いよいよ始まるわよ!
「……ったく……遅いな…」
俺は入学式に校門前で待ち合わせをしていた。言うまでも無く、暁である。
俺達新入生は入学が決まった日から寮が与えられるので、暁の寮に向かったら
「ユキノはドラ○エのダークドレアム戦と入学式どっちが大事なのよ!?」
…とまぁ……こんな感じで追い返された。俺は言うまでも無く後者が大事だと思うぞ。
暁はあと10ターンで倒すと息巻いていたので、そろそろだと思うんだが……
「避けてぇええええ!ユキノォォオオオ!」
唐突に遠くから声が聞こえてきた。ふとそちらに顔を向けると
「って…は…はぁああああ!??」
なんと!こちらに絶望するほどの勢いで木が飛んで来た!!高速で駆け抜けるその木の幹に何かがまたがって…
「って…お前…あ、暁!?!おまっ!何してんだぁぁあああああ!!」
その木は俺の近くの校門にぶち当たると、盛大な爆発を周囲に撒き散らした。もはや学校に対するテロ行為レベルである。
当然、その近くにいた俺も巻き込まれるのは必然なわけで……こう状況を脳で理解している間にも爆風に包まれ飛ばされていた。
くそ……別に死なないだけで痛みは人並みに感じるんだぞ…人並みがどれくらいか知らないけど…。……今回ばかりは不死身でよかったわ
「…っー……あー全身がいてーよ…ちくしょう…」
爆風が収まり、俺は全身の痛みを堪えながら立ち上がると、隣から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「いやーまいったまいった…木に乗る前に止められないの気がつけばよかったよー!…大丈夫?ユキノ。」
「死ぬかと思ったわ!!学園都市でもあんな登校方法の学校ねぇから!!」
「んーそうかな?一方通行さんはベクトル変換であんな感じで登校しそうじゃない?」
「あいつそもそも学校行かねぇよ!毎日妹の為に頑張ってるわ!」
暁は「それもそっか」と頷いて納得したようだ。そして何事も無かったように校舎へ歩き…
「ちょっと待てぇぇええいい!!」
「?何か問題あった?」
「問題しかねぇよ!?入学式早々に校門を粉々にぶち壊す事を問題以外でどう説明すんだ!」
「んーー………………そうだ!」
暁は目をキラキラさせながら手をポンッと打つ。そして見ててと言わんばかりにこちらを一目すると、学校を取り巻く煌びやかな壁に近づいていった。
……あれ?嫌な予感しかしないぞ……
「そもそもさー…学校に壁なんかあるのが事の発端だよね!壁があるから門が出来てしまうのよ!」
いえ、全部アンタのせいですけど!?ヤバイ!これからやることが見えてきたぞ!!だって拳を構えています!
「ちょっと待て!それはお前の一存で壊していいものじゃない!」
「あれ?何で壊すって分かったの?」
「その心底楽しそうな笑みと振り上げた拳で分かるわ!」
「…一存といえば…私は生徒会の○存では桜野くりむ派ね!」
「そこだけは激しく同意しておこう!!」
駄目だ!全然話にならない!……でもくりむ生徒会長以外考えられな…
ドォーーーン!!!
……しまった!これがアイツの策略か!?まるで爆弾が落とされたような大爆音が響き渡る。……不死実験で爆弾を落とさせたことがある俺が言うのだから間違いない。
儚くも一瞬にして、誇らしげに立っていた壁の半分が消し飛んでいた。……そろそろテロリスト指定来るな(ほぼ確信)
「…………」
「いやぁ!!すっきりした!!」
「………」
「あれ?どしたのユキノ?そんなに速いペースで校舎に向かって。」
「お前の関係者として見られたくないんだよ!!」
だが歩く足が首根っこを掴まれたことによって中断された。どんだけコイツ力あんだよ!一歩も前進できねぇぞ!
「問題ナッシング!だって校則に壁壊しちゃいけないなんて書いてないよ?」
「当たり前なことは書いてねぇんだよ!!」
「じゃあ人の幻想はルール無しでぶち壊していいの?」
「アレはルールをも打ち消せるからいいんだ!」
そこまで言うと暁は何かを達観したような目で空を見る。
「ねぇユキノ…常識に囚われているようじゃ……世界を広く見ることは出来ないよ?……」
「何でちょっとカッコよく言ってんだ!?」
駄目だ……俺には手におえない…
そう頭を抱えていると、校舎の屋上から誰かが凄い勢いで跳んできた。比喩ではなくジャンプでの跳躍だ。
「………この壁は君達が壊したのかい?」
やばいやばいヤバイヤバイですよ!このお兄さんヤバイよ!絶対関係者だよ!なんかスーツっぽいのビシッと決めてるし。背が高いし!校舎からどんだけあると思ってんだ!最初はこの人が点にしか見えなかった距離だぞ!
そんなことを気にも留めない暁は、元気一杯に敬礼しながら応えた。
「はい!壁が私の登校を拒んだので破壊しました!よってこれはやむを得ない処置です!」
「どんだけ自分正当化してんだよ!!そもそもお前を拒んだの壁じゃなくて門だから!」
「私は壁は壊すものだと思っています!そうしなければ人類は巨人に立ち向かいはしないでしょう!!」
「その場合お前が人類の敵だろーが!!」
やばいです!!さっきからお兄さんの表情が笑顔から動きません!関係ないが笑顔って恐い顔トップ3に入ると思います。
「……ふふふ…」
え?今笑った?俺死ぬんですか?いや死なないけど!死ぬより恐い拷問ですか?硬化能力使って結晶化していいですか?
そして再び青年の口は開かれた。
「いやー!!今年は君達がこの壁を壊したかぁ!!実に素晴らしいね!しかも今回は校門もまとめて!いやー実にいいね!」
「えへへ…恐縮です!」
あれ?何で褒められてんの?学校の壁って壊していいんだっけ?……まぁ学校は星の数ほど存在するんだ、1つくらい壁と校門を壊して褒められる学校もあるあ…ねーよ!
「………あの……暁は何故褒められているのでしょうか?」
俺はメダパニをかけられている頭を抑えきれずにおずおずと質問した。するとお兄さんは優しそうな笑みでこちらに向き直った。
「いやー、入学式当日にこの壁を壊した人は過去に二人だけなんですよ。いえ今年で三周年なんで毎年なんですがねーこの壁を壊す人はなんと!」
「「なんと?」」
「全員が問題児です!!」
駄目じゃねーか!!
「おおー!!カッコイイわね!」
「…………」
もう帰っていいですか?その意思が伝わったかどうかは知らないがお兄さんはチラリと校舎をみた。
「……では、これからの活躍を楽しみにしていますよ。……そろそろ集合の時間です。体育館前に集合してくださいね。」
「……いえ、あの……この壁とかどうすれば……」
俺がオドオドしながら、聞くと、お兄さんは「問題ありません。」と笑顔で壊れた壁に歩き始めた。
「ああ、紹介が遅れましたね…私はこの天翔学園、物理教師の……」
お兄さんがそこまで言うと一旦言葉を切り、足のつま先でコンッと破片を蹴ると一瞬にして、破壊された壁が元に戻った。壁は何事も無かったようなドヤ顔を浮かべている気さえした。
「…菊原創輔です。今後もよろしくお願いしますね。」
「はい!!よろしくお願いします!」
「………よ、よろしくおねがいします…」
「よかったね、ユキノ!ここが最強の学園で。……じゃあ行こっか!」
「………」
もう、何でもありだな…