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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
9章 迎えるべきもの
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+0.5 月の表と裏

「おやっさん。満足できる演劇だったか?」


 シェガードは夜食の後にある部屋に訪れて、そう語りかけた。

 相手はこの部屋の主であり、あの戦いの場でただ眺めているだけに徹していた現在の飾りの王である。王と肩書が付く割には飾り気もなく、数点の家具とベットとソファーくらいの随分と質素な部屋で、それがこの部屋の主の性格も表しているかもしれない。

 ただその性格が早々に王の座を息子へと渡した原因でもあり、同じく早々に息子を失う結果にもつながったわけではあるのだが、その事について悲しんでいる姿などこれまでも、そしてこれからも見る事はないと知っている。いつだったか耳にした事があるのだ。その主が「涙などとうに枯れ果てた」と。これに関してはシェガードとしても同意できる部分は多い。


「シェガードか。つまらぬ小細工の為に随分と大きく舞台を作り上げたものだ」

「そう言ってくれるなよ。俺だって慣れない舞台作りに苦労したんだぜ」

「まあ大きな舞台の割には随分としょぼい結果だった気もするが……ギリギリ合格点と言った所か」


 口調はとても孫のいるような人間には思えないほどにハッキリしている。そして若干、目尻が下がったところ見ると今回の演劇については満更でもなかったようではある。親バカならぬ、孫バカと言った所だろうか。なんにしても滅多に見れない珍しい表情である。


「厳しいね~。で、その合格点は何に対しての合格点なんだ」

「少なくても王位争いに対する合格点ではないな。あくまでも演劇としてはの採点と言った所だ」

「なるほどな。でもお嬢については殆どアドリブだ。俺達は本当に舞台だけ用意しただけだしな。お嬢が出張ってからは誰も手出しどころか口添えもしてないぞ」

「そういう行き当たりばったりでは逆に評価を下げる事になる」

「おっと、となると失格か?」

「あのバールの悔しそうな顔を見れたという事で、プラスマイナス零と言ったところかな。正直なところあまり好かんからな」


 どこら辺がなのかとは、シェガードは聞かない。戦場を駆けまわった人間ならば後方でコソコソとしている人間を好きな者などほとんどいないからだ。王座に座り続ける事を嫌った理由がそこにも影響している事くらいは想像がつく。


「ちなみにお主はナナカをどう見るのか……などとは聞くまでもないか」

「おやっさんの言っていたよりも随分と楽しませてもらっているぜ」


 そう言うと、シェガードは歯を見せた。

 

「何やら噂に聞いているよりも面白そうな酒のつまみを懐に隠しているようだな」

「年寄りには濃い味付けだが試してみるか?」


 そしてシェガードの言葉に対する答えであるように、主は見張りに酒の用意を要求した。

 


 その後……朝まで前王の部屋から話声と灯りが消える事はなかった。

 シェガードが「酒臭い! 見張りもせずに何をしていたんだ!」とシェードに怒鳴られたのも同じ朝の事だったらしい。

 



 ◇◇◇




 同日――明るい話題で盛り上がる部屋もあれば、暗い場所に紛れて己の影を隠す者もいた。


「宰相めも存外大したことがないようでございますね」

「バールとナナカ、どちらが大人か分からない状況だったわ」

「この場合は貴方の妹が思った以上に出来たと見る見方もあると思われますが……」

「そういう見方もあるけど、それくらいやってくれないと私も張り合いがないわ」

「いいのですか。例の計画の妨げになるという可能性もありますが」

「それ合わせて軌道修正すればいいだけよ。もっともいくらナナカが出来る子であろうとも基盤が無さすぎるもの。せいぜい奴隷と遊んでいるのが関の山よ」

「ではもう一つの計画は実行しないのですか?」

「そうは言っていないわ。それにもう一人。貴族に嫁いだと言っても、あのレイアには注意が必要ですわ。二人が仲がいいのは分かっている事だし、小さな障害でも発見が遅れれば大事故につながる可能性もあるから、そっちにも見張りを付けて置いて」

「了解いたしました。では……もう一つの計画はそのまま進めればよいですか?」

「そうね。私自身が見れないのが残念だけど、報告を待つのも一つの楽しみ方かしら。派手にやって頂戴」

「満足していただけるような報告が出来るように努めてまいります」

「ふふふ……あまりに結果が楽しみで下腹部が燃えそうに熱くなってきたわ。こちらには夜のお相手もいないのにどう鎮めようかしら……」


 女は楽し気に言葉を濡らす。

 その闇よりも深い女の笑みが、静かに夜を飲み込んでいくのだった。

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