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この学園は最強しかいない!  作者: 魔王さん
あなたのやりたいことはなんで章
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ぶかつさがしっ! 【文武両道部っ!編】①


部活を体験するからには、暁なりの条件が設けてあるらしい。曰く、


「まずは前提として、ありふれた部活を体験する気はないわ。今まで見たことも聞いたこともない部活がいいわ!」


…曰く、


「まぁ平和な日常系のやつもパス、私は戦いたいのよ!」


……曰く、


「ただの人間に興味はありま…」

「もう黙ってろ」


とは言うものの、そんな珍妙な部活に遭遇することなんてそうそうある道理が…


「ねぇ、ここどんな活動内容かしら?」

「ん?なんだここ…『文武両道部』?」


暁がある部屋のドアに貼ってある部活名をみて首を傾げている。というか俺も聞いたことがないので同じ状態で疑問詞を頭に浮かべていた。


「お兄ちゃーん、ぶんぶりょうどうって…なにー?」


はるかは右袖を引っ張りながら問いかけてきた。幼女にも分かるように説明せねば。


「文武両道っていうのは、勉強と運動、どっちも頑張って凄い人になりましょう。ってことだな」

「おー!お兄ちゃんの出来てないやつだねー!」

「………なかなかに心折れること言わないでください…」


まぁこれを出来てる学生なんてそうそういねぇよ……え、いないよね?俺だけじゃないよね?

ただ、改めてこの部活のやっていることが分からなくなった。普通に勉強したり、皆で賑やかにスポーツを楽しんだりするのだろうか。


「……ふふっ…なんだか…とっても面白そうな予感がするわ!」


暁はニヤリと口元を歪めながらその扉に手をかける。今更留める気もないが、こちらはこの笑顔を身うときは嫌な予感しかしない!


「じゃあ…頼もおおおおおおおおおおおお!!」


暁は横開きの扉を正面に押し出しながら大きな声で叫んだ。いい加減普通に開けろよ!!!



扉のすぐ先は、教室なんかじゃなかった。

やや焦げ茶色に色あせた草原が風で静かに揺れてどこまでも続いており、様々な高さの丘陵の彼方に寂びれた廃墟のようなものが点在していた。

俺たち全員が中に入ると、馬鹿な破壊者によって不条理に壊されたはずの扉が新たに背後に出現し、この異世界と廊下の接点を閉ざした。

辺りを見渡してみるが、近くに人影は確認できなかった。その代わりに、


「…ん?なぁ暁、お前の持ってるその紙なんだ?」

「え?紙……あれ、いつの間にこんなの持ってる…ってユキノも持ってるじゃない!」

「は……俺もって……おわっ!マジだ!!なんだこれ!!」


驚いて反射的に投げ出してしまった数枚の紙を慌てて拾う。書かれている内容は……ん?数学の……問題?しかも昨日習った場所だ…ほかの紙にも教科は違えど同様にテスト用紙のようなものだった。


「というか、まんまテスト用紙ね……」


暁は空にかざしたり、しばらく凝視したりしていたが、最終的にその結論で揺るぎはしなかったようだ。とりあえず俺は制服の懐のポケットにある程度畳んで収納し、暁も小さく折りまくってポケットに突っ込んだ。その数秒後、


【参加準備完了:HPヒットポイントを表示します】


いきなり目の前にそんな表示が現れ、視界の右上に青い帯ようなものが浮かんだ。上に数字で100と書いてあり、どの方向を向いてもその表示は視界から外れることはなくなった。

まるでRPGを直接生身で行っているような状況に困惑しか浮かばない。

とりあえず暁にそちらの状況を確認しようと顔を向けるが、その顔に先ほどの軽薄さと笑みはなく、真剣に正面を見据えていた。


「…どう…したんだ?」

「しっ!何かの気配を感じるわ…伏せる準備か殴られる準備をしておいて…」

「…前者だけしとくわ…」


さぁぁっとひときわ強い風が草原をたなびかせていく。と、直後に悠もその姿を剣へと変えて俺の右手に収まる。


「お兄ちゃん気をつけて…とってもいやなものを感じるのー……」


数分の静寂が妙に体をざわつかせる。この感覚は感じたことがある。だが、戦闘以外では感じたくないもの…殺気なのか。そう思って剣を握りなおした、まさにその瞬間。


「!!っ避けろ暁っ!!」

「なっ!!」


きらりと遠くの丘が光り、そこから一直線に小さい物体が暁に向かって弾丸のごとく襲い掛かっていた。

反射に俺は暁をかばうように体で押し飛ばしたが、同時に肩に鈍い衝撃が響く。痛みこそ感じないが、HPは10減少している。つか、この飛んできたものは……鉛筆!?

さらに勢いよく何本もの物体が光の尾をひきながらこちらのすぐ横を駆ける。


「くっ…とりあえず今は退くわよ!!」


暁は忌々しげにものが飛んできた方向を見るが、即座に俺に反対側を指さしながら叫ぶ。何故鉛筆が飛んできたのかはこの際考えることじゃない。大事なことは視認できない範囲から鉛筆という凶器を飛ばせる敵がいるということだ!


「お前はどうすんだよ!!」

「黙って祈りなさい!!」


地面に破壊者の拳が振り下ろされた瞬間、ドォォォンッッ!!という轟音とともに草原は散り、大地は大きく崩れ舞う。あぁなるほど、だから祈るしかないのか。


「ユキノ!しっかり飛びなさい!」


気が付けば俺は、宙を高速で突き進んでいた。なんてことはない。ただ暁に腕を掴まれてぶん投げられただけである。

投げた当の本人も、大地にクレーターが出来るほどの凄まじい勢いのジャンプを繰り返しながら俺の後を追い、ひとまずはその場を脱することに成功した。……もちろん、俺の着地は見事に頭から突っ込み、頭がい骨や首、他数十か所の骨を修復するのに10分ほど使ったのは言うまでもない。



足を進めている途中で丘の陰にぽっかりとあいた洞窟を見つけた俺たちは、ひとまずはそこで隠密もかねて状況を整理することにした。

洞窟の奥のほうに腰掛けると、剣は勝手にはるかへと姿を変え、定位置化しつつある俺の上にちょこんと座った。


「…にしても訳分かんねぇ上にとんでもねぇ部活だなここは……なにが文武両道だよ…鉛筆が飛び交ってくるなんて聞いてねぇぞ」

「……鉛筆?ユキノ、あの飛んできたものは鉛筆だったの?」


珍しく真剣なまなざしで暁はこちらに確認を取ってくる。改めて思い出してみるが、あの刺さったものは形状だけ見るなら鉛筆だったと思うので多分な、と付け足しながら頷いた。


「鉛筆…ねぇ……ユキノ、その鉛筆は今どこにあるの?」

「お前が俺をぶっ飛ばしたときにどっかに吹き飛んじまったよ。でもそれがどうかしたのか?」

「…鉛筆…テスト用紙……文武両道……」


テスト用紙を再度広げて凝視していた暁は、暫くぶつぶつと呟いていたが、やがて頭上にLEDライトがついたような明るい顔でそっか!と頷いた。


「謎はすべて解けた!!」

「お前はどこの金田一少年だ…それで探偵さん、謎解きをお願いできますかね?」

「ふふふっ…仕方ない…教えてあげようワトソン君!」


暁は偉そうに無い胸を張って狭い洞窟を歩きながら探偵役になりきっていた。あー、調子乗るとすぐこれだよ。…………ま、まぁ…そこも可愛かったりしなくもないのかもしれなくもないかもしれないが。

こっちのお構いなしに話はどんどん進んでいく、


「えー、まずユキソン君、私が手に持っているこれは何かな?」


サラッと変な呼び方をされたが、ここは突っ込まずに素直に答える。


「まぁ、普通に見たらテスト用紙だな…」

「そう!これはテスト用紙だ!では悠君に次の質問だ!ここの部活動名は何かな?」

「…ぶんぶりょうどうぶっ!」


悠は元気よく手を挙げて可愛らしく答える。ロリコンじゃないけどロリって素晴らしい。


「そう、文武両道部だ!では最後の質問!ユキソン君に刺さり、多くの痛みを与えたものは何かね?」


多分暁は鉛筆と言わせたいのだろうが、どちらかというと400パーセントくらいの割合でお前にぶっ飛ばされたときのほうがダメージデカかったぞ。なんて文句は言えないので偽りを告げる。


「鉛筆…だったと思う」

「そう!鉛筆だ!つまり………そういうことだよ」

「どういうことだってばよ!?」

「あーもうっ!察しが悪いなぁ…そんな助手に育てた覚えはないよ!」

「育てられた記憶もねぇよ!」

「…そうか……あの時君は記憶を失って……ごめん」

「なんで過去に重大な事件に巻き込まれたみたいな伏線張ろうとしてるんだ!巻き込まれてたとしてもまだお前と出会ってねぇよ!」

「君がすべてを忘れてしまったとしても、私は全部…覚えているから…」

「あーはいはい、もうそれでいいからさっさとネタばらししてくれ!」


俺が適当に手を払う仕草で先を促すと、暁はほんの一瞬だけ悲しそうな顔を浮かべるとすぐさま悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。


「つまりねユキソン君、このテスト用紙に解答すると、文武両道の『文』を極めたことになり、何かが起きると思うんだよ!」

「…………おぉ…」

「へへーん、どう?凄い推理力でしょ?」

「………あーうん。すっげーよ、全然思いつかなかったわ」


正直言うと暁がひらめいたあかりからこっちもそこまでは気づいていたが、あえて言わないようにしよう。


「ところで、その何かが起きるって具体的に何が起こるとお考えで?」

「……………なにかは……なにかよ……」

「…………まぁこればっかりはやってみないと分かんないなぁ…」


「それは部長であるこの俺が説明しよう!」

「「「!!!」」」


突然の外部からの会話乱入者に全員が驚き、声が聞こえてきた方向を反射的にみる。

そこには…無駄にキラキラした眼鏡の青年がジョジョ立ち風に構えていた。




〇 〇 〇




「ふっ…学園に戻るのも久方ぶりか……名を覚えられる者が増えれば良いのだが」


太陽の光を反射して燦々と輝く金髪を靡かせ、少女は切り立つ崖の淵から、天に向かって手を伸ばす。これから帰る場所は、きっと自分の心を大きく高鳴らせてくれるだろう。

そこへ背後から青年が歩み寄り、少女にある紙を突き出した。


あるじ、この『特別入学手続き書類』っとかいうやつ書いたぞ」

「うむ、ご苦労。これでお前は学園の生徒になった。その他物品は学園で受け取れるだろう。ならば余につかまれ、転移するぞ。」

「…分かった。それじゃあ改めまして……よろしく頼みますよ、俺の主様」

「ふっ……あぁ、任せておけ。お前は存分に余、太陽神アヴィシアに仕えていればよい。そうすればお前の願いなど果てるまで叶え続けさせてやる」


少女の突き出した掌に光が収束し、それは一閃の槍となって空を穿つ。直後に二人の体は白い光りに包まれる。もはや空に一抹の雲などありはしなかった。



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