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この学園は最強しかいない!  作者: 魔王さん
あなたのやりたいことはなんで章
36/38

これが今の私の全て!存分に壊れなさい!

 

 ※   ※   ※





 ねぇユキノ……

 ……今この瞬間……君は私といられて、楽しい?

 ……今この瞬間……君は私といられて、幸せ?

 私は…たとえ世界を敵に回そうと、すべてを失おうと…君を守ることができるなら…君を幸せにできるなら……私は何だってするよ…

 それが………あの人との……大切な約束だから……

 そうだよね?…くろ…



 

 ※




 雷鳴が(とどろ)き、私は一瞬離れた意識を掴む。

 天空を睨むと、その先にはアニメや漫画でしか見たことの無い伝説が降臨していた。

 全身の鱗は見ただけでも全てを通さぬほど絶対的な硬さを思わせ、背中からは天を覆い尽くすと錯覚させるほど大きい翼が生えている。まるで空のような蒼さを纏ったそのドラゴンは、圧倒的な威圧と存在感が黄金の瞳から溢れ出していた。


 『我に本来の姿を解放させたか……面白い…非常に面白いのじゃ!』


 そういってウィルたんは(いや、今はドラゴンか)…ドラゴンは大きく咆哮を上げた。


 「…あはは~面白いって…私の一撃、完璧に決まったはずなんだけど~…」


 そういいながら私は、顔には不敵を、内心ではそれに焦りを交えながら笑う。しゃーない…一度でぶっ壊せないなら……なんでもぶち当たるだけよっ!

 そう思って再度拳を構えようとしたが、ドラゴンの黄金の双眸(そうぼう)がギラリと輝いた気がして、本能的にユキノを後ろにぶん投げながら私も後ろに飛びずさる。

 刹那、今さっきまでいた足場が木っ端微塵に吹き飛んだ。それが空からの光線のせいだとすぐに気づく。

 

 「くそっ相手が飛んでんじゃまともに攻撃できねぇぞ!」

 「ならば(わたくし)が落として見せます!切り裂け!『無刀術・カマイタチ』!」


 愛佳は袖を水平に二度振り、三日月状の巨大な衝撃派をドラゴン目掛けて十発くらい撃ち放った。


 『ふっ…全てを切り裂く一撃も、当たらなければ意味がないのじゃ!』


 ドラゴンはその巨躯に似合わない圧倒的なスピードでそれを全て回避し、連続で光線を放ってきた。

 なんとか私は愛佳を背中に背負いながら回避する。ソフィは瞬間移動で、ユキノは剣に引っ張られるようにして二人とも何とか回避しているみたいだけど、それも時間も問題に見える。

 次の一手はどうすればいい…どうすれば勝てる…何か最善の………ん?……どうすれば?最善の…一手?

 崩れ散る大地を蹴り飛ばして移動しながら、私はふと、自問していた私に疑問を持つ。なんで私は考えているのかしら?……このままじゃ勝てないから?勝つ方法を考えているのかしら?

 …ふふっ、だったら考える必要なんて…私にないじゃない!…だって私は、考えるまでもなく最強の破壊者なんだからっ!


 ふと、何気ない日常でユキノと話したことが脳裏によぎる。


 ―――『ユキノに問題です!バトルもの主人公が強くなるには、どうしたらいいでしょーかっ!』

 ―――『唐突だなおい…まぁいいけど……そうだな…新しい武器を手に入れるか…毎日修行を欠かさないこととか?』

 ―――『それもあるけど…私が一番かっこいいと思っている強くなる方法よ!』

 ―――『んなもん知るかよ……降参だ。』

 ―――『じゃあ正解を発表します!それはね…[覚醒]よ!』

 ―――『あぁ…なるほど、[覚醒]か…お前らしいな。本当にお前らしいと思うことは[覚醒]をお前なら都合よく出来そうだからなんだけど。 』

 


 ふっ…自分ながら思うけど…この答え……超カッケェじゃないっ!

 やってやるわよユキノ!よく見てなさい!ご都合全快の………[覚醒]っていうやつをねっ!

 私はあらん限りの力で世界に叫んだ。


 「皆!ドラゴンを落としなさい!そっから先は……私がぶっ壊す!」

 「はいっ!この『切断者』、神崎愛佳(かんざき・まなか)はマイましろの為なら何でもしますっ!」


 愛佳は崩れていない地上に着地しやる気十分。ひとつ懸念するべきことは私は愛佳のじゃないことだけ。


 「……りょーかい…絶対…落とす!…」

 

 ソフィはすぐさま愛佳の近くに向かい、愛佳を連れて瞬間移動しながら同時に魔法を詠唱し始めた。


 「…………」


 そしてユキノは………あ、あれ?…ユキノからの返事がないんだけど…聞こえてなかったのかな?


 「なぁ、暁。」


 …でもそんなことはなかった。ユキノはこちらを見ながら似合わない不敵な笑みを浮かべていた。

 

 「あのドラゴンを落とすのはいいが―」


 そう、ユキノはいつだって私のためなら何でもしてくれる。だから…


 「別に、アレを倒してしまってもかまわんのだろう?」


 私も君の為に…何でもするわ!

 

 「ユキノ、それ超カッコいいけど…完全に死亡フラグよ。」

 「ははっ、俺は死なないからただ超カッコいいだけだろ?」

 「ふふっそうね…アーチャーの二億分の一くらいカッコいいわよ?」

 「それ褒められてんの!?」


 えぇ、本当に君は…カッコいいね。馬鹿で不死身の、私のユキノ。

 

 『我にお主らの最強、存分に見せてみよ!』


 蒼きドラゴンは世界が震える咆哮を轟かせ、急降下しながらこちらに突っ込んでくる。

 ユキノはこちらと一瞬目を合わせると、剣をしっかり握って笑いかけてきた。


 「暁、お前の命令!必ず果たす!」

 

 そういったユキノはなんと、自らの胸元に剣を躊躇いなく突き立てた。制服はじわじわと鮮血に染まっていくが、同時に剣の刀身自体も呼応するように真っ赤に染まっていった。

 ユキノは何度も大きく吐血しながらドラゴンに負けないくらいに強く、強く叫んだ。


 「(はるか)あぁぁぁぁぁぁ!あのドラゴンを落とすぞぉおおおおお!!」

 「分かったー!行くよ!お兄ちゃん!」

 

 真紅に染まった全身で剣を構え、ユキノはドラゴンに向かって飛翔した。


 「……ユキノ!…これ!『ザ・ルートオブベクトル』!…渡って!…」


 空中に巨大な黒い矢印が浮かび上がり、ユキノがそこに乗った瞬間、勢いが加速しながら別の矢印に導かれ、更に加速しながらドラゴン目掛けて向かっていった。


 「おぉおおおおおおおおおおおおっ!落ちろぉおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 ユキノがドラゴンの大顎(おおあぎと)に剣を突き立てると、そこから真っ赤な閃光が爆ぜ、そのまま顎を斬り飛ばした。


 『ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 


 顔から噴水のように飛び散る血潮を振りまきながら、ドラゴンは空で痛みの咆哮を轟かせる。その直後にユキノがバランスを崩して落ちたが、間髪をいれずに愛佳が叫ぶ。

 

 「今ですソフィ!」

 「……舞え!『ウィンド・フェザー』……」


 その上空に愛佳は勢いよく風で打ち上げられ、独特の構えを取った。


 「その様子じゃ…避けられませんよね!『無刀術・カマイタチ』!落ちなさい!!」

 


 愛佳が放った衝撃波は強靭なドラゴンの翼だったのにも関わらず、いとも瞬時に切り飛ばした。

 それと同時に、ドラゴンは断末魔にも似た咆哮をあげながら地上へと落下を開始する。

 

 「行けぇ!暁ぃいいいいいいいいいいいいっ!」


 どこからかユキノの叫びが耳に届く。えぇ!分かってるわよ!

 地上までは残り100m辺りってとこかな?

 ユキノ、悠、ソフィ、愛佳…ありがとう、ここまで繋いでくれて。

 さぁ!破壊の時間よ!フィナーレを飾るとしますか!

 

 全ての力を拳へと流動する。覚醒なんてしたことないけど…私ならできる!絶対に!……そうよね?くろ。

 そこまで問いかけると、ふと昔の記憶がフラッシュバックし、意識が深く沈んでいった。


 




 ――――『ましろ、全てのことに全力でいけよ。お前ならそれだけで大抵のことは乗り越えられる。』

 ――――『大抵?……それじゃあ超えられないときはどうするのよ?』

 ――――『決まってんだろ?……カッコいいと思えることをすればいい。そうすれば立ちはだかる壁は簡単に砕ける。』

 ――――『……ふふっ…だったら……最初から壁は越えずに…全部ぶっ壊すことにする!』

 ――――『ははっ!お前ならそういうと思ったぜ、ましろ。』 

 ――――『ふにゃ!?あ、頭を撫でないで!』

 ――――『じゃあ止めるか?』

 ――――『…………………あと少しだけなら…このままでも許す…』

 ――――『へいへい、では、もう少しこうさせていただきますよ。可愛い可愛いお姫様。』






 『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 私は鼓膜が破れそうなほどの怒号で意識が記憶の底から浮上した。……大丈夫、私なら必ずぶち壊せる!

 全身に圧倒的な熱と高揚感が生じ、鼓動が頭に直接響いてくる。力を籠める右の拳には光の粒子が輝きを増しながら奔流し、やがて高速で渦巻いていく。

 ふふっ…やればできるじゃない!さすが私!

 「たとえ何が来ようと、私は止まりはしない!それが私、≪破壊者≫暁ましろ!

 幾千の壁が立ちはだかろうと、私はそれをぶっ壊す!」


 あらん限りの力で大地をけり、落下してくるドラゴンの胸元に飛び込む。

 常識すら壊す!私の全てをこの一撃に!貫け!【一鬼討千】!

 

 「はぁあああああああああああああっ!!!」

 「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 拳からの光の奔流は、空を覆うほどのドラゴンの巨体を三分の一ほど綺麗に吹き飛ばし、私自身もその体を貫いた。

 ドラゴンは濁流のように血潮を溢れ飛ばしながら地面に落下。もう咆哮がこの地に轟くことは無いだろう。


「……あー…また紅くなっちゃったわ…」


 直後に雨が鮮血の色に染まり、私の体も例外なく紅く塗り上げられていた。べた付く髪を弄りながら思わず愚痴がこぼれる。

 でもこれで……また強くなれたかな…

 ドラゴンの(むくろ)から数メートル離れた場所に難なく着地すると、そのすぐそばにユキノが岩に背中を預けて腰を下ろしていた。


 「一応聞くが…勝ったよな?」

 「モチのロンよ!私が壊せないものなんて無いわ!」

 「…にしても…このタイミングで必殺技覚醒勝利とか、本当にお前は都合よすぎなんだよ。」

 「馬鹿ね、このタイミング以外の何処で覚醒しろっていうのよ。」

 

 私たちの間に小さい笑いが飛び合う。

 …どうやらもう傷は治ったらしいわね…さすが不死身といったとこね。

 すっと立ち上がりこちらに歩み寄ってきたユキノは、何を思ったか、いきなり唇がくっつきそうな位に顔を近づけてきた。


 「ちょ、ちょっと!?」


 慌てて離れようとしたが、直後に後頭部をユキノの手に押さえられた。もはや逃げる術など……いや、確かに無理やり話すことはできるでしょうけど…体と心が熱くて全く動けない…

 いやこんな場所でキ、キスとか駄目でしょ!?た、確かにキスしたことあるけどこういうのは私からしなきゃ落ち着かないというか…そもそもユキノに主導権を握られるなんて私にとってはあり得ないわけで、いや別に嫌とかそういうのじゃなくて――――

 そんな心を知ってか知らずかユキノはやさしく微笑んだ。

 

 「………暁、目を閉じてくれ…」

 「!?な、なんでよ…」

 「………いいから…」

 

 絶対に閉じるもんかっ!!………という堅い決心はユキノの顔を見たらあっさりと揺らぎ、気づくと私は目蓋を下ろして闇の世界に体を滑らせていた。

 そして訪れたのは……


 ――――ペチンッ!


 という額への軽い衝撃だった。…………え?何?

 疑問の答えは目を開けるとすぐに分かった。ユキノが悪戯が成功した子供みたいな顔をしていたから。


 「くくくくくっ…わりぃ…ちょっといつもの仕返しをしたくなった…くくっ…」

 「…こ、この!騙したわね!!」

 「逆に何を期待してんだよ?」

 「それはその……なんでも無いわよ!バーカ!バーカ!弾けて混ざれ!」

 

 うぅ…うぅうううっ!!全部分かってるくせに…私の心を…私が期待してたことを全部分かってるくせにぃいいいいっ!

 ユキノのくせに生意気だっ!

 

 「……ユキノとましろ……また…イチャイチャ…」

 「してないわよ!」

 「ましろ、(わたくし)というものがありながら!」

 「だーかーらぁー!違うって言ってんでしょ!」

 「じゃあ(はるか)もお兄ちゃんとイチャイチャするのー!」

 「!待て(はるか)!せめて剣から戻っ…ぎゃああああああああっ!?痛い痛い痛い痛い!?刺さってる!腰に深く刺さってるからぁあああああああああああ!!?」

 

 ソフィと愛佳も合流し、(はるか)も元気100%のカオス状態の中、一つの疑問が私達を闘いへと意識を戻した。


 「なぁ……俺たち…いつ学園に戻るんだ?」

 「…………あれ?そういえば…いつもならとっくに戻ってるはずよね?」

 「だろ?そもそもこのゲームの勝利表示ってお前らは見たか?」

 「…………いや、見てないわ。ソフィと愛佳は見た?」

 

 確認をとってみたけど、二人とも首を横に振った。それぞれの困惑が、降り注ぐ雨を全員の耳にいっそう強く響かせる。

 やがて愛佳は指を二本ピッと立てて仮説を言い始めた。

 

 「考えられる理由は二つあります。

 一つは、決闘の不具合。何らかの理由でこの異世界に閉じ込められた可能性。もう一つが…」

 

 その言葉は身を裂くほどの激しい雷鳴によって断ち切られ…いや、紡がれるはずだった言葉は先に現実に顕現した。


 「問おう、最強の申し子たちよ」


 声のほうへ素早く振り向くと、骸だったはずのドラゴンは激しい黄金の渦に呑み込まれていく…嘘でしょ、心臓どころか胴体ほぼ吹き飛ばしたんですけど…

 その渦からは、先ほどのドラゴンの低い声とは違う、人間の姿のウィルの声が続く。


 「この世に生き残ったものの共通点は…何じゃ?」


 …なるほど…さすが【四天王】といったとこかしら。



 「もっとも強い武器を持つものか?…(いな)

  もっとも知恵を持つものか?…否!

  もっとも他者を蹴落とす事ができるものか?…断じて否!」

 

 それに同調するように逆巻く渦に巨大な雷が振り落とされた。渦は一瞬で霧散し、その中から現れたものが……っ!!?……う、嘘でしょ…

 私が衝撃に穿たれても、相手の…いや、【四天王】ウィルミラ=ゲオルダカーハの言葉は続く。

 

 「果敢に変化に挑戦してゆき、変化を受け入れてなお!それに適応できる者だ!」


 ……くぅ……すっごいカッコいい台詞言ってくれるじゃない……確かに普通にラノベやアニメとかだったら、絶望とか衝撃で包まれているシーンかもしれないわね。でも…


 「その人間のウィルたんの姿にドラゴン装備みたいな格好は反則でしょ~!!!!何その尻尾!なんなのその所々露出してる白い肌!そして何その背中に生えてる翼!?超可愛いんですけどぉおおおおおおおおおっ!?こ、これがドラゴンの擬人化だっていうの!?可愛い!可愛すぎるよぉおおっ!!」

 

 そう!目の前に降臨したロリ【四天王】たんは、やっぱりさいかわ(最強に可愛い)だったのだ!

 ……だけど、そう再認識したのと同時に…スパァーーンッという効果音が似合うチョップが私の頭を直撃した。

 振り向くとユキノは苦笑しながら見下ろしてくる。


 「お前は…本当に、暁だなー…」

 「ふふっ…照れるわね…」 

 「いや褒めてねぇよ!?呆れてるんだよ!」

 「ふふっ…でも…楽しいでしょ?」

 「……おいおい…こんな状況でお前がいつもどおり俺の隣で笑ってんだぜ?………楽しいに決まってんだろーが!」


 ふふっ…その声を聞ければ私は……どこまでも君の理想の暁ましろであり続けていられるわ…


 「さぁ…第二ラウンドよ!次は、絶対ぶっ壊す!」


 


 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 




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