忘れない奇跡の軌跡
このサイドストーリーは完全にルシフェル編です。
暁ましろや渚ユキノの物語だけを楽しみたい人、どうかしばらくお付き合い頂けるとありがたいです!
人生は楽しみよりも苦しみの方が多いって?……はっ!…んなもん当然だ。苦しみの先を超えられて初めて楽しみを知れるからな。
だが……それはあくまで苦しみを楽しみに変換できなかった奴の言い訳にしか俺は聞こえねぇ……かつて昔の俺がそうだったからなぁ……
生徒手帳を翳すまでもなく機械的な自動ドアが開く。
『世界観察室』。その名のとおり、全ての世界、つまり異世界を含む天界や魔界、地獄や天国、その他もろもろ全ての世界情勢がここで観察することが出来るってことらしい。俺も詳しくは分からんし、知る必要もない。ただ…楽しめればそれでいい。
この部屋の中心部にある天井まで伸びる巨大な筒状の付近に、見慣れた女性が真顔で腕を組んで待ち構えていた。
厳しそうな瞳は眼鏡をかけているから余計に鋭く光って見える。
「12秒の遅刻だ。堕天使ルシフェル。」
「…全く…相変わらず厳しいなぁおい…少しは気楽にいかねぇとお肌に悪…おいおい冗談だっつーのぉ…」
目つきが面白いくらいにきつくなったので、肩をすぼめながらとりあえずこの話題は保留にしておく。
彼女はこの学園の大学院クラス所属で、最強の《観察者》の広見燐。今はこの『世界観察室』の長を務めているらしい。
「だいたい、貴様こちらも協力しているのだから少しはこちらにも協力したら…」
「はいはいはいはい…めんどい話は抜きにしようぜぇ?いいからとっとと…面白い奴を見せてくれよ!!」
この部屋は世界を観察する為に創られた施設だ。つまり…その世界にもともと必要でないものは排除してよいと言うことだ。
そして排除してよいものとは、その世界を壊す存在、つまり……
「さぁて…今回はどんな悪者が、世界を壊そうとしているのかねぇ!!」
「貴様の目的は強い奴と闘いたい…我々の目的は観察対象の世界を外部の干渉から護ってもらいたい…利害は一致しているはずなのに、こうも貴様に相談する気が失せるな。」
「はっはぁっ!!安心しろよぉ!俺は正義と快楽を愛する堕天使だぜぇ!!遊んでるついで世界を滅ぼしたりしねぇよ!!」
「貴様から愛と言う言葉を聞くと嘘にしか聞こえないな、ルシフェル。」
広見は冗談交じりにルシフェルの顔を覗いてきたように見えた。…くそ…痛いとこついてくるじゃねぇか…
「………ルシフェル?どうした?」
「…全く……らしくねぇな…」
「何がだ?」
「いや…何でもねぇ……さて!そいつのやってること、居場所全てを聞かせてくれや。」
軽薄な笑みで返しながらどうにか繕うが、未だにあの時の記憶が忘れない。
いや、忘れてはいけない。決して…忘れたくない。
約束はもう…破りたくねぇんだよ…
広見は何かを察したのかは知らないが、そのまま無言で空中に浮かぶスクリーンに指を走らせる。
表示されたのは、破滅への道を加速して進んでいる世界と、焦点が定まっていないような狂った瞳の少女が映っていた。
「世界№47390で、突如出現した生命体が破壊と殺戮を力の限り尽くしている。その世界の軍隊は9割壊滅。生命の6割がそいつによって死滅。 計算によると、残り三日でこの世界の全生命体は完全に駆逐されると出ている。」
「ほぉ…また随分と凄いやつが現れたもんだぁ……発生原因は?」
「現在は不明。我々は世界の観察者として事態を重く判断、君にこの生命体から、この世界を護ってもらいたい。」
俺はげんなりするように肩を落とす。
「…全く…前回もおんなじような奴だったよなぁ?…確か…」
「世界№32531 で発生した大量殺戮生命体の駆除の話か?」
「あぁそれそれ…あれ数が多いだけで一体一体の強さがゴミだったぞ?………今回は期待できんだろーなぁ?」
「強さか……そうだな…少なくとも…貴様が興味を持つくらいだな。」
へぇ…なかなか面白い言い方するじゃねぇか。
「…全く!俺はアンタのこと少し面白い奴だと思っていたが……評価を結構面白いに改めるよぉ!!」
そもそも、俺を貴様呼ばわりする時点で割と気に入っていたのだが。
「では行ってきてくれるのか?言っとくが…」
「殺しは最終手段、できれば穏便に解決しろ…だろぉ?わかってんよぉ!………こういった血なまぐさい仕事は…あいつ等には向かねぇんだろーなぁ…」
「…あいつらとは?」
「あぁこっちの話だ……」
俺の頭の中には《破壊者》暁ましろの顔がふっと浮かび上がる。
あの少女は、きっとどんなことが起こっても、最後には笑える世界を作れるのだろう。俺の大切な人が、そうだったように……
「んじゃぁ……遊びに行きますかぁ!」
「標的の詳しい情報は欲しいか?」
「いいや、直接遊んだ方が面白いだろうからいいわぁ」
「だと思ったよ。」
心から楽しめますように、と胸の中で祈ってから筒状の部屋に入る。
空間移動で一瞬で行きたいのはやまやまだが、あれはその世界の空間だけしか移動が出来ないので、空間軸が異なる世界、いわゆる異世界に行く場合は、この部屋からしか転移は出来ない。
外部から広見の声がくぐもりながらも聞こえる。
「……お前には必要ないと思うが……この学園の外では…死んだら帰ってこれないからな…気をつけろよ…」
天井部屋全体に光の線が無数に飛び交い始め、体を取り巻き始める。
やがて光の強さは量と共にどんどん増していき、転移まで数秒となった。
「全く…俺を誰だと思ってんだぁ?…心配すんなぁ、必ず帰ってく…」
そこまで言い終わらないうちに、光は視界ごと全てを覆い隠した。
※ ※ ※
光の奔流がどんどん加速していく中で、俺は広見のある言葉がフラッシュバックする。
『貴様から愛と言う言葉を聞くと嘘にしか聞こえないな、ルシフェル。』
「……全く…愛ねぇ……」
少しだけ、お前のこと思い出しちまったよ……
「…ひなた…」
俺は大切な人の名前を呼ぶと、記憶は鮮明に思考を染め上げていった。
それは、まだ堕天使が天使だった時に出会った物語




