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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
10章 資源略奪戦
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7 ピエロ仕掛けの待ち人

 ナナカはソファーに深く座り、待ち人と対面していた。もちろん相手はメシェである。

 ただこの場にはそれ以外の人間も2人追加されていた。

 1人は昨日はここへ現れなかったシェガードだった。

 あの大変な状況を味わっていない彼だが傭兵の嗅覚なのか、それとも単なる野生の感なのか、今日はタイミングよくメシェと共に現れたのである。今は訪問者であるメシェを、ソファーに座るナナカと協力しているかのように、間にメシェを挟んで壁の背を預け立っている。もちろん実際には指示した覚えもなければ、協力したつもりはない。シェガードが勝手にそこに陣を構えただけの話である。


 しかし、ナナカの存在は兎も角としても、見知らずの屈強な傭兵が背後に立つ状況なんて普通の人間なら恐怖しかないだろう。ただそれでも表情一つ変えずにナナカと向き合うメシェはタダ物ではない。そして”メシェの隣”に座る、もう1人の人間もメシェ同様に動揺を見せていなかった。


 彼の名はアーゼ=クライフ

 光の当たり方によっては金にも見える短め髪に漆黒の瞳を持つ青年で、向けられる視線は獲物を監視する狐のようである。飄々と猿真似を演じているようなメシェとは全く違った雰囲気だ。ちなみにメシェが言うには同級生であり、同時にメシェがここへ来るのが遅れた理由でもあるらしい。


「メシェよ。あんな騒動を引き起こしたのだから、お前は弁解の為にも、もっと早く来るものだと思っていたのだが、遅れた事についてはお前の本意ではなく、このクライフが原因という事だがどういうことなのか説明してくれるのだろうな?」

「あはは、僕は弁解をするつもりなんてありませんでしたけどね。もちろん説明はするつもりでしたよ~。ただ今朝まではクライフの事は予定には入っていなかったので、こちらに関しては弁解する必要がありそうですね~」


 ナナカの質問に応えるメシェは、やはり背後のシェガードの事など気にした様子もない。

 シェガードの方もそれを気にした様子もなく目を瞑りこちらの話し合いに耳を傾けている。

 闘いを主とする人間と、情報を主とする人間が瞳を合わせない中での静かな戦いをしているのではと、勘違いをしてしまいそうな風景である。実際は2人とも能天気なだけという見方が一番正しいのかもしれないが。


「そうだな、昨日の様に”団体様”が来る前にさっさと説明してくれると助かる」


 ちょっとした昨日の抗議を言葉に含ませて、メシェをつついてみる。

 

「いやいや、今日は何も仕込みをしていないです。心配しないで大丈夫ですよ~」

「そうであってくれると助かるがな」


 当然の答えが返ってきた。2日続けてあんな事があったらナナカが怒るまでもなく、怒った姿を見せた事のないカジルですらキレる可能性すらある。それはそれで見て見たい気もするが、またの機会にしてほしい。ただでさえ王都に居るだけで面倒事は雨の様に降ってくるのだ。今日くらいは平和を望みたいが可能だろうか。


「では改めまして、こちらの同級生であるアーゼ=クライフなのですが、僕が今朝のんびりとナナカ様の所へ向かおうとすると道途中で待ち構えていたのです~。彼を見つけてしまった僕はそれはそれは必至で逃げ回りました。あんなに必死に逃げたのは姉の初恋の相手に姉の恥ずかしい話をした事がバレタ時に逃げ回った時以来ですね~」


 ……色々突っ込みたいところは満載だが


「ちょっとまて。そもそも何故、このクライフから逃げ回る必要があったのだ?」


 メシェの説明には逃げ回る理由が完全に抜けている。まるでそこには目を向けさせたくないと言わんばかりにである。いくらなんでも避け方が下手すぎる。


「やっぱり話さなければダメですか……」

「当たりまえだろう。何を考えているんだ君は。約束を違えるつもりか」


 諦めたように声の沈んだメシェに追撃を加えたのは、ここまで静かだったクライフだった。しかもどうやら2人の間には約束があったのだという。となるとその約束はメシェとこの場に現れた事と関係がありそうである。


「私はどちらから聞いても構わないが、あまり幕が開かないようであれば開演を中止しても構わないのだがな」


 遠回しに「早く口を開かないと追い出すぞ」と急かしてみる。その場合、実際に追い出すのはシェガードの役目になるだろうが、シェガード本人は何も聞いてないとばかりに空気に徹している。まるで演劇の観客のようである。


 ……これは何も期待出来そうにないかもしれないな


「いえいえ、僕はチケットの払い戻しには応じられません」

「ならば、さっさと話すがよい」

「当然、そうなりますよね~」


 メシェの陽気な口調の返答の中に、話したくないと言う苦渋が垣間見える。

 この状況で話さないと言う選択肢はないのだが、何をそんなに渋る必要があるのか分からない。


「ナナカ様。メシェと話していても会話が進みませんので、宜しければわたくしからお話してもよろしいですか?」

「私はどちらから聞いても構わない。答えてもらえるのならばクライフと言ったか、お主が説明してくれて構わない」

「畏まりました。ではそのようにさせて頂きます」


 どうやら進行役をクライフが務めてくれるらしい。口調や言葉遣いからもメシェとは正反対の性格に思える程にハキハキとしていて、子供であるナナカにも王族として対応している事が分かる。メシェと同級生だとは思えない程だ。もっともこの場合はメシェが勝手に格を下げているだけなのかもしれないが。


「ナナカ様は昨日の件についてどこまでご承知でございますか?」

「昨日の件だと、それが遅れてきた事と何か関係があるのか。そもそも何故それをクライフが知っておる?」


 当然だ。クライフと話すのは今日が初めてで会うのも同じく初めてである。いくら昨日は来客が多かったとはいえ、昨日あの場で見た覚えはないし、見間違えるほどクライフの印象は薄くない。一目見れば忘れられないと言った方が正しいだろう。夢の中で男性として生きた経験のある、ナナカにとっては”心トキメク”などという気持ちは湧いてこないが、舞踏会にでも出席すれば女性たちの間で人気が出そうである。


「はい。確認をしたわけではありませんが、私が考えた策をメシェが容易たためだと思われます」

「考えた策だと……?」


 つまりは昨日メシェが仕込んだ事とは、クライフが考えたものだという事だろうか。しかしそれと今日遅れた事の繋がりが見えない。更に確認したわけではないと言いながらも、クライフの瞳には確信の色が見てとれる。メシェは曲者だと思っていたが、どうやら本当に曲者なのは目の前の青年なのかもしれない。


「ご興味を持っていただけたようですし、折角ですから、わたくしがここからは主役の座を務めさせ頂くと致しましょう」


 クライフはそう口にして、進行役から主役へと躍り出る。そして事のカラクリを明かし始めたのだった。

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