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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
9章 迎えるべきもの
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6 影中の戦い(前編)

 闘技場で2人の幼い王族の代理者達が踊る中、それを見下ろせる遠見から2つの影が互いの美を競い合うかのように対峙している。場所が場所でなければ、これから舞踏会でも開かれるのではないかと勘違いしそうなほどの2つの美は、何処か共通した部分が見え隠れしながらも、同時に明らかに距離を感じる雰囲気を纏っていた。


「どうやら初戦は引き分けかしらぁ。ナナカも面白い子を手ごまにしているわねぇ。それにあの”永遠の銅”(ブロンズエンド)の親子まで居るなんて、妙な組み合わせね。長い間、誰の下にもつかずに傭兵として走り回っていたのに、どういう風の吹き回しかしらぁ?」

「ミスト姉様こそ、ナナちゃんに興味を持つなんて、どういう気の迷いかしら~?」

「あぁら、自分の妹ですもの、気にしてあげるのは長女の務めじゃなぁい。何かおかしなことがありますのぉ?」


 まるで仲良しこよしで長年一緒に暮らしてきたかのように当然という表情でミストが応える。

 

 もちろん、そんな事がないのは王宮に居る人間であれば誰も知る事実。

 農民家庭ならいざ知らず、貴族の中の貴族に位置する王族であれば、普通の姉妹のように仲良くなどという事は多くはない。特に自分達姉妹は全員が腹違いで母方の貴族家系にとっても競争相手としての意識が強い。尚且つ現在は全員が王位を争う為のトーナメントに参加させられている状況。更にプライドの高いミストは間違えても妹ナナカをライバルとして視線を向ける事はあっても、家族として見ているとは思えない。


「そんな事を気にする人間でないのはあたしが一番よく知っていますわ~。いったい何を企んでいますの、ミスト姉様は?」

「それを話す様な私でない事も貴方は良く知っているでしょう? とはいえ、それじゃぁ面白くないわねぇ。そうねぇ……賭けをしない?」


 突然の提案がミストの口から漏れ出る。まるで取引を持ち掛ける悪魔のような微笑みを浮かべて。


「あたしがそれに乗る理由が見えてきませんの」

「だったら、こういうのはどうかしらぁ。勝った方は負けた方にお願いをするぅ。もちろん、無理なお願いもあるでしょうから断る権利もあるわ。だからあくまでも”お願い”だけどねぇ。それでも断った方に”借り”っていう呪いは掛けられるわよ? どうかしらぁ?」


 姉の提案にレイアに益々、相手の考えている事が分からなくなる。

 ミストという人間はプライドの塊のよう人間だからだ。特に数年前に姉は同じ王族から結婚の申し出があったとはいえ、他国の人間と戦略結婚するという事を受け入れた時にも違和感があった。今はその時以上の違和感が湧きあがっている。姉は賭けの対象として”お願い”があるのなら、拒否する事を避けるほどにプライドが高いから。それなのに断れる権利を設けるという事は圧倒的にこちらに有利でしかない。


 それにレイアとてプライドがないわけではないが、ナナカが関わっているとなれば、その程度の事には蓋が出来るくらいに妹への愛情は強い。ミストとて十分に理解しているはずなのに余りに偏りが過ぎる。これで裏を読もうとしないのは愚か者だけだ。


 しかし……今は愚か者を選択するのもいいかもしれない。


「いいですわ~。それで方法はどうしますの?」

「それはねぇ、目の前で開かれている遊びに私達も加わるのよ」

「つまり勝つ方を選ぶという事ですか~?」

「さすが姉妹ねぇ、分かってるじゃない。聞くまでもないかもしれないけど……」

「あたしがななちゃん側、ミスト姉様がラルカット側ということでしょう~?」


 そのレイアの申し出が正しいと認めるかのように言葉による返答はなく、ミストは口の端を持ち上げると視線を闘技場へと移動していた。まんまと乗せられている気がしないでもないが、昔から何を考えているか分からない相手。深く考える事が罠の可能性もある。しかし今はそれに流されておき、レイア自身も視線を移した。


 後はナナカ達を信じるだけ。負けたとしても自分が泥をかぶるだけの話なのだから。


 その美の視線を向けられた闘技場では2戦目が始まろうとしていた。

 ラルカット陣営から出てきたのは初戦の少女と同じ格好をした女近衛隊で、違うのは背の高さと髪の色くらいだろうか。同じ師から学びを受けているだけあって構えまで同じである。


 対してナナカ陣営は聞いてはいたものの本当にメイドが立っていた。しかもメイド服を着たままで。構えている武器は女性には不釣り合いなほど長い柄の斧。トライセントと呼ばれる武器に似ているかもしれない。肝心の刃の部分は小さめとはいえ、珍しい武器である。ただし珍しいのはそれだけではなく、その構えが更に戦う為のものとは思えないところで、武器を掃除に使う「ほうき」のように持っている。ハッキリ言って闘技場に似合わない。


 レイアは、もしかするとトンデモナイ選択の誤りをしてしまったのではないかと感じ始め、それを後押しするかのように背中を冷たい物が流れ落ちる。




 そんな離れた場所の事情など知られる事もなく戦いは開始された。


 まず動いたのは女近衛隊。

 遠慮もなく仕掛けられた素早い攻撃は先ほどの子供2人と比べると数段上で、王族として幼少から剣の訓練を受けていたレイアですらも集中が必要なレベルである。間違いなくナナカ陣営にとっては厳しい戦いになるに違いない。姉はそれを知っていたからの賭けだったのだろうか。メイドよりも女近衛の方が上なのだと。


 だがそれが間違いである事を否定するかのように、メイドが武器で軽くそれを”払い退けた”。

 まるで庭の落ち葉を掃くが如く。


「ふふふふ……面白くなりそうじゃないのぉ」


 姉ミストの賭けを昇華させるような微笑と言葉が場を狂わそうとする。

 そして見た目を裏切る二戦目はまだ始まったばかりだった。

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