの夫人が懐妊されたという事か!?」

「はい。その通りですよ~」


 その情報をどうやって手に入れたかは知りたいところではあるが、今はそれどころではない。

 簡単に言ってしまえば自分の命が短いと思ったからこそ、王座争いには参加しないと誰もが……そして恐らく本人も思っていたのであろう。しかし王座を渡すべき相手がいるとなれば別である。メシェの言う王座争いに加わってくる可能性はかなり高い。いや、諦めかけていたストレイ陣営の貴族たちの後押しもあるとなれば確実だろう。全くないと思われていた所に降って湧いた大きな機会である。到底逃すとは思えない。7歳の王女であるナナカにアプローチしてきた貴族たちを見ていれば、それは十分に理解できた。


「どう思う、クライフ」


 短い付き合いではあるが、クライフの能力をナナカは低くは見ていない。それどころか、ガキ大将のようなシェガードや執事であるカジルよりも、そういう分野では鍵が合っているのではないかと考えていた。質問をクライフに向けたのはそんな理由からである。


「人の心は移ろいやすいものです。それが新たな己の分身の為とあれば誰もが幸せを願い、良き未来を望むでしょう。これは人類が何百年経過しようと変わらない部分であり、生物としての本能ともいえます。メシェの言う通り、2,3日中には声を上げると見て間違いないでしょう」

「やはりそう思うか。となると……宰相はどう動くと思う?」


 そう、現状から考えるに一番反応が大きいのは宰相に違いない。これまではナナカを敵視していたようだが、消えたはずの影が光となって表れたのだ。警戒する相手が増えたのだからこちらばかりに目を向けてはいられないだろう。


「大きく分けて可能性は3つあると思います。まずは三つ巴の形を作るべく、ストレイ陣営の目をナナカ様に向けさせることです。これは誕生会の事もあって元々警戒は高くなっているため、難しくはない方向性でしょう。次は他の陣営を取り込む可能性です。もちろん、ミスト様やバグダリア様の陣営です。ですが2人の性格から考えるに可能性は低いと言えるでしょう。最後に……これはナナカ様が一番嫌いそうな事だと私は見ていますが、ストレイ陣営に乗り換える可能性です。この方向性が一番あり得ると私は見ています」

「乗り換えるだと! それはラルカットを捨てるという事か!?」

「はい。何しろナナカ様に一度傷をつけられていますからね。価値は下がったとみて乗り換える可能性は十分にあり得るかと。結果としてストレイ様の子供を傀儡に出来るのであれば宰相様としては年数がかかるとしても落ち着くところは同じになりますからね。病弱であまり動けぬ、ストレイ様としても歓迎すべき相手ではないでしょうか」


 兄ストレイと宰相バール。確かに脅威の勢力になり得る組み合わせである。何しろ全く別だった派閥が合併する、それだけでも大きな力になるからだ。どちらが主権を握るかは分からないが双方にとって悪い話ではない。だが問題はそんなことではない。


「価値がなくなったから捨てるだと……王族を、いや、人をなんだと思っている!」

「お嬢、感情的になるな。それが王座争いをする王県政の世界だ。感情に流されたら呑み込まれちまうぞ?」

「しかしそれではこれからラルカットはどうなるというのだ!?」

「姫様、落ち着いてください。ラルカット様が死ぬわけではないのですから……」

「甘いです」


 カジルのもっともらしい言葉に釘を刺すような言葉が15歳の少年から飛び出した。クライフだ。


「そもそもラルカット様はそうなった場合に誰の支援を受けると御思いですか?」

「それは母親である第五夫人の陣営が後援者となり……」

「ありえません」


 またもやカジルの言葉をクライフが断罪した。どちらが年長者か分からない状況である。


「現在の第五夫人は実の母親ではありません。父親だった王と妾の間に出来た子供を、なかなか子供が出来なかった現在の夫人が養子として受け入れているだけであります。よって宰相の後押しがなくなった時点で旨味がなくなったとみて共に離脱するでしょう。強力な後ろ盾を失うのですから当然のことです。沈みかかった船の展望台よりも新しい船の倉庫の方がまだましです。孤立無援となる可能性は非常に高いと言えます。その場合、最も危険な立場に立たされることは確定的と見てよいでしょう」

「ちょっと待て! 殺されるかもしれないという事か!?」


 非情な見解を語るクライフの言葉に今度はナナカは大きく反応する。正直、兄弟としての意識は小さいと言えども血は繋がっている。それに同じ子供であるナナカが言うのも変かもしれないが、身分を超えた相手の心配をしてナナカに助けを求めた考え方は子供ながらに好ましい。謎とも言えるくらいに熱い愛をぶつけてくるレイアよりもである。そんなラルカットが殺されるかもしれないとなれば怒りが湧いてくるのは当然の結果だった。


「ナナカ様。今すぐというわけではございません。ですが何れその時は来ると私は見ています。その時に手を差し伸べるのがナナカ様であるとしても、その時に力がなければそれも無為に終わることになります。力を……今よりも高みを目指さなければラルカット様も、そして国民も救えないのです」

「そうやってシェガード達のように私に王座までの道を歩かせるつもりなのか?」

「いえ、私とメシェはナナカ様個人に興味をもっただけの人間です。王座を目指さないとしても忠誠が変わることはないと覚えて置いて頂きたいです」

「それで……すぐではないと言うが時間はどれくらいあると思う?」

「恐らく7か月」


 7か月。つまり生まれてくるまでは時間があるという事だ。聞かされてみれば、それも当然と言えた。何しろ夢の世界と違って、現実の世界の出産致死率は低くない。しかも病弱な王子の子供となれば死亡率が高くなることはあっても低くなることはないだろう。その可能性を考えれば安易に宰相バールは動かないだろう。動くとすれば出産して無事が確認できてからという事だ。


「いっその事、こちらがストレイ陣営につくか」

「それは相手が飲まないかと」

「何故だ?」

「ナナカ様、お忘れですか。ナナカ様は既に中領地領主になったのですよ。つまり、ストレイ様の領地を超えております。そんな相手を味方に引き入れるとなれば下手をすれば立場を逆転されかねません。誰がそんな相手を信用するでしょうか。館の中で竜種を飼うような愚かな行為です」

「ふはははっ! お嬢を竜種に例えるとは見込みがあるぜ、坊主!」


 今まで静かだったシェガードが、クライフのナナカの例えに反応した。こういう事への反応だけは異常に良い。この会議に真面目に加わる気はなさそうに思えてきた。


「私が竜種かどうかは別にして、それほど私の管理地域は脅威となっているのか?」

「この国の食糧庫と港の一つを手に入れたのです。小さな国の王にも匹敵しますよ」


 さらりとクライフの口から出た言葉に、ナナカは自分が現実を何も知らないお姫様なんだと再認識する。ベルジュの町だけで一杯一杯だったとはいえ、この数日でそんなことすらも調べていなかった事に恥ずかしさすら覚えた。そして同時に更に大事なことを気づかされた。


「ソルガドは領主がいる、いや居たのだな? ヘーダル港の方も同じか?」

「へダール港はほぼ自由都市となっておりますね。現在の領主はいないも同然です。ですがソルガドは”元領主”がいるはずです」


 クライフから答えが返ってくる。恐らくそれは現実世界の常識なのだろう。

 しかしそれは更に一つの問題を掘り起こすことにもなる。


「ではその”元領主”は現在何をやっているのだ?」

 

 ここまで順調とは言えずとも、ナナカの質問に消えることがなかった返答が止まる。

 ナナカの口から吐き出された言葉が部屋に沈黙を下した瞬間だった。


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