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この学園は最強しかいない!  作者: 魔王さん
学園ライフになれま章
7/38

唐突だけど、ピンチって燃えるわ!


俺たちは上級生の教室へと戻ってきていた。どうやら対戦内容は壁に映し出されていたらしく、上級生は壁のスクリーンを一様に見つめていた。

 「あれ?……倒したあの…先輩は?名前覚えてないけど……死んでないと思うけど。」


 暁の恐ろしいところは、興味の無い奴は本当に名前を覚えていないことである。今もこうして、カカロット先輩のことを……ってあれ?あの先輩、本名なんだっけ?

 その声に一人がこちらに気づき、ゆっくりと向き直る。


 「へぇ……お前、なかなかやるじゃねぇか…あいつは、直接保健室に転送されたよ。」


 ローブを全身に纏い、フードを頭から深くかぶった双眸からは、何を考えているからは分からない。どうやら男性のようだが。

 ただ一つ、いえることは、光はその人から感じられなかった。

 そしてソイツは隣にいる奴に向き直る。

 

 「なぁ…お前も面白い奴だと思うだろ?」

 「あぁ…いい情報が手に入った…」

 

 話しかけられた男は、暗い服を身につけ、縁なしメガネを撫でながら、宙に浮かぶ立体映像を忙しなくタッチしていた。

 そしてローブは再びこちらに向きを変える。


 「ま、そういうわけだ…」


 え?どういうことですか?


 「準備をしろ。はじめるぞ、新入生。」

 

 ……あれ?今勝負挑まれてる?


 「ぉお!ねぇユキノ!これあれよ!目が合ったらポケモンバトルってやつよね?」

 「何かちげぇよ!確かに一方的にバトル挑まれてるけど!?」

 「よぉーし!今回は期待できそうね!」

 

 暁がぶんぶんと腕を振りながら、やる気100倍で盛り上がっている中、「まて!」という鋭い声が届いた。

 

 「ちっ…おいおい、空気君よぉ…まさかお前もこいつらと勝負したいとか言わないよな?」

 

 ローブの奴が呆れる先には、高身長な黒髪青年がゆっくりとこちらに歩み寄っていた。


 「…その名前は好きじゃないといったろう…僕には風斬空(かざきり・そら)っていう名前があるんだから、余計なことを言うな。」

 「それより、俺が闘うんだぜ?お前は引っ込んでろよ。」

 「君はただの好奇心だろ?僕は、上級生としての威厳を取り戻す為に闘わなくてはいけないんだ。悪いが君こそ引っ込んでいたまえ。」

 

 そこまで風斬先輩が言うと、明らかにローブから怒りと殺意が、灯り、影が濃くなった気がした。


 「おい…空気野郎…順番は守ろうって…教わんなかったか?…」

 「順番はあくまで平等のときのみ規則に習う。僕のほうが優先順位は上だ。」

 「オトスぞ。」

 「僕を掴めるかい?」


 ………どうやらこの二人は馬が合わないらしい。互いの間に緊張が走る。いつ何を始めてもおかしくない状況だ。

 こんなとき、選択肢は二つある。

 一つ、頑張って仲直りさせる。ただしこの方法は結構難しい。主人公レベルがかなり高くないと一般には至難の技だ。

 そしてもう一つが、


 「あのー…別に二人同時でも…構いませんよ?先輩。」


 ………はい、今の暁さんのように矛先を全てこちら側に向けることです……マジか。


 「は?」

 「何だって?」

 

 二人は案の定、訳が分からないというように、殺意は疑問に飲み込まれる。

 

 「だーかーらぁ…私達は…二人同時で構いませんよって。ねぇ二人とも!」


 ……暁、そんな可愛い顔したって簡単に同意してもらえると思うなよ。……何だその上目遣いは………あぁ!もう分かったよ!!もともと俺に拒否する気なんてねぇよ。


 「俺は別に…いいけど」

 「………勝ったあとは、少し寝たい。」


 ……どうやら意見は一致したらしい。ソフィに関してはもう勝つ前提である。このロリ二人の辞書に敗北という文字は存在しないと思う。


 「…なぁ…空気野郎。」

 「…どうしたんだい?ローブ野郎。」

 「…足だけは引っ張るなよ。」

 「…君こそ…邪魔をするなよ。」


 「ルールを決めろよ、新入生。」

 

 どうやらあちらも話がついたらしい。暁は「さっきと同じだよ」とニヤリと笑う。


 「どんな方法でもいい、相手を気絶かノックダウンさせたほうが勝ち。あ、…この決闘って…殺される直前にダメージを受ける人が強制退場して死なずにすむんですよね?」


 ん?ようするに、死ぬ前に決闘している異世界から除外されるっていうわけか?だから絶対に死なないっていうこと?


 「そうだな、だからどんなにか弱い奴が『魔王』とか『殺し屋』とかと決闘してもそいつは絶対に死ぬことは無く、死ぬ直前にその決闘から退場して死亡はキャンセルされる。ま、退場した奴は強制的に負けだがな。」

 

 …予想以上にローブの先輩が丁寧に説明してくれました。


 「じゃあよかったです!」

 「あぁ…お前らが死ぬことはねぇよ。」

 「あ、いえ…これで加減間違えても大丈夫だなって安心できました!」


 おい、今先輩二人の眉間に同時に皺が入ったぞ。余計なことしてんじゃねぇよ。

 

 「…始めようぜ。新入生。」

 「りょーかい、であります!」

 

 暁は大げさに敬礼をすると、腕を高く突き上げた。


 それが合図だったように、俺たちは全員が腕を天高く上げる。


 「「「「「アビリティ・リリース!決闘開始デュエル・スタート」」」」」

 

 再び襲ってくる陽炎の様な背景の揺らめきと、歪んでいく自分の声。連続のせいか、それはさっきより強く感じた。

 

  ※


 む……やっと頭が落ち着いてきた。

 えーと…今回降り立ったフィールドは……太陽が眩しく照りつける草原だった。


 「ねぇユキノ、こういう場所って始まりの草原って名前がピッタリだと思うわ!」

 「まぁ…そうだな。」

 

 相手は最強クラスだけどな。


 「ちなみに私はポケ○ンで最初の草むらで努力値を最大まで上げるタイプよ。」

 「思いっきり廃人じゃねーか!」


 マジか…俺はレベル10で諦めたぞ。

 

 「ちなみに私のはりきりトゲキッスはS振りで、でんじはエアスラの怯みコンボをかけられるわ。」

 「何かよくわからんが凄いっていうのは分かった!」


 駄目だ…暁と話していると本来の目的を忘れてしまう!……だって暁本人が楽しそうに話すからついつい………はい、反省してます。


 「……ユキノ……あっち…」


 ソフィが指差す方向には、完全に無視されている先輩達の姿があった。

 

 「…おい…そろそろいくぞ…新入生…」


 フードの先輩は苛立ちを隠しきれていない様子で待ってくれていた。隣の風斬は呆れながら黒髪を抑えていた。


 「分かりましたぁ!でもー私の名前は新入生じゃなくて!暁ましろです!そんでこの可愛いロリ少女がソフィ!コレが私のユキノです!」


 ………どこからつっこもうか…まず、ソフィがロリならお前もロリだ!…そして何だ!?『私の』って!?やっぱり俺って所有物に入ってたんだ!


 「先輩の名前は?」

 

 そんな俺の心の叫びが届くはずも無く…暁はローブの先輩に問いかけた。

 

 「…影野零(かげの・れい)…」


 影野先輩は大きくため息をついた後、フードを深くかぶり直した。


 「じゃあ先輩!あと3秒で始めまーす!」

 

 切り替え早っ!…まだ心の準備が…


 「3,2,1…ゼロ!」

 

 マジかぁぁああ!!……ってあれ?


 「おい暁、突っ込まないのか?」

 

 てっきりまた前回みたいに速攻で行くのかと思ったわ。先輩もじっと様子を見ているようで、暁はあちらに顔を向けたまま、人差し指を振った。

 

 「ちっちっちっ…ユキノ、私がただ突っ込むことしかできない馬鹿だと思うの?」


 ああ、少なくともそう信じて疑わなかった。


 「……じゃあ私から……」

 「え?…あぁ…」


 ソフィはスッと俺たちの前に立つと、ふわふわと横に浮遊する本が白く光り始めた。


 「……アンミリテッド・ソードワークス…」

 「ただのパクリじゃねぇか!?」

 「おぉ!カッコイイわね!あ、詠唱出来るからやりたい!…I am the bone…」

 「暁…お前は黙ってろ!」


 そんなことしたら技使うたびに伏字つかわなきゃいけなくなるだろーが!!

 

 

 すると突然ソフィの正面に幾千もの白銀の剣が出現し、その刃は美しくも鈍い光を反射させている。見るだけで肌が切れそうな鋭利さが、圧倒的な存在感で強調されている。


 「これ…ほんとにお前の技?」

 「……技だけなら著作権違反にはならない…」

 「何が!?ねぇ今何の話!?つかパクってるって認めてんだろ!」

 「……面白そうだからやった…後悔してない…」

 「人生は後悔しないと進めないときもあんだよ!!」


 まぁ……偶然技名が酷似する時もあるあ…ねーよ。


 「……もう始める……剣よ…ゆけ…」

 

 ソフィが生み出した幾千もの剣は大気を飛び交い、対象とする相手に一直線に飛んでいった。まるで雨のように降り注ぐ剣は、俺達の正面にいた相手を深々と切り裂いた。

 はずだった。

 

 「…ふっ…僕を斬るどころか、触れることすら君たちには不可能だと思うよ。」


 剣が今もなお世話しなく向かっている場所から、呆れるような声が聞こえた。

 

 「……?…効果なし?…」

 「…おいマジか…効いてないのか…」


 幾多の剣が向かう先は一つの人影の奥、風斬の体を障害が無いように草原の奥へと抜けていった。

 風斬はホログラムのように浮かび上がりながら微笑していた。少なからず勝利を確信した顔だ。

 

 「ふふ…少し種明かしをしてあげよう。僕は体を空気と同化させることで、攻撃を無効化しているのさ。ま、分かったところで君たちには勝てないと思うけどね。」


 うわ…まじ最強……ようするに空気ある限り勝てないってこと?


 俺が戸惑いと絶望に頭を抱えていると、暁は何かに気づいたように目を見開いた。


 「……あれ?……あと一人…あと一人はどこ!?」

 「へ?あと一人って…」

 

 そうだ相手は…まだあとひと


 「…気がつくのが…おせぇんだよ!」

 「ぐぉ!!……なん、だ……」

 「っっ!ユキノ!?」


 俺は気がつくと、背後から胸を貫くように漆黒の槍が飛び出していた。服が瞬く間にどす黒い赤に染まり、全身を覆いつくしていた。

 さっきまで何も無かったはずの背後から、もう一人の先輩、影野が一瞬にして佇んでいた。

 暁は瞬時に目を見開いて俺の背後を見ると、誰もが戦慄する程の殺気を纏いながら回し蹴りを繰り出す。その音速を超えるような速さは刹那にして吹き飛ばした…

 

 「ちっ!このぉおお!!」

 「ごふぁぁあ!」


 ……俺の胸を…

 気がつくと俺は盛大に宙を舞っていたが、俺がそれに気づいたのは飛んでから3秒後だった。


 「…くっ…いってぇ…おい!暁てめぇ!どうゆうことだ!?」

 「え?ユキノの後ろにいた奴を攻撃しようとした。」

 「そんなこと聞いてんじゃねぇよ!なんで俺ごとなんだ!」

 「そのほうが相手に早く届くし、ユキノ死なないし。」

 「でも俺は痛いから!今すっごく痛いから!」

 「あれ?蹴って貰って嬉しいんじゃないの?」

 「肋骨8割大破してんのに!?どんだけ俺は変態なんだ!?」

 「冗談冗談、……ごめんね…ユキノ…」


 なんだその計算されたような愛らしい上目遣いは…そんなことで…俺が許すとでも……………………………まぁ…傷は治ってきたし今回だけは許してや……こ、今回だけだからな!

 

 「えへへ…ありがとユキノ。…それより……やっぱりあっちにも効いてないみたいね。」

 

 俺の後ろにいたはずの影野はいつの間にか消え失せ、気配すら感じ取れない。

 

 「…ふっ……影を捉えることなんざ…できゃしねぇよ。」

 

 唐突に風斬の正面に立つように影野が出現する。地面の影が伸びたのは気のせいだろうか。


 「……大ピンチ?……」

 

 ソフィは全く緊張感の無い声で首を傾げた。……落ち着くのはいいことだ、肝心なのは危機感が無いことだ!

 そして暁に関しては…

 

 「ふふ…オラ、すっげーワクワクすっぞ!」

 「どこのサイヤ人だお前は!!」

 「オラすっげーオラオラしてやるわ!」

 「なんか承太郎混じってますけど!?」

 

 だが暁の目は本気だ。いつもの可愛らしい笑顔ではなく、獰猛な……破壊者の狂喜の笑顔だった。


「さぁ……破壊の時間よ、準備はいい?」


 暁は獰猛な笑みを浮かべるときは、恐ろしくも、一番魅力があるように感じる。

 そんな暁のそばにずっといたいって思うのは、俺だけなのかなって自虐的に笑うしかできない俺はやることは一つだ…


 「暁………この戦い終わったら…クッキー作ってくれよな…」

 「…!!……ふふ…もちろんよ!!ユキノ!とびっきり甘いのごちろうしてあげる!」

 

 俺は…暁に自身の支配権を譲った。


 

 


 

 

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