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ミッションプリンセス  作者: 雪ノ音
9章 迎えるべきもの
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2 歯車が回る時

 ここは王都の闘技場。

 昨日までの雨は嘘のように晴れ渡り、人間達の遊戯をあざ笑うかのように鳥達が声をあげている。

 幼い少女と、その仲間達の計画は悪魔の悪戯かと疑いたくなるほど順調に事は運び、お陰で今のこの時間が訪れている。

 ただ一つ、この場に計画には居なかったはずの人間が1人だけ混ざっていた――




「まさか、おやッさんがご登場とは予想外だったぜ。いや、予想しておくべきだったか?」

「全くだな。どこで話を聞きつけたのやら……王都に来てから振り回されっぱなしだ」


 図体のでかい傭兵の言葉に、赤髪の少女が愚痴を乗せた。

 言葉を発しない面々も同意である事を示す様に反論はない。


 その原因を作っている人物は、ナナカ陣営とラルカット陣営、この場合は宰相の陣営と言った方が正しいかもしれないが、双方の間に立ち、笑みを浮かべていた。


 その人物とは――


「たく、お主等はこんな楽しそうな家族のじゃれあいを、ワシ抜きでやろうとは祖父として悲しいぞ」


 言葉の通りである。そう、互いの陣営の祖父を名乗れる人間は1人だけ。先代たるバズ王である。


「バズ様。私はそのようなつもりはございませんでしたよ。たいしたイベントでもないと思い、お声を掛けなかっただけでございます」


 まるで媚びを売るように宰相はバズ王に言い訳をした。

 ただ先代は耳に入れるつもりもないらしく、対話する様子を見せずに話を続ける。


「しかし、親善試合とは随分と突然な話じゃな。この場合は兄弟喧嘩というべきか。まあ、拳を交える事で分かりあえる事あるかもしれんが、それだけでは面白くなかろう?」


 弾むような声は完全に楽しんでいるとしか思えない。

 ナナカとしては「お願いだからややこしくしないでくれ」と心から願う。

 もっとも、それを嘲笑うかのように先代の言葉は止まらない。


「よし。勝った方にはワシから何かご褒美をやろうではないか」

「それは賭けをするという事ですか?」


 ナナカは数日前の賭けを思い浮かべながら質問をした。

 今回、名目上は親善試合である為、失うものはない予定である。ただ、誕生会で広大な領土を与えた実績があるだけに、いざ得られるものがあるとなるとラルカットは兎も角、宰相に妙なやる気を出させる可能がある。実際、目の色が変わった様に見えたのは幻とは思えなかった。


「賭け、まあ、そうなるか。何をやるかは決めておらんが、そこら辺は何か考えておこう。ただし、ルールはワシが決める。良いな?」


 ようは景品を準備するから主催者は自分。だから、いう事を聞けという事だろう。わがままな子供と変わりがない。ナナカからすれば、自分達兄弟と先代の爺様のどちらが子供なのか疑いたくなる。


「ラルカットは自分の近衛のお嬢さん達を連れてきおったか。ナナカの方はシェガード達とメイドのお嬢ちゃん達か……ふむ、流石にフェルの出場はダメとして、シェガードとシェードも出たら勝負にならん。2人も除外じゃ。メイドのお嬢ちゃん達は戦えるのかの?」

「おう、元から俺達は出るつもりはないぜ。こっちはミゲル、メイドのルル、そして……このガキンチョが出る!」

「おいっ! どういうつもりだ!?」


 シェガードの予想外の言葉は、ナナカ自身をも驚かせた。

 実は試合のメンバー選考についてはシェガード達に任せっぱなしだったのだ。ただもちろん半分くらいはナナカも予想していた事である。フェルの爺と傭兵親子は出ないと。しかし、この場でナナカとラルカットを抜かせば、ガキンチョと呼ばれる存在は1人しかいない。


 それは……サン。


「どういうつもりも何も、サンが出るって事だ」

「サンはまだ1カ月程度しか訓練を受けていないんだぞ!?」

「お嬢。”それがどうした”?」

「……!!」


 いつも自分が口にする言葉をシェガードに言われてしまう。そしてそれはナナカを黙らせるには十分な効果を発揮していた。


「俺が剣を手に取ったのはこいつと同じくらいの年だったぜ、訓練もろくに受けずに戦場に出て行ったさ。それにこれは親善試合だ。命まではとられやしねぇ。坊主にはいい経験だ。なぁに、こいつなら大丈夫だ」


 師の言葉に少年は強い光を宿した瞳で赤髪の姫に応える。

 流石にそれを受けてしまっては、ナナカとしても反対の言葉は出てこなかった。


「というわけだ。こっちはガキとメイドが混ざるんだから、1人傭兵が混ざっても文句はねえだろ?」

「フェルよ。それで構わんか?」

「少々、不足気味なくらいです。問題はございませぬ」


 やや憮然とした表情を浮かべながらフェル爺は了承する。どうやら、選出メンバーについての打ち合わせはなかったようだ。そして計画の一部とはいえ、自分の弟子達が舐められたような人選は気持ちがいいものではなかったのであろう。


 こちらは心配をし、相手はプライドを刺激される。おかしな状況が出来つつあるとはいえ、今はシェガードを信頼するしかない。


「両者の合意は得られたな。では親善試合を始めようではないか」


 国の支配者が闘技場を支配下に置き、今、盛大な兄弟喧嘩が始まろうとしていた。

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