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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
10章 資源略奪戦
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2 この姉にこの弟あり

 ナナカとしてはメイドのメルに弟がいる事は初めて聞いた。ただ本来、メイド達は家柄などを口にする事はない。当然、その家族構成についても知っている者など殆どいないと言ってもよかった。突然、面接者が来たと言われて、それが弟だと言われれば多少の混乱も仕方がないのではないだろうか。


 現在その当人である、リルダ・メシェは何食わぬ顔でソファーに座る、ナナカの前に立っていた。

 見た目はメルの弟というだけあって顔立ちは幼く、中性的な感じを受ける。貴族のご婦人方に受けはよさそうだ。更に姉と同じ栗色の短めの髪には天使の輪が見られ、清潔感も高い。恐らく将来、舞踏会に出る機会があるとすれば人気を博すことだろう。


「で、随分と突然の面接申し込みだがどういうつもりだ」


 知り合いの弟だろうとも、見た目がどうであろうとも、ナナカは普段の口調を変えるつもりはない。綺麗所は先日の誕生会にて嫌というほど見ている。そもそも鏡でこれ以上にない美人と毎日会っているのだから驚く事ではない。面接を申し込んできているのだから必要なのは中身の方である。


「これはすいませんでした~。第三王女であるナナカ様が随分と困っているって噂を聞きましてね、僕ならば力になれるかと思いましてやってきたわけですが、お邪魔でしたか~?」


 少々恍けた口調ではあるが、言葉の意味から考えるとこちらの事情をある程度理解している様子である。ただその情報源が姉のメルだとは考えにくい。ならばどこで網を張ってきたのだろうか。何よりもナナカの質問の返答としてはズレている。


「いや、そうじゃなくて今は連絡もなく直接来た理由について聞いているのだが?」

「はて? つまり中間作業が足りなかったという事についての質問ですか~?」


 メシェは中間作業と言った。間違いなく。それに言葉の中にこちらを敬う気持ちが含まれているようにも思えない。未だに自覚薄いものの、ナナカは王女である。普段はカジルやシェガード達にもタメ口で会話はしているものの、初めて会う人間に対してはメイド長にきつく躾けられたお陰で、それなりの礼儀をもって話す様にしている。しかし目の前に立つメシェは、王女らしくないナナカが言うのもなんだが、大きな失礼を含む太々しい少年である。


「おほん。中間作業ではなく、必要手続きでございます」


 流石にカジルも見かねたのだろう。一言割り込ませてきた。


「そういう言い方もあるかな。でも”無駄”でしょ~?」


 カジルの一言に無駄であると反論するメシェ。

 その姿は冗談ではなく、本気で応えているようにしか感じられない。


「無駄とはどういう事でございましょうか?」

「だって、下働き以外の申し込みが無くて、面接者なんて僕が初めてじゃないんですか? それくらいの事は調べてきていますよ。もちろんこの後にも面接者なんて来るとは思えませんけどね」

 

 カジルからの追及に、メシェが自らの返答に間違いはないように示した。彼なりに何か根拠を持って発言をしているようだ。つまり見た目とは違ってかなり手ごわい人間であるのだろう。ナナカは警戒度を一段引き上げる。

 

「ほーう……、随分と私に興味持っているようだな。そこまで熱烈なファンが王都に居たとは驚きだ」

「熱烈なファン……かもしれませんね~。それに余計な手間を省きたいのは僕だけじゃないでしょう。何よりも、その程度の情報も持ち得ていない人間ではナナカ様の目には止まらないのではないですか~?」

「なるほど、確かにその通りだ。どうせ雇うなら優秀な人間を雇いたい。だがそれは何も私だけではないだろう?」


 そんなに優秀なら、私以外の人間にとっくに雇われているのではないかという遠回しな牽制。ナナカの所へ来る理由としては随分弱い。それにメルの弟だいうだけでは信用するわけにはいかないのである。現状、ナナカ陣営は駒が足りていないとしてもだ。今の状況では怪しさしかない。


「雇われる側にも選ぶ権利はありますからね~」

「という事はお前の書類審査に私は合格したわけか。しかし、こちら側が合格点を与えるとは限らないわけだが……それに関しても随分と自信がありそうだな」


 そう、入室してきた時からメシェは全く緊張が見られない。どちらが面接者か分からないくらいに太々しい態度である。理由は余程の馬鹿か、それとも……


「僕の場合、自信とは違いますね。単純に後がないから吹っ切れているだけですよ~」

「吹っ切れているだと、一体何に吹っ切れているというのだ?」


 まだまだ少年という見た目から脱出出来そうにない、メシェの言葉はとても少年らしくない。何に追い詰められているというのだろうか。


「隠しても仕方がないですし、言ってしまいますけど、実は修学院を落第……ちょっと違うかな。退学が目の前と言った方が正しいかな。まあ、路頭に迷う寸前なんですよ」

「はぁー?」


 おもわず気の抜けた声をカジルと共に漏らしてしまった。

 メシェという、この少年は何を言っているのだろうか。もしかして採用面接とこちらが勘違いしていただけで、退学になるのを何とかして助けてほしいとか、そんな話をしに来たのだろうか。ならば筋違いの場所に来ていると言えるのだが、ここまでの話を聞く限りは採用面接に来たとしか思えない。となると修学院という学校らしき場所から放り出された後に、ナナカに雇えと言う話なのだろうが……


「あんた何をやらかしたのよっ!!」


 声の主はメイドとして空気に徹していたはずのメルだった。明らかにいつもと違う話し方に誰なのかと戸惑うほどの変化である。それを引き出したのは弟の行動か、言葉か、それともその内容だろうか。どれにしてもメルの本性を見た気がする。


「ただの成績不足かな。僕としては頑張ったつもりだけど、いやー、ダメみたいだね」

「真面目にやっていないからでしょう!!」


 ……あ、メルが完全に切れた。


 誰しもが勤務中は表面を繕っているものだ。メイドだって同じであろう。人間は裏の顔があるのが当たり前であり、実際にはない方が異常である。ただ、ナナカのメイド達は分厚いお面をかぶっているものだと思っていたのだが、それを剥がしたメシェは、姉メルにとっては相当に相性が悪いのか、家族だからこそ高ぶる感情と言うものがあるのかもしれない。


「苦手な分野はどう頑張っても苦手なんだから仕方がないよねー。そんなのは他の得意な人に任せればいいと思うんだけど、なかなか先生側は理解してくれなくて、今に至る?」


 まるで他人事のように話すメシェは、最後の語尾に疑問符を付けていた。

 カジルはあっけに取られている。メルに関しては怒りが一定のラインを越えたからだろうか、震える拳と唇の再起動に失敗しているようだ。ただナナカとしては夢の世界で同じような経験をした覚えもあるから否定し辛い。いい学校に入るために学校で勉強をする。明らかに将来の目標には必要ないと思われる学科まで半強制される。本来の目的を忘れてるような学習工程の矛盾に馬鹿らしさを覚えたのは、夢とはいえ、勘違いではないだろう。もしかして現実の世界も同じような事が行われているのだろうか。


 ただ……


「だから私のところにやってきたと。随分と低く見積もられたものだな。私なら落第生だと公言しても雇ってもらえるとでも思ったのか?」

「いえいえ、それで雇ってしまうような無能の上司なんて、僕ももちろん求めていないですよ。そうですね、これから話す僕の独り言を聞いてから判断してもらえたらと思います~」


 つまりそれだけの価値がある独り言を聞けるという事だろうか。変わった面接方法ではあるが興味が出てきた。どこまで視界を変えてくれるのか聞かせてもらおう。少なくても聞くだけなら消費するのは時間くらいだ。ストレスを溜めていそうなメルには残念だが我慢してもらうしかない。


「いいだろう。面接を開始しようじゃないか」

「では……」


 そして勿体付けるような言葉から、メシェの面接が開始されたのだった。

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