全く…相変わらずだな…お前は…
入学式が終わって次の日、俺は新しい教室へと足を運んでいた。肉体の傷はすぐに治り、ただ疲れているだけだ。
「しっかし……この学園広すぎんだろ……」
ここ天翔学園は、学園長曰く、「ここは君たちが最も伸び伸びと生活できる場所!」だろうだ。
事実、校舎の数は100以上、入学式を行った一番大きいものを入れて、体育館は30、その他全世界の本が集まった巨大な図書館、どっかの湖のように広いプール、常に煙をあげている実験室、世界観察ルーム?に、二次元ワールドぉ?…と、とにかく色々あるのだ!……ほんと…どんだけだ…
まぁ…これくらい広くないと生徒一万人を収容出来る学園は造れないか。
数分後、ようやく教室に辿り着き、ドアを開けようとすると胸ポケットに仕舞っておいた電子生徒手帳が輝いた。
『1年2組・渚ユキノ 認証確認 』
そんな音声が手帳から響き、空中に席の案内が表示された。
この空中にモニターが表示されるのは未だに慣れない。そもそも元いた世界では電子生徒手帳すらなかったぞ。
「………まだ早過ぎたかな…」
教室には俺以外誰もいなかった。まぁ遅れて不良扱いされて友達が少なくなってもアレだしな…。…そしたら隣人部でも作ってみるか?
しょーもないことを考えながら自分の席に向かおうとした時、微かに鼻腔をいい香りが駆けた気がした。
「……?なんだ………」
……ま、いっか…
イスに手をかけて座ると更に暇になったので、少し居眠りをすることに決め…
「……あなたが…渚ユキノ?」
!??思考が突っ伏す直前に停止する。…だって、さっきまで誰もいなかったんですよ、奥さん!しかも名指しならそりゃあビビリますよ。
「…ちょ!!…なにすん…」
俺は両目を手で塞がれ完全に視界を奪われた。どかそうにも、まるで接着剤のように外れない。そして…なんか後頭部に幸せの柔らかい物が当たってるんですがっ!!
「……ここで問題……私は誰?」
……いや、まだこの学園に一人しか知り合いがいない状態で誰でしょうって聞かれても。
……それにしても……綺麗な声だ。
決して大きい声ではないのに、脳の奥までしっかりと鮮明に響き渡る少女の声は、澄み切っていた。
「いや、分かりません……」
少し考えるような沈黙が流れると、再び耳に声が入ってくる。
「……じゃあ二択……私の名前はソフィ・シュルベルト?それともソフィ・シュルベルト…?」
「一択しかねぇ!!……ソフィ・シュルベルト…」
……この人、関わらない法がいい人なんだろうか。
「……不正解……」
「あれおかしい!?間違いなく選択肢それしかなかった!」
「……そ、そんな…何故…それを…」
「何で動揺してんだ!」
「……ちなみに私の人生初の動揺したことは…ドラ○エで竜王に世界を貰えると思ってレベル1になった時…」
「聞いてねぇよ!早く取ってください!」
すると一気に世界が明るくなり、光が視点を調整し始めた。まだ少し暗いが、俺は声がした方向へ向き直る。
「お前一体なんなん……だ、よ…」
視界には、典型的?な魔女の格好をした小さい女の子が佇んでいた。 身長は俺より小さいのに、女性的な膨らみを持つ乳房、とんがり帽子は頭に対して大きすぎるのか途中で曲がり、マントは袖までダブダブで、すぐ横に厚めの黒い本がふわふわと浮かんでいた。ちなみに黒ニーハイでガーターベルトは、非常に大きな得点源である。
その無垢な瞳は、ジィーと俺の顔を見つめている。なんかすっげー恥ずかしい。
「……エッチ……」
「何で!?」
「……今幼女の襲い方を考えてた…」
「考えてねーよ!」
「……じゃあキャベツとレタスの見分け方を考えてた…」
「見分けられるわ!…ちょっと魔女っ子が似合うと思ってただけだ!」
はっ…何を言ってんだ俺は!頭はまだ混乱しているのか!初対面の人になんて事を!
少女は俺の失言の瞬間、僅かに瞳を揺らした、気がした。
「……今なんて…」
「あ、い…今のは…その…言葉のアヤというか…」
「………本当に似合ってると…思う?」
「え?…」
少女はその場でクルリと一回転して上目遣いで聞いてくる。……可愛い…何だこのキラキラしたオーラは…くっ…俺はロリコンじゃない……よな?…
少しドキドキするけど、ありのままを言おう。
「あ、あぁ…似合ってると思うぞ…」
「……そう……」
あ、いま…微かだけど…瞳が揺れた。そしてすぐさま……とっても嬉しそうに微笑んだ。
俺はロリコンじゃないが、それでも息が詰まって見とれてしまうほど、綺麗な笑顔だなって思った。
「……ねぇユキノ…」
「お、おう…?そういや、さっきも俺の名前呼んだけど…初対面だよな…」
「……入学式に暴れてた…とっても問題児で危険人物…」
「初日からブラックリスト載せられてんの!?」
「……私のブラックリストに書かれた人は、必ず死ぬ…」
「何でデスノートみたいになってんだよ!」
マジか…やっぱり俺も有名になってたか……
「……あと一つ…あなたの重要なことを知ってる…」
「へ?」
え?ちょっと思いつかないんですが…まさか、俺に関する重要な情報が…
「……ユキノは…ロリコン…」
「ちげぇよ!風の噂ってレベルじゃねーぞ!だいたい!べ、別に好きじゃねぇし!?」
「……ツンデレ?」
「デレませんけど!?」
ドシャーン!!
……状況を説明すると……突然入り口のドアが吹き飛んだ。……うん詳しく説明すると、……
「もーうユキノー!…何で先に行っちゃうのよぉ!」
暁さんが紅髪をなびかせながら、ドアを蹴り飛ばしていた。…何故かって?…んなもん俺が知るわけないだろ!
「お前!新しい教室になにしくさってんだ!」
「…ん?あぁ…なんか幻想かと思って殴ったら違った」
「とりあえず全力で幻想殺しに謝れ!」
「いやぁ…そんなに褒めても…九頭龍閃しかできないよ!」
「一ミリも褒めてねぇよ!つか飛天御剣流何で使えんだ!?」
冗談冗談と言いながら笑顔になる暁。…そして俺の隣に視線を移す。
「あれ?…君…誰?すっごい可愛いんだけど…」
ソフィは無表情な顔で暁を一瞥した
「……ソフィ…ソフィ・シュルベルト……あなた達と同じクラス…」
「ふーん……ねぇ…ユキノ…」
暁は真剣な表情でソフィを見渡している。そこに何者も付け入る隙など無かった。
「な、何だよ…」
「私………魔法少女といったらカードキャプターさくら派なんだけど…」
「いや知らねぇよ!俺はリリカルなのは派だ!!」
「あんたの趣味なんてどうでもいいのよ!」
「だから何でキレてんだ!」
「ともかく!!私は今!!さくらと同じくらいの……萌えを感じているわ!全身をナデナデしながら家に繋いでおきたいわ!」
「変態か!?」
「変態のどこがイケナイの!」
「全部だろーが!」
一通りボケ倒したのか、暁は悪戯っぽい笑みで「ごめん、ごめん」と舌を出す。……ちょっとドキッとした。
「あ、そうそう…私は暁ましろ。特技は破壊。座右の銘は一撃必殺!!アニメは私のもう一つの現実です!よろしくね!」
もっとまともなプロフィールを公開してほしかった!…ほら…ソフィさんも驚きすぎて瞳揺れてますよ…
「……うん…よろしく、危ないましろ。」
……いや、その見解で間違っていないが、名前みたいになってんぞ。
そうこうしているうちに、時間も経ち、生徒が増えてきたところでチャイムがなった。
「じゃあユキノ!クラスメイトとして、改めてよろしく!」
「……私も…同じく…」
「あぁ…よろしくな。」
暁とソフィは自分の席についていく。
しばらくすると、教室に先生らしき人物が入ってきた。みたところ清楚そうな女性で年齢はとても若く見える。
「は~い!みなさ~ん、キチンと席につけていますねぇ~。…私はこのクラスの担任の~…倉野静で~す。よろしくです~。」
やべっ…すっげーのほほんとしてる。眠くなりそうだ。げんに暁はうたた寝を始めて…って早すぎだろ!のび太でももうちょっと耐えるわ。
「まずは~皆さんの自己紹介…といきたいところですが~…友好を深める為に~…今から三人でチームを組んで上級生に決闘を申し込んでもらいま~す!」
……………は?何言ってんのコノヒト……一瞬時間が静寂で止まる。
決闘と聞いて暁が一瞬で目覚める。目が輝きまくってますよ暁さん。
「あ、だいじょ~ぶですよ~…今上級生はこのことを知ってるので~決闘を拒まれることは無いで~す。」
そうじゃねぇよ!何でいきなり上級生に戦い申し込むんだよ。下克上ストーリーみたいになってる!
「では~あと10分で開始します~チームを作ってくださいね~。ちなみに決闘ルールは~今回は特別に新入生が一方的に決められます~上級生はいろいろな場所に待機してるので楽しんでくださいね~!」
駄目だコノ人!口調はゆっくりだけど、展開が流れが早すぎる!!つか決闘って先生の許可なしじゃ駄目なんじゃ…
「あ、毎年そうなんですが~入学式翌日だけは~上級生に教師の許可なしで異世界に繋げられる権限を与えてありますので~」
特例多すぎじゃね?あの学園長適当……
と、とにかく、三人ペアを作って上級生と決闘すればいいのか?
「よぉーし!!ユキノ!上級生いっぱい倒すわよ!少しでも名声を高めるわ!」
よし…暁はもうチームを組む前提でやる気出しまくってる。あと一人は……あれ?あの子が見あたら…
「……私はここにいるよ…」
………後ろにいたんですね。ソフィさん。近づかれたの気づきませんでしたが。
「……あの…一緒にチーム組むか?」
「……うん。私もあなた達とチームになりたい。………私の初めての友達だから…。」
後半は小さくてよく聞こえなかったが、俺はそっか、とだけ言うと、暁はソフィに抱きつく。
「さぁ、ユキノ!ソフィ!……私たちの戦争を始めましょう。」
「お前は精霊でもデレさせる勢いだな…」
※ ※
そして上級生の教室前にて、暁は勢いよく拳を振りかぶり……ドアをぶち壊した!!この人ドアの開け方知らないの!?この学校自動ドアですけど!?
「たのもー!!私があんたらをぶち壊す!」
教室は一瞬で静寂に包まれる。ここまで上級生に挑発的な態度のやつは他にいないだろう。
そして暁のすぐ横に高速で何かが駆け抜けた。砕けた音が響き、俺の近くにダンベルと思わしき破片が飛んできた。
「おい新入生!…ここをどこだと思ってんだ!この俺が礼儀というものを教えてやろうか?」
立ち上がったのは超ムキムキの大猿…じゃなくて男。どっかのサイヤ人が月見たみたいなその容姿は、人目でヤバイと思われる。
だが暁はそう来ることを予想していたようにニヤリと顔を凶悪な笑みに歪める。
「…先輩一人でいいわけ?そうなら私一人で十分だと思うんですけど?」
「!ふん…全員まとめて相手してやるわ!ルールを決めるがいい!」
ムキムキ先輩は自分が負けることを考えていないようだ。
呆れるように暁はため息をつくと、再び凶悪な笑みに戻す。
「…まぁ…肩慣らしにはちょうどいいわ。ルールはどんな方法でもいい、相手を気絶かノックダウンさせたほうが勝ちってルールにしましょう。」
「いいだろう!後悔するなよ。新入生!俺は加佳露土悟空!最強の『格闘家』だ!」
「あっそ…どうせ覚えないからいいわ…」
「なっ…」
カカロッ…加賀露土先輩は絶句したのち、顔を真っ赤に染め上げる。ちょっと脳筋だなぁーって思う。
「……脳筋馬鹿?」
「ソフィはもうちょっと状況察しような!!」
「っう!!舐めやがってぇ!」
もはや髪が金髪になっていいレベルで怒っているカカロット先輩(もう面倒なのでカカロットで)は今にも襲い掛かってきそうだ。
そして全員が腕を掲げて、始まりの合図の準備をする。どうやら先輩達が特別に決闘を発動できるのは本当らしい。
「「「「アビリティ・リリース!決闘開始」」」」
…若干の眩暈とともに歪む空間……これが始めての決闘による異世界転送……しばらくは慣れそうにないかも
うぅ…やっと…意識が安定してきた……ここは…
「……闘技場?」
ソフィはあたりを見渡しながら首を傾げる。こういうの円形闘技場っていうんだろうか。非常にシンプルなつくりで、障害も無ければ、隠れられる場所も無い。
「ねぇユキノ、ソフィ…初試合なのに、今回あなた達の出番が無くてごめんなさいね。」
暁は心底申し訳なさそうに、謝る。もう勝つ前提である。しかも一人で。
「貴様…いい度胸をしているようだな。ではまずは貴様から倒してやろう!この俺が貴様らに負けるはずなどあり得ない!」
そういいながら、カカロット先輩は力を入れるように低い声を溜めている。……どうでもいいけど…今のセリフ……思いっきり死亡フラグですけど…
暁は深くため息をつきながら体勢を低くとる。俺は少し離れて……帰りにまた襲ってくるであろう…眩暈に備える。もう結果は見えているのだ。
「じゃあ行きますよー先輩…私の座右の銘は…一撃必殺です。」
「ふん!いつでもかかって来るがいいわ!」
あいつはいつだってそうだ。俺に世界を開いてくれた時だって、絶対なる自分の『破壊』を疑いもしない。
最強の『格闘家』?…そんなものでは『破壊者』は止められない。
勝者が決まったのは一瞬だった。
「……じゃ、これで勝ちです。」
暁は少し踏み込んだかと思うと、刹那にしてカカロット先輩の目前に迫っていた。拳は少し眩しい輝きを纏っている気がした。
そして一発、たった一発だけフワリと格闘家の腹を殴りつける。触れた瞬間、格闘家はその場から消えた。それと同時に、闘技場の壁に衝撃が走る。
響き渡る轟音の中、俺はふっと笑ってしまった。ちょっと出会いを思い出してしまったから。
「……相変わらずだな、お前は……」
「ん?なんか言った?」
「…何でもねぇよ……あ、決闘が終了するみたいだぜ…」
少し視界が不自然に歪み始める。ほんとにあっけない初戦だったな。
【今回の戦績 最強の『格闘家』撃破 】
歪む世界の中、暁はいつもの可愛らしい笑みに戻っていた。
「ユキノー今度はもっと強い人がいいね!」
「…それはお前だけだと思う。」
「えーやっぱり激しく闘わないと盛り上がりに欠けるっしょー?」
「…何の話だ…全く」
「……ねぇ…」
「うん?」
ソフィは少し悲しそうに俺の袖を引っ張る。
「……私の出番の意味は?」
「は?意味?」
ちょっと何を言っているのか分からない。のだがどうやらそれには暁が答えるらしい。
「うーん…たぶん…テコ入れじゃない?」
「だから何の話だ!?」
これ以上は何かヤバイと思いました…マルっと。