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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
2章 王族の役目
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4 ナナカの願い

否応なしに国の混乱の中心へと引っ張り込まれるナナカ。

それでも平凡な生活を少女は求める。


 ナナカは自身のとんでもない先代王である爺さんの話を聞き、夜食を口にする時間まで運命の船を動かす為に必要なオールの無い状況をどうするかと考え込んでいた。それでも食事が終われば満たされた腹のお蔭で多少の余裕を取り戻す。お陰で考えても仕方がないという結論に達し、心の風の入れ替えを行うべく館の外回りを散歩していた。


 本来ならば一番落ちつけるはずの自室でのんびりとしたいところだが、今日のイベント発生で室内の空気でも落ち着ける気はしなかった。外の空気を求めるのは必然と言えよう。


 だから館から庭へと足を踏み出したのだった。

 現実世界は夢の中でのネオンと違い、夜になれば館の庭と言えども闇の力の方が強く、その静けさは自分が世界で1人になったかのように感じる。考えてみれば庭を歩くのは目覚めてから初めてだった。王族の館と言うだけあって、夜とは言え整備の行き届いた景色は現実感を薄れさせる程だった。外壁に沿って作られた塀も人が簡単に乗り越えられる物ではなさそうだった。向こう側で見張り人達の明かりが感じられ、身の危険を心配する必要はなさそうに感じられた。


 ただ誰もいないと思っていたナナカだったが、こんな時間だと言うのに庭の花壇を見つめている質素な使用人の服装に身を包んだ人影を見つけた。


 ……こんな時間にも花壇の手入れとは? それほど、この庭を維持するのは大変なのだろうか? まさか暗殺者なんてことは?


 一度確保したはずの安全という言葉を振り払いながらも歩幅を小さくして影に歩み寄っていく。

 すると遠くから見た雰囲気では分からなかったが近寄ってみれば見覚えのある姿に悪い予感が的中しなかったことに安堵する自分自身がいた。もちろん知っている相手となれば当然ながら声もかける。


「ルナじゃないか? こんな遅くに何をしてるんだい?」


 意識の外からの声に死人にでも声を掛けられたように、ルナはナナカへと振り返った。


「ひっ、ひ、ひめぇさまぁああ???」


 当然返ってきた声と言葉も家事めて見せるアクションを見せる。

 夜のこんな時間に王族であるナナカから声を掛けられるとは思っていなかったらしい様子のルナは、声にならない様な声を上げた失敗に、その口を両の手でふさいだ。


「すまない。驚かせてしまったか? そんなつもりはなかったんだが悪い事をしたかな?」


 素直に驚かせたことに謝罪したものの、王族からの謝罪に対してルナは反射的に地面に額を擦りつけるような体勢を取ってしまっていた。勇者バモルドと一緒の時は落ち着きのある、堂々とした印象を持ったものだが、実は虚勢を張っていただけなのだろうか。こちらが本当のルナだと言われても不思議はない程の姿である。


「申し訳ございません! 夜間に姫様の気分を害するような失礼な言葉をっ!」

「まてっ! そんなに畏まらなくてもいい。落ち着けルナ。君は悪い事は何もしていない」


 謝罪を繰り返しそうだった気配を感じ取り、ナナカは言葉を割り込ませて落ち着きを求めた。そんな言葉に一瞬、理解が追い付かないように呆けていたルナも夜の涼しい空気に冷やされて落ち着きを取り戻す事に成功したようだ。

 

 やがてルナはゆっくりと顔を上げて、こちらへと顔を見せた。その顔は昨日まで奴隷だったと思えないほど綺麗で瞳に反射する月光は見る者の心を奪いかねない美しさも感じられた。その影響のせいか、現実では姫様であり、間違いなく女のはずのナナカの頬にも変化をもたらしていた。


 ……おおおうっ! 落ち着け! 心臓が鼓動がっ!


 男だった夢の記憶が心を乱す。心臓の音がルナに聞こえそうなほど高鳴っているのが自分でもわかる。だがそんな心臓の音など空気を超えて伝わることはなく、互いに困った状態の双方は言葉を紡ぎだすことが出来ずに虫の音だけが夜空を満たす。




 どれくらい経っただろうか。数分……いや数秒だったかもしれない。偶然に生まれた沈黙は先に冷静さを取り戻した様子のルナにより世界は音を取り戻した。

 

「今は雨季で晴れた日の夜には、1年で最も綺麗な満月が見えると言われております」


 虫たちの話し声の邪魔をしないように静かに紡ぎだされた、ルナの声がナナカにも余裕を取り戻させた。 


「満月か、確かに今日は空気が澄んでいる。綺麗に見える日かもしれないな」


 今は夏が近づいている時期らしく、空も晴れて余計な塵やゴミは雨と風に洗い流されているのだろう。そう納得しながらもナナカは光を反射させている月を見上げた。そしてそこにある新たなる現実の世界を垣間見る。


 ……馬鹿な! あれが月だとっ!?


 驚きは夢の世界の月との違いから生まれたものだった。

 そこにあった月の大きさは夢の記憶に近い。

 もしかしたら綺麗に見える分だけ大きく見えているかもしれない。

 ナナカの驚きは、そこではない。

 月の4分の1に達しようかというクレーターがあり、更にはその部分だけが異常に光を反射しているのだ。


 ……鏡なわけがない……水? いや、氷か!?


 月に水があるなど聞いたこともない。もちろん水であると確定したわけでもないが。だがそれは夢の世界の記憶である。現実の世界の常識はこれなのだろうか。正直なところ違和感しかない。


「あの月には水があるのか、ルナ?」

「水? 水ですか? 私には分かりかねます。カジル様ならば何か分かるかもしれませんが私のような元奴隷の身では難しい話にございます」

「そ、そうか。すまん。気にするな」

「奴隷如きに姫様が謝る必要はございません。知識がない為に返答が出来ない私が悪いのです」


 今更ではあるが、ルナの言うように奴隷身分の者に王族の姫が謝罪するなど、本来はあり得ない話かもしれない。しかし先刻から身分の差を元に謝罪を続けられる現状はナナカにとっては気持ち悪かった。

よくわからない月の常識よりもこちらを優先するべきだ。


「ルナよ。私はあなたを奴隷として扱うつもりなど小指ほどにも思っていない。あまり畏まってくれないでほしい」

「しかし、姫様……」

「まてっ! 2人で話している時は姫様も禁止する! ナナカと呼んで構わない」


 現実世界は奴隷と王族では天地ほどの差があるのかもしれない。その証拠にナナカの言葉を受けてもルナからは戸惑いしか見られない。しかしナナカとしては誰が敵かも分からず、誰が信用出来る味方であるのか区別すら難しい現状で、ルナとサンだけはイレギュラーとして自身の手元へと手繰り寄せた中立の人間であり、味方でないとしても敵でない事もハッキリしている人間。そんな相手はこの2人だけと言えた。だから上下差をつけることだけはしたくない。例え表向きはそういう形式を取るとしても、二人きりの時くらいは、そんな壁を取り除きたい。


「私は、この世界で敵が多い。でも友達は1人も居ないんだ」


 自身で口にしながらも、その言葉を実感すると急に背筋が冷える感覚すらする。もちろん明確に敵と言える存在を確認出来ているわけじゃない。ただ味方と確信を持てる人間がいない状況は、周りが全て敵と判断するよりも辛いときがある。


「私は……ルナに1人目の友達になってほしいんだ」


 この世界で信用できる1人目に……話し合える1人目に……1人目の友達を今願う。


 ルナはその難題を拒否しようとしたのか、それとも理解しようとしたのか、迷うように視線は大地に向けられていた。


 逆に返答を待つナナカにとっては告白して返事を待つような気分だった。緊張して五感が鈍くなったように感じられる。その為、ルナからの最初の返事は良く聞き取れなかった。


「わ……た……でも……」

「えっ?」


 それでも……ナナカからの再度の返答を求めるような漏れた言葉に、目元に満面の笑みを浮かべたルナの口がゆっくりと開く。その返事は、ナナカが目覚めてから一番嬉しさを感じた出来事となったのだった。


 お陰で月に水があるなどと言う話は完全に頭から抜け落ち、時間が経つのも忘れたように仲良く会話している所を激怒したメイド長に発見されることになったのだが、その向けられた雷はナナカにとっては目覚めてから一番恐怖を感じた出来事となったのであった。

2018.12.29

描写と表現の修正変更しました。

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