文句無いわよね?
再び会場内に眩い閃光が走ると、魔王と学園長は先ほどと同じ位置に戻ってきていた。
ラティア学園長は可愛らしい笑みをこちらに向けながらWピース。一方の魔王はその場から一瞬で消滅していた。
「どうどう?今の!?決闘やりたくなったよね!?…ちなみに決闘は例外を除いて、教師と対戦生徒の許可なしで一方的に進められないから注意するんダゾ!………え?例外とは何かって?……知りたい?…そんなに知りたいの?…もう!仕方ないなぁ!」
いや誰も聞いてねぇよ……この学園長はいつも誰と会話してんだよ。しかし知りたいのも事実なのでスルーします。
「いいかい?…この学園には<四天王>の称号を持つ者がいるんだ。その称号所持者には、それぞれの称号にあった特権が使えるようにしてある。決闘を教師の許可無く出来たり、ルールを一方的に決められたり………あと何だっけ?ま、まぁ問題ないだろう!」
………この学園、大丈夫?
「ちなみに、何か面白そうな称号作ってたらいつの間にか<四天王>が十人になっちゃった!……てへっ!」
てへっ…じゃねぇよ!一回<四天王>の意味辞書でひいてこいや!
「と、とにかく!この特権は基本ルールよりも権限が上に設定してあるってわけだよ!!え?それじゃあ殺害とか暴力とかを、特権を持つやつから喰らうかって?…だいじょーーぶ!殺害及び決闘以外での過度な暴力はこの学園では禁止ではなく…不可能でーーす!だいたーい、そんな特権ボクが認める訳ないっしょー!」
やべっこのロリ学園長のテンション高い……若い?から許されるテンションだな。…べ、別にロリコンじゃないぞ…
「必死に自分自身を否定するが……もはや俺の小学生への愛は止まることを知らなかった…」
「だから回想みたいに挟むじゃねぇよ!しかも内容が変態すぎるわ!」
「やっぱり小学生は最高だぜ!」
「もうそのネタやめろや!」
「やっぱ…」
「しつけぇよ!」
「違うよ!やっぱり幼女は最高だぜ!ぐふぐふって言おうとしたのよ!」
「ガチ変態じゃねぇか!!」
そこまでつっこむと、暁は急にモジモジしながら顔を赤らめた。
「べ、別に幼女が好きな訳じゃにゃいにゃー!」
「は?何してんだお前?」
「変態性癖を必死に隠す猫、略して変ね…」
「もう黙ってろ!」
そうこうしている間に、もう話は一通り済んでしまったようだ。
ラティア学園長は満足そうに胸を張ると再び仁王立ち。
「じゃあ質問があるなら、今のうちにどうぞ!ボクは謙虚で寛大だからね!」
心から胡散臭いと思った。まぁこんな大勢の前で質問できるやつなんてよっぽどの天才か…
「はいっ!学園長!私、暁ましろは質問があります!」
馬鹿だけだ……ってお前かよ!!堂々と手を上げやがって何か皆の視線がこっちに来て恥ずかしいんですけど!?まぁ…俺なんて誰も気にしてないだろうが……
学園長はほほう、なんて言いながらニヤリッとした笑みを浮かべた。
「じゃあ質問はなんだい…暁ましろちゃん」
「あのー<四天王>を倒したら…その人の<四天王>の称号奪えるんですよね?」
「そうだね!あ、何々?四天王の座を狙ってんの?」
「あ、いえ……そんな小さい目標じゃないです。」
会場内がどよめく。そりゃそうでしょうよ。さっきまで四天王になった場合のメリットとか言ってたんですよ。
「じゃあ君は何がしたいの?」
そこまで学園長が聞いたとき、暁が一瞬だけ獰猛な笑みを浮かべたのを、俺は見逃さなかった。
「私はもちろん<四天王>を倒します。ただし……全員。そしたら…私は…この学園の頂点と言えますか?」
世界が静寂に包まれる。唖然として口が開かないのだ。
止まった時を動かしたのは、壇上に君臨する少女だった。
「はっはっはぁ!!いいねぇ君!とってもとっても面白いよ!!分かった!もし君がこの学園の<四天王>全員を倒したら、この学園の頂点に立っていることを約束しよう!」
再びどよめきが走る。だって最強さん大集合の中、王様になることを宣言してんですよ。
「ありがとうございます!……お礼に少し驚きを与えましょう。」
ん?待て待て……いやな予感以外しないんだが……
暁は俺に至近距離まで近づき、体を小さいので袖を引っ張る。これは視界の高さを合わせろという合図だ。ようは俺がしゃがむ。
「なんだよ…」
「ねぇユキノ……私のクッキーおいしかったわよね?」
「!!!……………」
その質問だけで、あの時の記憶が鮮明に思い出される。…俺はあの時、どんな時でもこいつに…暁についていくと決めた。
暁は、あの時と全く、全く変わっていない。もちろんそれは俺の決意も同じだ。
俺は大きくため息をつくと頷いていた。
「うんうん分かってるぅ!あのねー!作戦は……」
暁は楽しそうに俺がやることを耳打ちする。
作戦を聞いて、俺はもう一度強く頷くと暁に忠告する。
「…あんまり、痛くないようにしろよ!」
「あら?こういうの初めて?」
「……少なくともこんな経験初めてだな。」
「ふふふ…私はユキノだからこそよ。それ以外だとすぐ逝ってしまうもの。」
「……ったく…」
関係ないけど…この会話なんか卑猥じゃね?
「じゃあ行くわよ!!」
暁は意気揚々と俺の後ろに回り込む。ドラ○エで回避失敗したときってこんな気分なのだろう。
そして、背後の空気の流れが、変化していくのを感じた。
「飛べ!ユキノミサイルゥウウウ!!」
「………は?えぇえええええええ!?」
学園長は驚き過ぎて反応が遅れた。当然だ、俺は後ろから思いっきり蹴られて学園長の方へ一直線に飛んでいるのだから。ちなみに俺の背骨は逆くの字に曲がっている。これが結構痛い!もう痛すぎて涙すら出ない。
……つか痛いですんでる時点で、人と同じ痛覚じゃなかったわ。
暁は学園長をなんとしても驚かせたかったらしく、自分が攻撃するだけでは相手の驚きが足りないらしい。だから俺を蹴り飛ばした。頭おかしい発想だ。
だが、俺が飛んでいく先は、最強を遥かに超える、少女なのだ。
「…『これは片手で受け止められる』…」
少女のか細い腕は前に出され、俺の折れ曲がった体を、空気に触れるように受け止めた。
その刹那、爆風を伴う衝撃が会場内を覆い、辺りは轟音に包まれた。
……つか…背中痛いです。死ねるレベルだ。いや、不死身だけど。
「ふふっ…君は……いや、君達はとっても面白いね。ボク気に入ったよ…」
学園長は俺にニヤリとした笑みを浮かべながら愉快そうに続ける。
「まず……彼女…暁ましろちゃんは、あらゆる物理法則を無視した攻撃だった。ましろちゃんは…非常に興味深い特異質と言えるね。」
爆風のモヤがだんだんと晴れ、視界も声もクリアになっていく。
学園長が「そして…」と続けるとき、俺はいつの間にか少女の腕に絡まれて、息の熱が伝わってくるほど顔が密接していた。
「が、学園長…近いですよ!?何してるんですか!!」
だが絡まる腕はより、強さを増し、もはや互いの顔が近すぎて見えにくいレベル……くっ…俺は…ロリコンじゃない……のに…
そんな心の葛藤を楽しむように少女は続ける。
「……『決闘以外の過度な暴力の禁止』が発動しないということは、君にとってこれは過度の暴力じゃない……つまり、不死身なんだよね?」
「………」
俺の黙秘を是としたのか、顔を可愛らしく緩ませる。
「……あ、あの…もう離れてもらっていいですか?」
非常に恥ずかしいし、何より…
「ユキノー……ユキノー……待ってて…今助けるからぁ…」
暁さんとか暁さんとか暁さんとか暁さんとかが!!下から怖い笑顔で指を鳴らしているので!あいつ独占欲かなり強いからなぁ…上崎裡沙とほぼ互角です。
でも、無垢な笑顔100%少女は、抱きつくのを止めない!!
「い・や・だ♥♥…君の事…とぉーっても!大好きになっちゃった!こういうの何だっけ?……そうそう!…ひ・と・め・ぼ・れ!」
…………は?おいちょっと待て!色々待て!何で俺は全校生徒の前で学園長に愛の告白されてるの!?ラノベでも転校生にひとめぼれされることはあっても、学園長ルートなんざ聞いたことねぇよ!…そして暁さんの方向から音速で椅子と思わしき無数の飛来物が!!止めて!椅子に殺される!!
「あのロリ女私のユキノに………駆逐してやる…」
「何か巨人やつみたいになってますが!?」
おそらく恋愛感情は抱いていないだろうが、たぶん暁がヒロインならヤンデレヒロイン枠になっていると思う。
「…ふふ…君達新入生を心から歓迎するよ!では以上で入学式を終わりにしまー…」
「ちょっと待て!」「待ちなさい!」
俺と暁は同時に叫ぶ。ラティア学園長は不思議そうに首をかしげる。
「ん?どしたの?」
「いや、離してくださいよ!」
「あ、ごめんごめん……いつもはもっと人気のない場所でこういうのいてたよね…」
「俺たち初対面ですけど!?」
「それは違うよ!」
「どこも論破できねーよ!」
「ぶぅー…しょうがないなぁ…」
少女はようやく体を離すと、可愛らしく頬を膨らませる…
その瞬間、俺は宙に吹き飛んだ。犯人は分かっている…
「……よし!これでチャラになったわ!」
「…っつぅ……どこら辺が!俺一ミリも悪くないだろーが!」
「以上で入学式を終了しまーす!」
「何で無理やり終わらせてんの!?」
学園長は両手を大きくバイバイしながら高らかと宣言した。
今日の被害
背骨粉砕骨折。両腕打撲。脊髄損傷。靭帯断裂。
……よかった…俺不死身で……すぐ治るのもありがたい。でも…こう思えるのも…不死身でよかったって思えるのも全部……
「さぁ…ユキノ!まず何から壊す?」
暁…お前のおかげなんだよな……
「ん…お前のお好きにどうぞ…」
「じゃあ四天王で!」
「いきなり過ぎるわ!」
「文句は無いわよね?」
「……ナイデス…」