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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
2章 王族の役目
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2 意中

執事のカジルから、護衛を勧められるナナカ。

その護衛として紹介された、カジルの叔父シェガードは一癖ある人物だった。

 良い天気だった。

 空は雨上がりの様に澄んでおり、遠くの山まで濁りなく見渡せる。

 木々の静かな様子から風はない。

 洗濯日和と言える見事な環境。

 ただし今いる部屋の中は穏やかとは程遠い空気が流れている。

 気のせいか空気に目に見えない何かが混じっている感じさえする。


 目の前にいる男、シェガードが作り出す雰囲気がそれを生み出していると思って間違いはなさそうだった。傭兵として長年、戦場を駆けてきたであろう彼は王族の前とは思えぬほどに静かで挑発的な光を目に宿していた。


 つまりナナカは平和とは程遠い世界の人間と対峙しているのだ。

 普通の6歳の子供であれば、この雰囲気だけで泣き出しても、おかしくはない状況と言える。

 しかし口を開くべき時計の鐘はもう心の中で鳴り響いている。


「で、シェガードと言ったか。決めていないと言う事は、ここで何か判断するつもりという事だな?」

「物わかりのいい子供は嫌いじゃないが、身の丈に合わない背伸びは大けがの元だぜ?」

「貴様の大きな体に合わせるには多少の背伸びも必要というものだろう」


 互いにけん制を受け止めながらも、その両方の口には笑みがこぼれる。


「いいだろう。俺からの質問を2つほど答えてもらおう。もちろん、お嬢ちゃんからも質問していいぜ? ハンデとして2つとは言わない。10くらいまでなら質問をしてもかまわないからな」

「ああ、いいだろう。せっかくのハンデだ。もらっておく。こちらからもハンデとして先に質問を受けてやる。さっさと言え」


 ナナカのやり返しに怒りの欠片さえ見せず、逆に笑みが大きくなったようにすら見えた。


「じゃあ、言葉に甘えて質問させてもらうか。お嬢ちゃんは死について、どう考える?」


 あまりに大雑把な質問だった。尚且つ、6歳の子供にするべき質問とは思えない。しかし戦場に身を置く人間だからこその質問と言っても良いのかもしれない。今までに死を隣に座らせてきた人間。相手を殺すか。自分がそれを迎え入れるか。そういう人間だからこその質問。


「お前の質問に対する答えになっているかは分からないが……死なんてものは今死のうが50年後に死のうが土に還るだけ。他人にとっては同じ結果だ。ただし、死ぬ時にやるだけの事をやって後悔のないようにして死ねれば、私にとって年数は関係ない。今死のうとも50年以上の生と同じ価値があると思っている」


 一度夢の中とは言え、死んでいるからこそ出た言葉だった。そしてその答えに対してシェガードの表情に変化は見られないが、それに対して異を唱えるような様子はなく、次の質問へと移された。


「なるほど。では次だ。お嬢ちゃんは昨日、投棄奴隷を買ったそうじゃないか。その奴隷をどう扱うつもりかしらんが、とりあえずは近い死から助けたと言えなくはないな。でも結局は代わりの奴隷が補充されるだけだ。そこに意味があると思っているのか? 人助けっていうのが、どういう事だと考えている?」


 昨日の話はカジルから聞いているという事らしい。隣にいるカジルは「なぜそれを!」と言わんばかりに目を覆い天井を見上げている。


 王族の癖に意味のない助けをしている事に対する批判とも取れる内容である。

 結局は誰かの命が道具として扱われる事に変わりはないと。


「確かに結果的には違う誰かが犠牲になるだけかもしれない。1人助けて、代わりの誰かが死ぬだけ。全く変わりのない命の数だ。そして、ほとんどの人間がお主と同じように意味のない自己満足だと笑うだろう」


 一旦言葉を止める。

 瞳に炎が宿り、手に汗を握る。

 自身に対する批判を受け入れながらも考えを変えず進むために。


「当然、私が王族だからと全ての命が救えるとは思っていない! ただし目の前に助けられる命があり、その力があるならば私は目の届くところ、手の届くところにある助けられる命を何度でも救う! たとえそれが無駄な努力の繰り返しで周りから見れば意味のない事だろうとだ! 自己満足を続けよう! それが私だ!」


 シェガードはナナカからの熱と視線をその身に正面から受け止めたようだった。

 口元に浮かぶ笑みは嘲笑か? それとも?


 ちなみに隣に控える男のその頬がうっすら朱に染まっていた事は見なかった事にしよう。例の疑惑が確信に変わっただけの話である。


「いいだろう。その答えはしかと受け止めた。俺の質問は以上だ。次は、お嬢ちゃんから質問するがいい」


 ナナカの熱を綺麗にスルーする態度は常に戦場に身を置いていた男の胆力からくるものか、それとも聞くに値しない答えと言う嘲りか。ただ、相手がどう判断しようとも、こちら側とて納得行く言葉がなければ破断の話である。


 一度入った体内の熱を放射するように大きく息を吐き出す。

 相手に乗せられた怒りを鎮めるために冷静な判断を下す為にも。

 その為に言葉による反撃を開始する。


「では聞こうか。戦場にて、お前が納得してない間違っていると思う指示が上官から出されたとしても、お前は素直にそれを実行する事が出来るのか?」


 質問に対する答えはシェガードが浮かべた白い歯の見える、その憎たらしいまでの笑みが十分に答えを連想させた。


「そんなの決まっているだろう? その上官の所まで行って、その顔をぶん殴って、そのまま酒場に直行だ!」


 先ほどまでとは打って変わり、頬を染めていた隣の男はその顔が地面に埋もれそうなほどに垂れ下がっていた。まるで一流パフォーマーの様である。その苦労人の姿に目を奪われそうになりつつも会話へ集中する。


「いままので上官は苦労したのだろうな」


 苦労と言う言葉を口にしながらもナナカは余裕を取り戻し、先程と同じように口元に笑みを取り戻していた。


「まあいいだろう。次の質問にと言いたいところだが……私の質問は以上にする。代わりにだ、1つ約束をしてほしい事がある」

「約束だと? 話が決まってもいないのにか? 言うだけ言ってみろ。約束するとは限らんからな」


 その言葉を待っていたとばかりに言葉を紡ぐ。


「その約束とは……これからは私を「ちゃん」付けで呼ぶのだけはやめろっ! 気持ち悪い!」


 その言葉を聞いたシェガードは一瞬、心を奪われたように傭兵とは思えぬ間抜けな表情見せた。

 ナナカの方は、ようやくシェガードの表情の牙城を崩した事で満足を得たように、ガッツポーツを小さな拳で表現する。 


 室内はそれまで張りつめた空気が嘘だったかのように外から入ってくる小鳥の挨拶だけが場を支配した。





「「ふっ、ふふっ……ふははははっ!」」


 発言をした側か、聞く側だったか、どちらか知れず笑いが場を満たす。

 ナナカにとっては夢から覚めて以来、もっとも笑った瞬間だった。シェガードの方も怒りや困惑の様子もなく、気付けばナナカと共に笑っていた。ただ一人、カジルのみが状況を飲み込めず、音のない乾いた作り笑いで2人に合わせているようだった。


「「いいだろう!」」

「『お嬢』の身は俺が任されてやる!」「私の護衛は任せた!」


 2人同時の了承の応えに、ようやくカジルからも安心の笑みが漏れた。

2018.12.13

表現と描写の修正と追加を致しました。

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