マジかよ…
ギリギリ他の新入生達と合流できた俺たちは、整列しながら騒がしい辺りを見渡していた。集合場所の体育館は東京ドームより一回り大きいくらいだろうか。まぁこれくらいじゃないと、全生徒は入らないだろうが。ちなみに体育館は他にも複数の種類があるらしい。
「うひゃー!!凄いわねユキノ!色んな人がいるんだねー!」
「………あ、ああ…」
ハハッ……イマスネー。背中に真っ黒い翼生えてたり、…足元が透けてたり、周りに衝撃を撒き散らすドラゴンっぽいのもイマスネー……俺の後ろに並んでいる奴に関しては「海賊王に、俺はなる!」なんて連呼しながら腕をゴムみたいに伸ばしてるし。
「ここ……高校だよな……」
「あら?ユキノ知らないの?ここは高校じゃないわよ?」
「………え?」
「いや、え?じゃないわよ。ここは天翔学園よ。様々な修羅神仏とか人間とかが集まっているんだから、教育方針は様々よ。ま、私とユキノは高校の教育課程を軸に進むと思うわ。」
ああ、だから武天老師っぽいのいたり、名探偵○ナンっぽいのいたのかー。納得なっと…しねーよ。
……ようは高校生以外の最強も全部ここに集まっているって事か、全く…この学園創ったやつの顔が見たいぜ。
そんな冗談が通じたとは思えないが、煌びやかな装飾を誇る体育館の扉が開き、声が響いた。
『新入生は上級生の後に続くようにして入場してください。』
言われるがままに俺達は足を進める。さすがに暁も緊張しているのか、口を閉じた。
盛大な拍手と豪華な装飾を抜け、無事に席につくと、入学式は、始まった。
※ ※
教師の紹介や(大変最強ばかりだった)、今までの功績?や(大変むちゃくちゃだった)、校歌を披露してもらった後、いよいよ入学式は終盤に突入した。あとは、学園長の話と閉会の言葉で今日は終わりである。
『では続いて、学園長の話。よろしくお願いします。』
女性教師が壇上にお辞儀をする。すると、地響きが辺りを蹂躙し始めた。新入生のスペースは何事かとざわつき始め、上級生達は苦笑と呆れた顔を混ぜながら待機していた。先生達の方向を見ると、別にさっきと対応が変わらないので異常事態ということは無いようだ。
暁は好奇心を抑え切れないのかキラキラした目で壇上を見ていた。
「むむむ…何が始まるのかしら……ラスボスの登場?」
「何で初っ端から出てくんだ!斬新過ぎるわ!」
「ちなみにラスボスなら、テイ○ズで言うデュークくらいの初見殺しレベルの強さが好きね。」
「聞いてねぇよ!」
くだらない会話を交わしていると、天から大音量で声が届いてきた。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!何か話せとボクを呼ぶ!聞け!生徒ども!ボクはここの学園長、ラティア・フォルティシムス!!」
会場一杯に響き渡る声は、とても大きく……とても幼かった。……何よりネタが古いわ!今時仮面ライダーストロンガーはわかんねぇよ。あれ?つか何で俺知ってんの?
とうっ、という掛け声が上がったかと思うと、壇上にスタリと誰かが着地した。
って……少女?
唖然とする俺をよそに暁は感動で興奮していた。
「ユキノユキノユキノ!!可愛い女の子よ!しかも小学生くらいの!」
「ああ……てかお前興奮しすぎじゃないか?」
「まったく、小学生は最高だぜ!」
「お前それ言いたかっただけだろ!!」
だが、本当に小学生にしか見えない。腰ぐらいまで伸びた髪はふんわりとウェーブがかかっている。人形のように可愛らしいピンクの洋服をふんわり着こなし、それがとても似合っている。
謎の少女の登場に、誰もが理解できていないようだった。
少女はステージから満足そうに全体を見渡すと、備え付けのマイクまで軽快にスキップしマイクを手に取ると
「諸君、ようこそ、ボクの世界へ!」
キュートで小悪魔っぽい笑みを浮かべながら、実に楽しそうな声音で言い放った。
ちょっと頭が整理しきれない俺は、続く言葉にさらに衝撃を受けるしかなかった。
「ボクはこの学園の一番偉い人!つまり学園長さ!」
は?…が、学園長?
どう見てもただの小学生やん…いや、美少女だけど……べ、別にロリコンじゃねーよ……
「……そうは思いつつも、小学生を見ると、興奮するのもまた事実であった…」
「かってに回想みたいに挟んでじゃねーよ!!つか回想に割り込むな!!」
お前は少し自重しろ!今キーキャラ紹介だから!
「じゃあまず手始めに……この最強だけで構成された学園を創った理由をきかせてあげよう!それは……」
急に真剣味を帯びたその目に思わず生唾を飲み込む。
「それは……なんか……面白そうだったから!!以上!」
は?……………………それだけ?
「え?もっと詳しく?んーそうだなぁ……補足すると……最強達が同じ場所に集まったら面白いかなーって思ったから。」
いやいや、一ミリも補足になってませんよ。深い理由無いのかよ!!
大丈夫か?この学園……しかしそんな最強しか集まっていない学園を纏め上げることが出来るということは…
「あ、ちなみに…ボクは最強を超えたチートキャラって奴だからね!ここ!重要ですよ!」
……イマイチ理解できない…最強を超えているってどゆことだよ。だって見た目はただの可愛らしい女の子だぜ?
「むぅ……いまいち嘘っぽく伝わっちゃうなぁ……よし!!あれをやろう!じゃあ……サタン君!壇上まで上がってきてくれる?」
「……………おい、何で俺様なんだくそガキが…」
上級生の席でどす黒いオーラが立ちこめ、背筋が凍るほどの低い声音が奔り、思わず俺はそちらに視線が移り、恐怖で停止した。
息が止まるほどの禍々しい気配を宿した銀髪の少年は、壇上を殺意のみで睨みつけていた。が、逆らうつもりは無いのか、少年は心底気だるそうに浮遊しながら壇上に上がると、あからさまに嫌そうに顔をしかめる。
「いいじゃないかー。久々に君の力を見てみたいと思ったんだよ。…最強の『魔王』としての君の力を、ね?」
さ、最強の魔王!?あいつが……
暁に関してはもう感嘆の声しか上げていなかった。お前は恐怖とか感じないのかよ。
「わぁ……凄いわねユキノ!魔王よ!魔王!今ラノベで引っ張りだこの魔王様よ!」
「お前が言うと魔王が安っぽく感じるな!」
「ちなみに一番好きな魔王は六畳一間風呂無しのアパートに住んでる魔王よ。」
「安っぽいってレベルじゃねーぞ!」
ともかくあの少年が最強の魔王らしい。一体何をすると言うのだろうか。少なくとも学園長に勝ち目は無さそうだが。
「いまから新入生には…能力決闘を通してボクの力をみてもらうよ。決闘の流れも分かるし、ボクのチート性も分かる!ボクって天才だね!」
屈託の無い笑みには一切の邪気は無く、どうやら本気で言っているようだ。
「…………ったく…いいからさっさと終わりにしようぜ…」
「んーもう!せっかちだなー!!そんな子に育てた覚えは無いよ!」
「……育てられた覚えもねぇ…」
「よし!じゃあ始めよう!」
学園長がそういうと一瞬の静寂が空間を包み込んだ。そして一コンマのズレ無く同時に口が開く。
「「アビリティ・リリース!決闘開始!」」
両者は眩い光に包まれ、続けざまに空間に閃光を迸らせると、ステージから跡形もなく消滅していた。
「……あれ?私たちはどうす…」
暁の疑問は最後まで発せられる前に解消された。
ステージに巨大なスクリーンが映画館のように浮かび上がった。どの角度から見ても同じものを見せる為なのか、すぐさま水晶玉のような球体へと形状を変化させた。
球体内部に映し出された場所は、近未来のような世界で、俺の元いた世界でいう、東京に似ていた。
『……ハロー?聞こえてる?生徒諸君!?』
学園長は球体内でふわふわと手を振りながらこちらに顔を向ける。
『いまボクがいる世界はねー!!決闘の為だけに使用される異世界だよ!!今は中継みたいな感じでそっちに伝えているんだ!……え?そんな都合よく異世界があるのかって?あははっ!まさか!ボクが創ったに決まってるだろう?』
いや異世界創るって……さらっと言ってるけど…それもうチートとか通り越して神じゃね?
『………じゃあ行くぞ……』
映像は魔王である少年へと移行する。それを遮るように学園長は手を忙しなくぶんぶん振って止める。
『わー!!待った待った!最後に説明させてよー!』
『…………』
魔王の沈黙を是ととったのか学園長は俺たちに再び視線を戻す。
『いいかい?この世界では決闘ルール・内容は例外を除き、対戦者両者で決めるんだ。一方的にルール・内容は決められないよ!…例外を除いて。この世界では相手に死を与える以外がルールに沿っていれば全てが許されるのさ!』
『………今回のルール…互いに殺してはいけない…内容は俺様がてめぇに一撃を通したら俺様の勝ち、てめぇが防いだらてめぇの勝ち……だろ?…』
『さっすがー魔王!分かってるー!じゃあそゆことだから!始めるよー』
……ようは、ルールとか勝利条件とかは両者が共同で確認しながら作るってわけか…
『…………行くぞ……くそガキ!!』
ここからでも都市が震えているのが分かるほど、向こうでは絶望的な力が解放されようとしていた。魔王の力は、同じ場所に立っていないのに、冷や汗と戦慄が止まらない。
対する学園長は余裕綽々の顔で仁王立ち。恐れるどころか、一歩も動く気は無いようだ。
誰もが押し黙る静寂の中、時は満ちた。魔王の手のひらにどす黒い塊が収束に禍々しい閃光を解き放つ。
『…………これで…沈めぇぇえええええええええええええええ!』
『………』
ん…今、学園長が何かしゃべった気が…
そんなこと気にする間もなく魔王の手から空間一杯に放たれる超極太光線は、一瞬にして、画面全てを漆黒の世界へと塗り上げる。別空間で起こっているはずなのに、胸に大きな衝撃が響いた気がした。
しばらくして映像に変化が表われ始める。だがそこには先程の近未来的な街は無く、辺りに広がっているのは荒々しい岩肌のみで、まるで世界が終焉を迎えたようだった。そんな世界に誰かが立っているわけが…
……いや、いた。圧倒的な殺意を宿した魔王と、仁王立ちのまま笑う……勝者の姿が。
『……ボクの能力……それは、<真理構成>…さっきは【ボクに攻撃は効かない】っていう真理を創ったのさ!どう?凄いでしょー!?』
屈託の無い笑みは…ただ俺たち新入生を呆然とさせるしかなかった。暁でさえ、瞬きを繰り返すだけでしゃべりはしなかった。
まるで神みたいじゃなくて……神じゃね?しかもそこらへんの神より圧倒的につえーよ!!…いや神にあったこと無いけどさ。
……今日は、最強を纏められる理由が分かりましたマルっと……