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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
9章 迎えるべきもの
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13 崩れ去った壁と後片付けと最後のアレ

 色々あったが何とかラルカットのお願いは”半分”は達成出来たと言ってもよかった。それだけにナナカの部屋に集まった人間達も無条件に喜びを表には出していなかった。


「お嬢、上手くやったじゃねーか」

「たく、何が上手くだ。まさか本当に舞台だけ整えて退場するとは思わなかったぞ」

「いやいや、変に完成された台本よりも未完成の台本の方がやり易いかと思って、ああいう舞台に仕上げたんだけどな」


 相変わらず、シェガードの無計画とも言える言葉にナナカは呆れてしまう。その計画に加わっていたミゲルやメイド達も同じだ。方向だけは決まっていながらも結局は行き当たりばったりのアドリブ演技を僅か7歳の少女へと放り投げて行ったのである。とても大人がやる事とは思えない。


「もう少し何か方法とかあるだろうに」

「でも上手く行っただろう。相手がどう出てくるか決まっていないのに、完璧に仕上げられた台本なんて無理にきまっているだろうが。ああいうのは相手に不利な状況だけ作って、後は主役に頑張ってもらうのが筋ってもんだ」

「勘弁してくれ。私は別に主役になりたいわけじゃない」

「でも、ナナカ様。お見事でしたよ」

「姫様。格好良かったです」


 ナナカのその反論を無視するかのように、カジルを褒め称え、メイド達は言葉と共に熱い視線を送ってくる。ナナカが本当に演劇の主役にでもなったかのような光景である。


「それにまだ終わったわけではないだろう。旅行は帰るまでが旅行だと言うだろうが。やる事はまだまだあるんだぞ。何よりも……」

「分かってるって、保護を急げって言うんだろ?」

「その通りだ」


 恐らく、宰相もこのまま終わるとは思えない。

 これはナナカだけでなく、周りも一致する意識だろう。しかもやられた相手は7歳の子供である。ラルカットを傀儡の王として祭り上げようとしているような人間が、それで納得するとは考えにくい。


「シェードにそっちは任せてある。心配すんなよ」

「具体的にはどうする予定なのだ」

「とりあえずは解放されるのを待って、全員を傭兵ギルドに登録させる。その後はベルジュに移動するだけだ」

「随分と簡単に言うが、道中で宰相の手の者に襲われる心配はないのか?」


 そうである。解放された彼女達に濡れ衣を着せて捕縛するくらいは宰相はやってのけるだろう。それを防ぐのにシェードたった一人では無理がある様にしか思えない。それどころか、こちらも何か防止策を打つべきである。


「いんや、大丈夫だね。お嬢は傭兵ギルドを少々舐めているな。言っとくけどな、どこの国でも傭兵って奴は嫌われてはいるけど、同時に切っても切れねえ関係があるんだぜ。なんせ国に雇われている兵なんて言うのは実際の所は大して多くはねぇ。平時に何人も雇っていたら国庫が持たねえからな。その為にも必要な時だけ使える傭兵って言うのは敵対したくない相手なんだよ。それに傭兵ギルドには国境はないからな。敵に回したら一国程度なら結構やりあえちまう。よっぽど頭が悪いんじゃなければ手出しは出来ねえさ」


 シェガードの話はナナカの知らない知識である。いくら夢の知識を持っていようとも、知らない事は知らないのだ。しかしながら確かに傭兵ギルドに国境がないとなると下手な国よりも厄介だ。足元も固まっていない宰相が安易にちょっかいを出せば、地盤の液状化現象でも起こしそうな話である。

 ただし――


「傭兵ギルドにそう簡単に登録できるものなのか?」


 これが問題だ。

 何しろ勇者になるのには試験を受ける必要があると聞いている。同じ様に試験を受ける必要があるとすれば全員が受かるとは限らない。当然ながら試験も即日にあるとは限らないだろう。ならばその隙間を狙われる可能性は十分にある。


「あら、もしかしてお嬢は勇者と傭兵をごちゃまぜにしてねえか?」

「へ?」


 思わず間抜けな声がナナカの口から洩れてしまう。

 どうやら勝手な思い違いをしていたようだ。


「王族の支援を受ける事もある勇者はな、それだけでちょっとした貴族並の特権を与えられるのと同じなんだ。そりゃ試験も厳しくなるのも当然さ。だがなぁ、傭兵なんて替えのきく金で雇われるだけの駒みたいなもんだ。僅かな登録料と、己の身を削って金に換える少しばかりの覚悟さえあれば、簡単に入れるんだぜ。そのお陰で数と規模だけは大きくなって、一国並の権力すら持ってしまったというのも面白い話だけどな」

「数の暴力というわけか」

「違うな、お嬢。数こそが力だ」


 同じような言葉にも聞こえるが微妙に違うニュアンス。しかし確かに違いがある言葉。そして数という一見民主主義的にも見える力が、この王国制の王都で現勢力に対抗できる力として存在している矛盾をはらむ現実。恐らくそこには絶妙なバランスが存在していなければ、国の崩壊さえ見え隠れする危険な天秤の上に成り立っていると言ってもよいのではないだろうか。


「でも傭兵ギルドに辿り着く事も出来なければ、やはり難しい話ではないか?」

「何を言ってるんですか、姫様。大事な事を忘れておりませんか?」

「大事な事だと?」


 ナナカの当然ともいえる質問に、新たな問題を加えてきたのはカジルだった。


「宰相バール様はあの場で”彼女達近衛兵の解散をもって今回の処分とする”と発言したではありませんか」

「確かにそう言ったがそれが……」


 途中まで再度の質問で返そうとしたナナカだが、そこで気づく。

 ――宰相は期限を定めていなかった。


「もうお分かりですね?」

「そういう事か。なるほど。つまりこの場合はあの瞬間をもって”解散処分を決定した”と見做しても仕方がないという事だな」

「そういう事になります」

「では……」

「はい。メイド長を既にギルドに向かわせて全員の登録の手配を致しております。今頃は登録も終えて帰路についている頃かと」


 どうやら子供であるナナカだけに全てを任せっきりにしたわけではない様だ。大人達も拾えるものはシッカリと拾って次へつなげる役目を果たしているらしい。


「そういうこった。子供が散らかした後始末くらいは俺達大人達がやってやるさ。だから、お嬢は後ろを振り返らずに方向だけを指差せばいい。よっぽどの無理じゃなきゃ皆ついて行くはずだ。ただし、空に向かって指差すなよ。俺はとべねえぇからな」


 ナナカは冗談交じりに嬉しい事を言ってくれるシェガードに感謝しつつも、それは口にせず


「心得ておくとしよう」


 とだけ言葉にする。少しだけ頬を染めながら。

 その風景に満足するように部屋の中に柔らかな空気が流れた様な気がした。


「あ、そうでございました。護衛役についても私のほうで手配しておきましたので」


 早速、カジルがその後始末をしてくれたらしい。

 ナナカが思っている以上に背中から吹く風は強いのかもしれない。

 この国で一番厄介と思われていた宰相バールという曲者に、とりあえずは一泡吹かせた今回の件の終着点が見えた事で一つの満足感が生まれる。もちろんまだ先は長いだろう。でも今この時だけは見逃してもらいたいものである。


「すまないな。色々と」

「いえいえ、護衛役を相手の方から申し出てくれましたので、私はほとんど何もしておりませんよ」


 その言葉に何故か脳の奥でチラリと電気が走るような感覚。

 理由は分からない。だがとてもとても嫌な予感がする。


「その相手というのは……」

「いらっしゃったようでございます」

「へ……?」


 次の瞬間に扉を開けて”その相手”が「ナナちゃん! 格好良かったわよ!!」と掛け声を上げて、覚えのある強烈な抱擁を仕掛けてきた。その抱擁の強さに気を失いかけながらも、宰相よりもこちらの方が危険かもしれないとナナカは認識を改めるのだった。

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