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この学園は最強しかいない!  作者: 魔王さん
12月1日 壊された誕生日には出会いがあるで章
9/38

君は私のものだから! 

 部屋の中には、仄かに甘い香りが漂う。現在俺とソフィは、部屋全体をゆっくりと眺め回しながら隣り合って待機している。

 俺は今、暁ましろの部屋に招待されている。(ソフィはいつの間にかいた。)

 どうしてこうなったのか、経緯を説明する。

 


 まず俺達が先輩二人を撃破し、2年生の教室に戻ってくると、新入生全員にそれぞれのクラスに戻るよう呼び出し。

          

         ↓


 自分のクラスに戻ると、先生は俺達のパーティを発見するや否や、クラスの前で盛大に祝福。(なんでも戦闘向けの先輩三名撃破というのは快挙だそう。)

         ↓

 

 明日、学園長から表彰があるということを知って新入生は帰宅(時刻は15時)

         ↓

 

 暁が約束のクッキーを焼くので自宅に招待された。(今ここ)


 

 ま、こんなもんだろ。

 俺は女性の部屋という神聖なる場所に入ったことが無いのだが、この部屋は全く緊張できない。何故なら…

 

 「なぁ暁、お前の部屋……女の子っぽい要素が皆無なんだが…」

 「んー?…なに?ユキノー」

 

 キッチンでエプロンをパタパタと忙しなく動かし回るこの部屋の主、暁ましろは、どうやらクッキングに集中しているらしい。

 壁に様々なアニメポスターやタペストリー、テレビの脇には様々な世代を震撼させてきたゲーム機種やそのソフトが収納された棚(しっかり分けられている)、さらに温度と湿度が細かく設定されたガラスケースには、たくさんのアニメフィギュアが飾られていた。

 

 「しっかし…俺でもこんなに持ってないぞ。よく集めたな。」

 「ふふっまだユキノに二次元世界を開かせる訳にはいかないわ。」

 「お前どんな権限持ってんだ!?」


 信じられないことに、この学園の生徒には入学と同時に、好きな新築一戸建ての家がまるまる与えられるのだが(ちなみに生徒の家がある地域は学区と呼び、他にも商業区や娯楽区など学園都市とは言い当て妙である)、もう暁の家は二次元に侵食されつつあるようだ。


 「はぁーい!!おまたせ!!どうぞー!!」


 テーブルに置かれた大皿一杯にハート型のクッキーが乗せられ、甘い匂いが空間を包み込んだ。この世界は幸せで満たせるんだなぁ…。

 ソフィは少し驚いたような瞳で暁とクッキーを交互に見る。…まぁ、普段の暁を見てると、料理してんのは想像できないな。

 

 「……これ、本当にましろが?」

 「イエスよソフィ!…これは地球連邦軍が私だけに教えてくれた奥義で作ったのよ!!」

 「もっとまともな奥義ねぇの!?」

 「細かい事はいいの!さ、ユキノもソフィも食べて食べて!」

 「へいへい、そんじゃ…いただきます。」

 「……いただきます…」

 

 促されるままに、口にクッキーを入れる。………これはズルイ、反則だろ。

 

 「……うまい。」


 世界で一番幸せな味がした。どんな店のクッキーよりも、どんなパティシエが作るクッキーよりも、俺はこれが好きだった。

 記憶が鮮明にフラッシュバックする。初めて暁が俺に食べさしたクッキーの味となんら変わってはいない。

 


 「……ユキノ、どしたの?ぼぉーとして」

 「…あ、わりぃ…何でもねぇよ。」


 不覚にもあの時の記憶のせいでうっすらと視界が歪む。無理やり袖で拭うと反射的に顔を背けてしまった。


 「あれれぇ?ユキノくーん!!私のこと惚れ直したの?」

 「ち、ちげーし!!…ただ…」

 「……あの時のこと…思い出しちゃった?」


 暁は上目遣いでこちらを見てくる。俺は視線を合わせないようにしてクッキーを口に入れる。

 

 「………当たり前だ。こっちはお前見るたびに思い出してるわ。」


 俺の人生を変えた分岐点みたいなもんだったからな。あの日は…


 「……二人はどうやって出会ったの?」

  

 …そうか、ソフィは俺達の出会いを知らなかったか。

 俺は暁に確認するように横目で見る。暁は笑顔をこちらに向けてきた、どうやら承諾したようだ。


 「…俺が暁と出会ったのは…12月1日の…俺の誕生日だった。」


 そう…全てを彼女に任せると決めた、あの日





 ※  ※  ※  ※




 12月1日。

 憂鬱だ。先ほどまでの高揚した気持ちは、こうも簡単に冷めるものだったのだろうか。

 誕生日とは思えないほどに絶望している。

 

 「なぁ渚!お前やっぱり忍ちゃん派なの?やっぱ翼ちゃんだろ?」

 「…ばーか、金髪吸血鬼って神設定だろーが。」

 「……はぁ……渚、お前って…ほんとロリコンだよな。」

 「ちげーよ。それに忍は約600歳だからロリじゃねぇ。」

 

 こんな会話がいつまでも続けばいいのに。

 俺をただの…ただの人間にしておいてくれよ。

 そんな願い、叶うはずが無い。

 

 ………時間だ。


 「あ、わりぃ…そろそろ塾行かなきゃいけねーんだ。」

 

 嘘である。今から行く場所は地獄だ。

 

 「えー?渚、お前もう進路決まってんだろ?」


 確かに決まっている。一生実験台という未来が。


 「それでも勉強はしなきゃいけねーだろ?お互い中三だし。」

 「まぁ…な……分かった!んじゃな!」

 「あぁ…また。」


 俺は背を向けて地獄に走り出す。今すぐ逆走したい気持ちを抑えながら。


 

 【生物研究施設・東京支部】という御大層な名前にふさわしい世界最高技術を兼ね備えた施設に、俺は顔パスで入る。

 

 正面玄関を抜けると、笑顔を貼り付けた研究員達が出迎えていた。どの顔も吐き気がしてくる。


 「お待ちしてましたよ。渚ユキノ。今回の実験は核ミサイル、ツァーリ・ボンバⅢに対するものです。第八実験場に案内します。」

 「…………圧殺の次は核ミサイルか…どう考えても軍事実験だな。」

 

 俺の皮肉は軽く無視され、掃除の行き届いたコンクリートの廊下を歩かされる。

 実験というものは俺の不死身の性質を研究し、今後の医療技術の向上に使用するらしいが、これまでの実験からみて、明らかに他の目的もあると確信できる。

 まぁそうだとしても、実験体には拒否など存在しないが。


 「…では、扉を入ったら指示があるまで待機していて下さい。」

 「………」


 案内させた場所は、学校の体育館ぐらいの広さで灰色の壁で覆われている。この壁は人類全ての兵器を用いても破壊は不可能らしい。壁に触れると、恐ろしいほど冷たかった。

 

 「………始めろよ…。」

 『これより実験を行います。目標地点まで移動してください。』

 

 どこからか機械のような女性のアナウンスが耳に届くと、実験場の中心に黒い旗のようなものが立った。そこが目標地点だろう。

 歩きながらふと気づく。よく見ると、全身にいやな汗をかいている。

 心では死なないって分かっているのに、体は生意気にも恐怖しているらしい。

 頭にコツンと軽く何かが当たる。よく見ると目標地点の黒旗だ。いつの間にか歩ききっていたらしい。

 

 『これより実験を開始します。ツァーリ・ボンバⅢ投下まで3秒2…』


 天井が即座に大きく開き、巨大な黒い塊が飛来する。禍々しい気配はこの世に絶対存在してはならないと直感で分かる。

 俺はアレひとつ造る資金で、何人の飢えた人間が救えただろうかなんて考えながら、目が潰れるほどの閃光に包まれた。

 


   ※ 

 


 女性研究員は全てのコンピュータのデータを確認し、淡々と状況を伝える。


 「生命反応無し。実験体、完全消滅。」

 

 それを聞いたこの支部の統括者である男は、頬を引き上げながら大きく頷いた。


 「ふむ……アメリカの馬鹿共に伝えてくれ、軍事力の向上おめでとうとな。……さて…」


 その男を含む研究員全員の視線が、圧倒的な爆発を映し出していた巨大な画面に向けられる。

 これからのあり得ない光景を刮目する為に。

 

 「……!!ポイントαより生命反応復活、細胞再確認、高速で肉体を再構成。…な、なぜ…肉片どころか塵すら残っていないはず…」

 「それが彼、渚ユキノなのだよ…我々はこれまで病殺、斬殺、銃殺、毒殺、炙殺(しゃさつ)轢殺(れきさつ)、電殺、圧殺その他数々の実験で試してきたが…彼が死んだときは一度も無い!いや、死んだあとに生き返るのかすら分からない!

 これだけ試しても彼の身体構造は未だに解明不能!全く、これでは、兵器実験に使われても仕方ない『化け物』だよ!!」

 

 男は一気にしゃべると、喜びで興奮して震える指をゆっくりと這わせた。

 そして渚ユキノという少年が完全に画面に再構成されたとき、施設全体が強大な衝撃に襲われた。


 「!!侵入者を確認!緊急防衛システム発動!繰り返します!侵入者を確認!防衛システム発動!繰りか……」


 その衝撃は何かを探し回るように、施設を一つ一つを文字通り潰していった。

 


 ※



 視界に灰色の世界が広がる。気がつくと俺は全裸で仰向けになっていた。どうやら肉体が再生するときに服も一緒に直るのは、ラノベや漫画の世界だけらしい。

 ……ああ、くそ……また生きてやがる。核ミサイルっていうから少しは期待してたんだけどな。

 思わず苦笑してしまう。俺は死にたいのか、生きたいのか、分からない。

 俺はこれから……どうなんだろうな…。いっそ、脳死だったらどうなるだろうか、いや脳が再生しちまうから駄目か…。

 このまま、死んだふりでもしてやろうとも考えたが、この場所に小細工など通用するはずも無いので、そのまま天井を眺めることにした。

 ふと、先程の言葉がよみがえる。

 


 「……進路、ねぇ……俺の進路は後方だろうな。もしくは下方だな。」


 のんきにぼぉーっとしていると、突然空間に衝撃が響き渡る。刹那にして電撃が走ったように凄まじい警報音が鳴り響いた。どことなく、火災警報器と音が似ていた。


 【緊急警報!緊急警報!ただいま当施設に侵入者を確認、現在防衛システムを10層中、第4層まで破壊!繰り返す!ただいま当施設に侵入者を確認、現ざ…】


 侵入者?……そんなことあり得るのだろうか。この施設は世界の科学の結晶で造られた最重要国家施設である。この中へ無断で侵入した場合、殺害されることを全世界に知られている。もちろんこの場合の殺害は自己防衛として罪にはならないと世界が認めている。

 大規模なテロだろうか、有り得なくはない。が、この施設にはテロなど意味が無い。施設内でテロを起こそうとする前にそいつ等は消えているだろう。


 ………まぁ、いいか。この施設がなくなっても代用は幾らでもきくだろうし。俺に逃げ場などそもそも無いのだ。


 更に衝撃と警報が強くなって耳の鼓膜を大きく刺激する。どうやら楽観できる状況ではないらしい。


 【警告!侵入者は一名!防衛システム10層中、第7層まで破壊!!繰り返す!し…】

 

 !!…一人だと!?…たった一人でこの施設を破壊しているっていうのか!?有り得ない…そんなことが出来る奴が世界にいるはずがない。

 だが事実として、有り得ない誰かが、存在している。

 見てみたいという気持ちが芽吹き、徐々に広がっていく。


 『渚ユキノに通達します!現時刻をもって退避を命令!!速やかにその場より離れて下さい!!』


 女性の焦ったような声が天井より響く。危機感ゼロの俺は、ゆっくりと上体を起こしながら立ち上がる。

 その刹那、核ミサイルでも無傷だった天井が、激しくも低い轟音を立てて脆くも崩れ去った。

 

 俺は全裸のまま後方に大きく吹き飛ばされ、壁と背中合わせになりながら衝撃が全身を襲った。

 

 「がぐっ!!……くそがっ…」

 

 思わず落ちてきた天井を見る。そもそも戦争の最上級兵器が効かないこの施設が破壊された時点で有り得ないのだ。

 轟々と爆風が纏わりついている瓦礫の山の頂点に、何者かが佇んでいた。

 徐々に姿が陽炎のように見え始める。その姿に思わず言葉を詰まらせ、思考が完全に停止した。


 「いやーこれはちょっとぉ…やり過ぎたかしら?」


 威風堂々とたなびく漆黒のコートを羽織い、ギリギリラインの可愛らしいミニスカート。透き通るような白い肌に、腰まで美しく伸びる鮮やかな紅髪。そして触れれば消えてしまいそうな幼くて華奢な体、俺の目の前に現れたのは正真正銘の、一人の少女だった。


 「……お、お前…な、何なんだ?」


 思わず声が上ずる。その声に少女は反応し、こちらに屈託の無い笑みで走り寄ってくる。


 「あ、いたいたぁ!私は君を探して…ってあなた…なんで服着てないの?」

 「へ?………おわっ!?……わ、わりぃ…」

 

 俺は慌てて大切な部分を隠しながらその場にうずくまる。やべ…恥ずかしくて死にたい。まぁ死ねないけど。

 

 「うーん…とりあえずこれ着てなさいよ。」

 

 少女は自分の羽織っていたコートを脱ぎ、こちらに被せる。


 「…い、いいのか?」

 「何言ってんのよ、いいから渡してるの。…それともー?私の前で裸でいたいのかなー?」


 少女はイタズラっぽい笑みを浮かべながらこちらを見据えてくる。俺は顔が火照るのを感じながらコートに包まる。…あったかい…少しいい香りがする。


 「あ、そういえば自己紹介まだしてないよね。……私は暁ましろ!!君を私のものにする為にやって来た!」

 

 少女は可愛らしい手を笑顔で差し出してくる。

 12月1日の誕生日。

 俺は少女に絶望の運命を、無理やり破壊された。

 

 

出会い編はもう一話続きます。

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