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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
2章 王族の役目
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3 血

シェガードと男らしい笑いで分かち合ったはずだった。

「一番難問は終わりが見えない事だ」誰かが言っていた言葉である。


 早朝から護衛を雇う事から始まった3日目。

 現在のところは雇った事を後悔はしていない。

 しかし、そのシェガードの経歴等は全く知らないと言って良かった。

 自身の直感に従っただけだからだ。肝心の護衛役は準備があると宿に帰ったそうだ。今のうちに状況説明と、シェガードの事についても執事カジルから聞き出すには丁度良い機会と言っていいだろう。


「カジル、いくつか確認したいことがある」

「シェガードさまの事でございますか?」

「それもある。ただ、私の命が狙われると聞いたからには誰から狙われているか、その勢力はどれくらいなのかの情報も欲しい」


 向けられた質問に説明すべき内容を頭の中で確認する為に、カジルは瞳を閉じ情報を頭の中で整理しているようだった。暫くすると、ゆっくりと時の流れを戻し始める様に口を開いた。


「畏まりました。ではまずは、王がお亡くなりになった時点からお話した方が良いでしょう。王妃についても、お亡くなりになった事はお伝えしたはずですが、その原因までは、まだだったかと思います」

「ああ、亡くなった事しか聞いていないな」


 本来であれば母親の死にもう少し感情が表れてもおかしくない状況とはいえ、ナナカにとっては記憶にない話。正直なところ他人事の様だったが、カジルからすれば気丈に振る舞っている姫様にしか見えなかったようだ。


「はい。不幸な出来事でした。あのタイミングでの難産が原因で王の後を追う事になるとは思いもしませんでした」

「懐妊していたのか? 私の弟か妹か……生きているのか?」

「いえ、王妃様と共に……」

「そうか。共に行けた事がせめてもの救いか」


 その言葉を聞くカジルの瞳が湿っぽく見えたのは気のせいではなかっただろう。


「私が気になっていたのはその後だ。3ヶ月もの間の統治は誰が行っていたんだ? つまり今の国の舵取りを誰が行っているかという事だ」

「申し訳ありません。姫様にはお伝えしておりませんでした。何しろ生まれてから一度も会った事がない王の父上、つまりはナナカ様にとっては、おじい様にあたる方が代役を務めております」

「へっ? 父の父??? 先代の王という事か?」

「はい。その通りにございます」


 その後のカジルの説明をまとめれば、先代の王とは――

 

 先代の若き頃の時代は各集落毎で小さな争いが常に起こっており、国と言うもの自体がこの地域には存在しなかった。西からは蛮族、北には大国、東には消光の森。どこの誰から綻びの糸を引っ張られるか時間の問題だったと言って良かった。


 しかし先代の王は無秩序な世界を憎みながらも、戦闘に関しては天才的な才能を持っていた。当時は、ただの集落の若き長だったが、その能力とカリスマで周囲に影響を与えていき、周辺を纏め上げ、現在の国の基礎を作り上げたのが先代の王だった。


 だが平和の国では自身の力と性格は不必要で不適合と、当時16歳だった次男に王座を継がせ、その兄には補佐を命じると「これからは己の為だけに生きたい」と言い残し自身は旅に出たと言う。


 ところが長年の間、生きているかも死んでいるかも分からなかった、その先代の王が息子の死から1週間経過したある日、王宮に姿を現したというのだ。そして『仮統治者として一時的な王』を務めるとともに『次の王の選定』の指示を出したのだった。


 その選定の条件は――


『他の誰よりも高い能力と強い意思を持つ者』


 年齢も男女も関係なく、高く強い者が王と言う単純明快な選定。


 厄介なのは強さを一括りにしてない点で権力や財力すらも能力と認めるつもりである事と新たな王が決まれば、また退任するという勝手気ままなルールと行動。


 孫たちを自身の遊び道具にするかのような指示に、まともな人間ならば意を唱えるのが普通であるが、欲に目の眩んだ貴族、政治家、有力者達に普通と言う言葉は切り捨てられ、次々とレースに賭け金を積み上げた。


 眠り姫と化していたナナカは、いつ目覚めるかもわからない賭けの対象外であり、そのお蔭で身の危険もなかったという事だ。


「恐ろしいじいさまだな。孫たちをなんだと思ってやがる」

「私も会った事すらございませんのが先代自身が王に向いていないと王座を譲ったのは正解だったと言わざるを得ないですね。先代の睨みがあれば各国は直接手出しする事はないとは言われていますが、国が割れる恐れすらある危険な行為には違いがないと思われます」

「全く、当事者の身にもなってみてほしいな。しかし確かに、その状況であれば何が起こってもおかしくない。護衛はカジルの良い判断だったと言えるかもしれないな」


 言葉を聞いたカジルは苦い顔を浮かべていたが、その時は先代に対する苦笑だと思っていた。


「それであのシェガードと言う男は、どういう経歴を持っているんだ? もちろんカジルの叔父だ。疑うわけではないが契約したからには力や戦歴を知りたい」

「それは構いません。お答えいたします。叔父であるシェガード様の事を簡潔に説明するならば「強い」の一言でしょう」

「おいおい、それはいくらなんでも……」

「ですね。失礼いたしました。傭兵ギルドのランクはブロンズであり、勇者バモルド様と同じになります」

「一気に期待が薄れる言葉だな。悪い印象しか受けないぞ」

「クラスだけを聞けば、そう思われるのも仕方がありません。ただしシェガード様の場合はブロンズランクを獲得後は更新を致しておりません。たぶん二十年は放置しているでしょう」

「更新していない理由が分からないないな。ギルドと喧嘩でもしたのか?」


 ぶっきらぼうで相手への挑戦的な態度は人の下につくなど難しい。ギルドなら尚更に縛られるルールは多い事だろう。あの男の印象からも、それを良しとするとは思えない。


「喧嘩ですか。それもあった可能性もあります。ただ以前に聞いた話ではブロンズクラスに上がると特権が発生する為、便利だからと取得しただけで、あとは好き勝手にやっている様でして、一度上位クラスに上がればブロンズ以下に落ちる事はない。特権だけを自由に使える今の状態で満足していると笑って話しておりました」

「見たままの男だな。そんな男がよくギルドを追い出されないものだな」

「その言動や態度以上に力がある為でしょう。実力者を追い出す事はギルドの弱体化にも繋がりますからね。そう簡単にはギルドから追放など出来はしないでしょう。もし問題もなく更新が続けていたならば、ゴールドクラスか、それ以上のクラスに居てもおかしくないと言われております」


 話だけでは実感は湧かないものの、実力は相当という事だろう。ただし、それほどの男が何故こんなところで自身の護衛を引き受けているかが気になる部分でもある。


(血の繋がりか、裏があるのか……)


「それほどの人物に護衛されるとは心強いが、他の貴族や王族がよく雇わなかったものだな」

「姫様も先ほどのやり取りで、なんとなくお分かりかと思いますが選ぶのは雇う側ではなく、自分側にあると豪語しているそうです。そんなシェガード様も1人だけ頭が上がらない人物がおります。それが先代の王です」

「先代の王と関係していると?」

「はい。先代は戦時中に何十人も戦争孤児を保護されておりました。その中に居たのがシェガード様です。当時、才能を先代に見出され、更に直接その手で指導を受け、戦争でも一緒に戦っております。つまりは先代の王はシェガード様にとっては父の様な存在であり、師でもあるとの事になります。戦争が終わった後は傭兵ギルドに入り自由気ままに暮らしているようですが、今でもその関係は変わっていないと思われます」


 その話の男が現在は自分の護衛として迎え入れられていると言うのが出来過ぎていると感じるのは考え過ぎなのだろうか。他に不思議な点はまだある。


「戦争孤児であるシェガードとカジルの血縁関係はどうしてわかったんだ?」

「血族が一つ屋根の下で暮らす事は、それほど珍しい事ではありません。私は記憶に無いほどの幼子であったようですが、戦争に巻き込まれて家にまで相手勢力の兵達が押し入ってきたそうです。私はシェガード様に助けられたそうですが、他の家族は全員がこの世から旅立たれたと聞いております」


 まるで他人事のように話すカジルに感情の揺れは見られなかった。記憶に無い家族ではそんなものかもしれないと同じ境遇のナナカだからこそ理解できる。


 しかし――シェガードはどうだったのだろうか。


「家族たちの思い出などは、シェガードから聞いたりはしなかったのか?」

「あまり話さないですね。当時6歳の妹が居た事は一度だけ聞いたことはあります。詳しくは聞いておりませんが、私が幼少の頃に隣で妹の名前を寝言で口にして、うなされている姿を見た事がありました。表面では気にした様子はなくても内面では苦しまれたのかもしれません」


 何の因果か自分も6歳。多少は影響している可能性は否定できない。


「それについては聞かなかった事にしておこう。だが、少しはあの男を理解出来た気はする」

「はい。難しい叔父ですが、徐々に理解して頂ければ幸いです」

「しかし、ゴールドクラスに匹敵する実績の持ち主の師である先代の王は、下手をすれば、それ以上の力の持ち主か……とんでもない爺さんだな」

「一時的に王座に戻られているとはいえ、あの方の存在だけで他国は直接は手出ししてこないでしょう。ただし今回は遊びと言って良い程に後任の王の決め方は大雑把です。明確な基準がないばかりか、王族内で争う事すら認めている様です。いくら他国が攻めてくることはないとは言え、国内が疲弊する事は間違いありません。先刻も伝えた通り、王族同士でも血を見る事は避けられないと思います」


 ナナカも平和な夢の世界から今では王族の立場でありながら兄弟に狙われるかもしれない状況に、今更ながらに背筋に冷たいものが流れる。


「この年で血生臭い世界に片足を引っ張り入れられたという事か。勘弁してほしいところだな」

「始まってしまったからには避けがたい事。残念ですが仕方がありません。それと……シェガード様に関して、もう1つお伝えしなければいけない事がございます」

「もう一つだと?」

「実は……今回の件は私が依頼したわけではございません。シェガード様が自らこちらに来られたのです。「護衛はいらないか?」と」


 流石にタイミングが良すぎる。

 それに、ここまでの話でも先代と師弟関係の傭兵……何かないと言う方が無理がある。


 ただ状況として護衛は必要だったのだ。何よりカジルにとっては命を救ってくれた『一番信用出来る』叔父であり、断るべき選択はなかっただろう。カジルを責める事は出来ない。


 しかし本当に自身の直感で選んだはずだったのだ。

 今になってみれば誰かの手の平の上で踊らされている状況。

 片足どころか知らない間に檻の中で見えない闇に包まれた様な感覚である。


「継承権がこの手に来るまで無事でいられるのだろうか? そもそも、その先に世界にも私にも平和はあるのか?」


 これから訪れるであろう不安へのナナカの難問は、カジルの口から返答出来るレベルを超えてしまった様だった。


 言葉を閉ざされた室内の空気は、別の世界の空気のように重く感じられたのだった。

2015.8.24

表現と描写の修正と追加を致しました。

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