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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
9章 迎えるべきもの
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9 敗北の中の戦い(中編)

 ペレスも最初からおかしいとは思っていた。目の前の相手が右手に持つ剣は、大の男が使うにしては少々物足りなさがあったからだ。しかし左手に収まる、もう一つの剣を見せられればしっくりと来る。元より片手で扱う為の武器であるという事に。もちろん武器に関しては制限など最初からされてない。問題はそんな事ではなく、目の前の男が傭兵と言うよりも魔術師の様に追加武器を出現させた事。そしてその瞬間が見えなかった事の方が今は問題かもしれない。つまり……


 きっと、この相手はただの傭兵ではないっ。


 この湧きあがる正体不明の不気味さが何なのか説明は出来ない。だが警戒レベルを数段上げる。当然、相手の挑発に乗るなど愚かそのもの。心は熱くとも、判断は冷静に。それが師からの教え。今それを実践出来ないならいつ出来ると言うのか。私は近衛兵の最後の炎なのだ。消えゆく運命にあろうとも、己のミスによる悔し涙で炎を消すなど許す事が出来るわけがない。


「おっと、この状況で落ち着きを取り戻すとは場数の少ないお嬢ちゃんにしてはなかなかやるね~。でも俺の後ろに居る、うちのお嬢の為に手加減するつもりはないからな。頑張ってみる事だっ!」


 まるで私の表情から心を読んだかのような言葉を吐いた男は、その内容に踏むまれる宣言通りに遠慮のない攻撃を開始された。


 男の仕掛けは鋭い。間違いなく男も魔力機構を使っている。それは私の胸元へと左右から同時に襲ってくる刃。まるで鋏のよう。一見お遊びのようにも見える攻撃方法であるが、一定の速度を超えたそれは背筋に冷たい物を感じさせるには十分である。


 受け止めるっ……いや、受け流すか!? ダメだ! 2つ同時に捌くなど経験も自信もないっ!


 こちらが取れる行動は必然的に後方への回避という選択のみ。

 しかしそれすらも相手には想定済だったのだろう。一度閉じられた鋏の刃を180度向きを変えると、私を内側から引きさかんと言わんばかりに追い打ちをかけてくる。

 だが先ほどと違い、今度の攻撃は交わりから生まれる同一方向からのくるもの。私の1本の剣であろうと抑える所さえ間違わなければ、受け止める選択が可能である。そしてそれは上手く行ったかに見えた。

 

 が……甘かった。

 男は受け止めに来た私の剣に抵抗する事なく、前へと向けられていた推進力をアッサリと逆方向へと戻す。衝撃に耐える為に硬直していた私の体は咄嗟の変化に前のめりに流れてしまう。

 当然、相手はそれを見逃さない。左右に構えていた2本の剣を、まるで元から1本の剣だったかのように重ね合わせると両腕で力任せに上段から振り下ろしてくる。

 私に許される選択肢は剣を真横に構えて受け止めるだけ。避ける等と言う選択肢は選びようがない。


 そして……衝撃が頭上から襲いかかってきた。同時に金属とは思えないほど鈍い音が周囲に響く。


 重いっ!


 上段からの攻撃は一番力量の差を感じる攻撃である。

 それは女性と男性というだけでなく、単純な力の違いと共に剣術の練度の差までも伝えてくる。そこから分析されるのは恐らく、いや、きっと目の前の男は”現段階”で私よりも強いと言う確信。


 ただし……絶対に敵わないレベルではない。

 例えば、リズは優勢に進めながらも一度も友好的な攻撃を与える事が出来なかった。あの対戦相手の少年の体力的な問題が無ければ永遠に訪れる雰囲気すらない不思議な感覚があった。ラミリアに関しては更に厳しい。あのメイドは一切本気を見せる事無く、降参の言葉を引き出させたのだ。それらに比べれば私はマシな状況だ。相手に攻撃を許してはいるものの、なんとか抑え込んでいる。それも”現段階”で。何しろ私の魔力機構はラミリアの様に即効性がない。徐々に上げていくスロースタート型なのだ。その上昇を考えればきっと勝ちは見えてくる。


 それを証明するように受け止めた相手の2本の刃を自分の剣を傾ける事で左へ流し、同時にカウンターで右足からのハイキックを後頭部へと見舞う。

 男はそれを食らうまいと、流された勢いを利用して側転する事で回避運動を生み出し距離を取る。

 しかし私は一瞬だけ早く相手よりも体制を整えると追撃を開始する。狙うは下段からの連続攻撃。

 その攻撃に男も両手の武器を器用に使いながら防衛する。

 攻防は攻撃を繰り出し続ける側と防衛に徹する側が完全に入れ替わった。

 

 ただし……防衛側は時間が経つ毎に体勢が崩れてくる。当たり前と言えば当たり前の現象。ただの人間が武器を持って戦っているならまだしも、私は当然ながら相手の男も魔力機構を使っている。双方が常識の枠内にいない。そこから生まれる力は常人の何倍もの威力が込められた攻撃。それは重力すらも断ち切る。上からの攻撃であれば受け止められる攻撃であろうと、下からの攻撃の場合は体重を超えた分に関しては防ぎきれる物ではない。自然と浮き上がる様にバランスを崩すものなのである。


 私は相手の崩れゆくと同時に大きくなった隙を逃さず、魔力を両の腕に集中させると渾身の力で切り上げた!

 相手もこれまでで最大の攻撃が来ると読んだのだろう。2つの武器を十字に交差させると地面から迫りくる斬撃を真っ向から受け止めようとする。

 だが……それでは私の攻撃を受け止め切る事は出ない。

 何故なら先ほどの防御に関する理と同じだからである。

 上段からの攻撃は跳躍などをしない限りは最大でも自身の体重以上の荷重をかけられない。しかし下段は大地という無限に近い荷重を”足”から背負う事が出来る。

 結果は火を見るより明らか……なはずだった。


 それは武器が交わった瞬間にその違和感が伝わってきた。

 3つの武器を支点に互いの力が、ガッチリとぶつかったはずなのに手ごたえが軽かったのだ。

 その理由は男の方にある。

 もし受け止めれば大きく吹き飛ばされるはずなのにそうはならず、まるで曲芸でもするが如く後方へ向かい空を”舞った”のだ。

 

 やられたっ!


 男は完全にこちらのタイミングを読んだ上で、自ら後方へと飛ぶ事で斬撃を軽減すると同時に推進力としても利用したわけだ。その読みと技術に「自分はとんでもない読み違えをしたのではないか」と焦りが生まれる。


 そして男は鳥の様に綺麗に着地すると、私の焦りをも読んだかのように決定的な言葉を吐きだした。


「いやいや、思ったよりもヤルネッ! 君はスロースタートタイプなのかな。でも俺も”同じ”……というよりも、俺はどうにも女性に対して本気でやるのは気が引けるんだよね。まぁ、君に対してはかえって失礼だったようだね。じゃあ、ここからは失礼がないように真面目にやらせてもらうかな」


 男の言葉が私の心を揺さぶる。

 まだ本気ではなかったのかと。

 遊ばれていたのかと。

 私は本当に”おもちゃ”の様に扱われていたのかと。


 動揺する私を更に追い込むかのように男は2本の剣を逆手に構えると、プレイボーイのような優しげだった表情から獲物を狙う鋭い表情へと変化させたのだった。

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