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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
10章 資源略奪戦
130/142

10 2号

「メシェは落第寸前の生徒でしたけど、それでも下から数えて2番目だったんですよ。では1番下は誰なのかという事が問題に連結してくるのですが、ここまで言われれば誰でもわかりますよね?」


 クライフがとんでもない発言を口にした。その言葉の意味を探るなら……


「まさか落第寸前のメシェの下は貴様だというのか?」

「ご名答です。つまりはわたしも落第寸前という事になります」

「それは私が、とんだ紛い物をつかまされたという事か?」

「そうはならないようにはするつもりですが、その可能性もないとは言い切れませんね」


 落第寸前が本当だとしてもカード勝負に10連敗した、ナナカからすれば信じられない話である。

 更にはメシェの情報の価値をナナカと同じように評価して、ナナカに取り入るための助言もしたとも言っていた。何よりもクライフを目の前にして出来る人間だと感じる。もちろん別にナナカを評価して雇い入れを申し込んできた事は考慮していない。そこまで自分に己惚れていないからだ。

 

 となればもう一つの可能性……


「修学院とは私が思っている以上にレベルの高い場所なのか?」

「それは落第寸前の僕からすると答えにくい質問ですね。ただ低くはないと言えます」

「確かに落第寸前の人間からすれば低いとは言えないだろうな。しかし落第者に負けた身としてはどうしてもクライフ、貴様が能力のない人間とは考えづらい。何か理由があるのだろう?」


 その言葉を聞いたクライフが楽し気に口元に笑いを浮かべた。


「ああ、正解でした。メシェの目は。そしてわたしの勘も間違っていなかった。あの学習院の人間たちとは違う」

「違うだと? まるで正当な評価されなかった人間の言葉だな。当然、その評価方法も聞かせてもらえるのだろうな?」

「もちろんです。ナナカ様。お話いたします。王都の修学院の評価について。まず修学院というのは各国に存在しておりますが、それぞれで方針が全くと言っていいほど違います。そしてわが国で求められるのは全ての科目で水準を超えること。達しなければ落第点として扱われます」


 それはナナカの夢の世界でも同じだった。全科目で赤点が許されない。普通である。


「そしてわたしは優秀な成績を上げていました」

「ちょっと待て優秀だと……? ならば何故落第になる?」

「もちろん一部だけだからです。剣術や魔術、体術に政治学など殆どの科目で落第点だったのです」

「逆に何が優秀だったというのだ?」

「わたしは算術と戦術についてはトップでした。ですけどその他については最下位だったと言ってもよいです。そもそも興味がありませんでしたから」

「つまり得意分野以外は全滅というところか。いくら興味がないとはいえ、それを優秀というのかは微妙だが……メシェの方はどうなのだ?」

「僕ですか? 僕は歴史と話術については誰にも負けたことがありませんよ。でも他は興味がないというよりも単純にダメでした。僕よりも下だったのなんてクライフくらいですよ。あはははっ」


 ……あはははっではない! ……そこ! 壁男! ニヤニヤするな!


 だがなんというか目の前の2人はズレている。興味がないで済ませる奴と単純にダメなのに能天気に見える奴。しかも後者に至ってそれが本物には見えない。特に話術がトップだなんて嘘のような口調である。なんというか不気味な部分があるように見えてならない。


「よくそれで入学できたものだな」

「我が国の修学院はお金さえ積めば誰でも入れますからね。わたしもメシェも親の力で入学したという事です。まあ、それも無駄になっちゃいそうですけどね」

「はぁ~……それでは誰でも入れるという事になるではないか。私は人を見る目については少しは自信があるつもりだったがどうやら間違いだったようだ……」


 なんというか夢の世界の3流大学のようなシステムである。

 金さえ払えば入れて、後は落第点を取らなければ大丈夫。しかしそれでは一部突出型の目の前の2人のような人間は確かに弾かれる。夢の世界でも見られた従属型人間を育てるためのだけの教育。それでは個性は育たない。

 しかし同時に目の前の2人が扱いにくい人間であることは何となく見えてきた。別にサーカス軍団を作るわけでもないのに個性の強い人間ばかりが集まるのはどうなのだろうか。メイドだけでも手を焼いているのに他もこれでは頭が痛くなる一方である。

 これまでにシェガードにもしても、バモルドにしても良い悪いを別にして的を得た評価で判断を下してきたつもりだが間違っていたのかもしれない。これからは十分に気を付けるべきなのだろうか。


「俺はお嬢の判断や評価をわりぃとは思わねけどな。面白いと思うぜ?」


 壁男がしゃべった。

 てっきりこのまま最後まで口を挟まないと思っていたのに意外である。

 いや、そもそも面白くてどうするという話である。


「シェガードに好かれても危険の匂いしかしないのは何故だろうな」

「お嬢は危険な匂いのする男が好きなんだと思っていたが勘違いだったか?」

「勘違いではなく、完全に間違いだっ!」

「ふっ……」


 ナナカの言葉に口元を緩めたシェガードに完全にペースを持っていかれている。

 これは相手にしてはいけないパターンである。負け試合にかならない。


「ともかくだ。今更入居お断りを出すつもりはないが、親への説明だけはしておいてくれ。変な敵意をこちらに向けられてはたまらないからな」

「僕は大丈夫ですよ~。親はナナカ様に心酔してますからね。先日あいさつに来てたでしょ?」

「へっ?」


 心酔という言葉も気になるが、挨拶とは何だろう?

 もしかすると館で適当に受け流していた、あの挨拶集団の中にメルとメシェの親も混ざっていたのだろうか。なんでも適当に流してはいけないという事例になりそうだ。今度、メルに確認してみるとしよう。


「ああああ、ぼくの親ではナナカ様の興味を引けませんでしたか。残念です」

「そ、そんなことはないぞ。メシェとメルによく似た父親だったなっ」

「そうでしたか」


 そうメシェが軽く受け止めながらも、ナナカの言葉が嘘であることを見抜いたように、口元が崩れていた。やはりこの男は色々と苦みを感じる人間である。シェガードと同じくらい気を付けよう。


「クライフの方がどうなのだ?」

「いろいろと問題のある親ではありますが、わたし自身で片づけますのでナナカ様は心配なさらないでくださいませ」

「片づけか……まあ良い。そういうなら任せておこう」


 実際は不安がある。親に対して”片づける”なんて言葉を使う時点で問題がありそうな親子関係である。上手く話し合って解決してほしいものだ。


「では最後にちょっとした質問をよいか?」

「カード勝負の事でございますね?」

「その通りだ。なぜ10連勝もすることが出来たのかだが、教えてもらえると今夜は安心して枕を抱いて寝れる。私の安眠に協力してもらえるかな?」

「わかりました。ナナカ様の枕が柔らかくなるようにお応えすることにいたしましょう。まず神経衰弱ですが、これは記憶領域の勝負と言えます。そしてそれで私は負けた覚えがありません」

「勉強は出来ないのに記憶領域に自信とは面白い」

「仕方がございません。興味がないものを頭に入れる必要がございませんから」

「ならば精々私は頭に入れてもらえるように興味を引かなければ成らぬわけか、なかなか厳しいな」


 クライフは感覚天才型だろうか。夢の世界で聞いたことがある。ある種の天才は興味のあるもの以外は物覚えが悪く、興味のあるものや出来事などについてはよく記憶している。社会不適合者になりやすい天才である。使い方次第では腐りもするし、輝きもする難しいタイプともいえる。メシェとは別の意味で厄介かもしれない。


「ナナカ様はそのままで十分に魅力的ですから気にしないでくださいませ。では話を続きを。実はわたしは神経衰弱をしている間にナナカ様の癖を見つけました。これで勝負は4割勝ったも同然です」

「癖だと?」

「はい。気になることや考え事があると口元周辺を右手で触るのです」


 それは気づかなかった。まさに無意識にしていた行為だったからだろうか。それではいくらポーカーフェイスを気取ったところで全てが無駄である。


「しかしシェガードとメシェもいたのだぞ?」

「その2人には勝つ意思がみられませんでしたよ。手を抜いていたのでしょう。これが3割」

「そりゃそうだ。2人の勝負に水を差しちゃいけねえからな。脇役には脇役の身分ってものがあらぁ」


 その言葉を受けたシェガードが当たり前と言わんばかりにサラリと言ってのける。

 つまりは数合わせのためだけに存在していたという事である。気づかなかったナナカ自身の見る目のなさに小さなプライドが少々傷つく。まあ敵をクライフ1人だと考えながらプレイしていた部分があったためという理由を救命ロープとして握っておこう。でないとそろそろ泣きたくなる。


「となるとそのあとの勝負もそれをもって勝ち続けたわけか?」

「いえいえ、それだけでは勝てるわけがありません。実際にその時点の予想では勝率8割程度で考えていたのですから。特にポーカーやブラックジャック等は運の要素もございますから、10連勝というのは、ナナカ様の運のなさがなければ成しえませんでしたよ」

「う、運がないだと……!?」

「つまりは最後の3割は運で勝ったという事です」


 考えたくなかった事実である。

 そもそも毒らしきものを盛られて3ヵ月も眠りにつき、起きて早々にメイドたちに弄られ、その上にバモルドなんぞと出会った。その後も王族の争いの真っただ中に立たされ、魔物の襲撃にも会い、うれしくもないプレゼントを先代王であるミッター・バスから贈られ、現在に至る。

 確かについていない。

 

「頭が痛い事実かもしれないな……」

「不足分は部下に頼ればいいではないですか。今日ここに2人も追加されたわけですしね」


 何気に自分たちをアピールしてくるクライフ。

 不安は残るが結果を出したのは事実である。

 そこに関しては仕方がないが、ナナカの瞳の向こうの男3人がニヤニヤしている姿を見ると間違った判断をしたのではと思いたくもなるというものだ。

 

「お嬢、周辺がますます賑やかになってよかったな」


 明らかに面白がっているシェガードの言葉が更にナナカの頭を悩ませるのだった。

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