じゃあ終わらせるわよ?……全力で決めてみせる!
正直言うと、ユキノは戦闘面だけを見るなら私より全然強くないと思う。
いくら強い剣を手に入れたところで当の本人は隙だらけ。剣を振る動作すら初心者で、あの剣に無理やり体を動かされているだけにしか見えない。
でも、……私はそんな駄目駄目なユキノが……大好き。
どんなに駄目でも弱くても(ロリコンでも)………絶対に私の傍にいてくれようと諦めないで頑張ってくれるユキノが……とってもとっても大好き。
……いつからユキノのことが好きだったと聞かれれば、それは最近なんだけど…
でも、時間なんて関係ないくらいに愛おしい。ずっと傍にいたい。ずっと…ユキノに恋をしていたい。
そして!ユキノとまだ体験したことのない新しい物語を一緒に紡いでいきたい!!!それは一番の希望!願い!夢なの!
その夢を叶える為に、私は君には…ユキノには負けられないの!
私はまだ、君を新しい物語へと引きずり回す役でいたいもんっ!
クレーターの底で、思いっきり垂直にジャンプして拳を真下に構えて力をこめる。
「地面ごと!ぶっ壊す!!」
確か決闘の勝利条件に戦闘不能も入っていたはず。ユキノは死なないから除外は出来ないけど、戦闘ができないくらいにダメージを与えることは出来る!いや!必ずやってやるわ!
空中を蹴り、高速で地面に降下しながらユキノの行動を予想してみる。
ユキノは私のことをいつも見てくれていたと思うから、この攻撃は読み切っているのかもしれない。あるいはもう察知して逃げ始めているかもしれない。
でも…
ふふっ…私が獲物を逃がす?…有り得ないわ!!絶対に有り得ない!
ようは…逃げても無意味な攻撃をすればいいんでしょ!?
「せりぁあああああああああああああああああああああああっ!!!」
自分でも分かるくらいに不敵な笑みが顔に浮かび上がる。でもこれは仕方ないと思うわ!
拳が地面に触れた瞬間、地面が一瞬にして粉塵より細かく砕け、比喩無く消滅し足元には深淵の闇の穴が大口を開いている。
遅れて耳をつんざく程の大音響を撒き散らす衝撃音が周囲の直接は砕いていない大地へと連鎖し、まるで世界と呼ばれる卵から、破滅という雛が生まれる瞬間のようにヒビが高速で流れ始める。
そして全ての大地にヒビが入りきった瞬間、まるでダムが決壊するように、一気砕け狂った。
天地鳴動すら生ぬるいと錯覚させるほどの圧倒的な世界の震えは、私には楽しくてしょうがないメロディにも感じられた。
まったく、世界の破壊は最高だぜ!!
……どっかのアニメの台詞に感情をぶち込んでみたけど、どう考えても悪役の言うことみたいになっちゃったわ。
一瞬前までは地面だった破片を足場にしながら、ひたすら太陽の光が届く上を目指して昇って行く。下は自分が壊してしまったので上に行くしか選択肢がないのだ。
でも、これでかなりのダメージは追わせられたはず!
暫く瓦礫の嵐の合間を跳びまくっていると、世界が砕ける連鎖音が徐々に弱まり始め、静寂の静けさが包み込んでいった。
最後の瓦礫を思いっきり蹴り飛ばし、もとは地面だった場所に綺麗に着地する。
「いや~我ながら…すごいわね……」
そこは地面という地面が砕け散り、衝撃の凄まじさを生々しく物語っている。
戦争後でもここまで退廃などしないだろうと思わせるほど壊れ死んだ世界が、目の前に延々と広がっていた。
でも。私は知ってる。
例え世界が死んでも、ユキノは絶対に死なない。
それを証明するように私の勝利表示も、ユキノの敗北表示も出てきていない。
私は大きく息を吸い、天空を穿つ勢いで轟き叫ぶ。
「ユキノぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!私はここにいるよぉおおおおおおおおおおおおっ!!」
空間と自分の耳が同時に大きく震える。
そして、返事が来ることを確信して待つ。
「…………お前の声はよく耳に響くんだよ……暁…」
背後から呆れたようなため息と声が漏れてくる。思わずはっとして振り向くと、満身創痍そうな体を引きずりながら彼は立っていた。
「……ふふっ…やっぱり死んでなかったのね…ユキノ…」
「アホ言え…俺は死なねぇって言ってんだろ?」
ユキノの体は確実に時間を巻き戻すように致命的な傷を癒し、再生していく。
だがその過程を見ていると、ふとした疑問が私を襲った。
「……あれ?ユキノ、いつもより回復遅くない?服はもう修繕されてるじゃないの。」
ユキノの服はソフィの魔法の力でだいたいユキノの回復スピードと同じくらいの自動修繕能力があったはずだけど。
「あぁ…何でも悠が俺の【存在】を喰ってるときは再生が遅くなるらしいな…」
「お兄ちゃん、ごめんねー…」
剣の姿のまま悠が悲しそうな声を上げる。ユキノは優しい顔をしながらそっと刀身を撫でる。
「そんなことない…俺こそごめんな。全然お前のこと使えこなせなくて…」
……関係ないけど…ユキノって…悠には少し甘すぎるんじゃないかしらっ!!
………べ、別に嫉妬とかそういうのじゃないもんっ!
「ま、……それを待つつもりはないけどねぇえぇっ!!」
刹那にしてユキノの懐に突っ込み、針金のように体を大きくしならせながら拳を振りかぶる。
が、またもや剣が雷鳴より速く空を駆け、甲高い音と共に行く手を阻む。再び衝撃が世界を震わせたが、もう吹き飛ぶものすら死んだ瓦礫のみだった。
「っつうっ!伊達に面倒な場所に眠ってただけあるじゃない!?」
「お兄ちゃんには……手出しさせないのー!!」
まるで氷のように透明だった刀身が太陽のように眩く輝きを纏い、光の奔流が尾を引く剣尖が刹那にして襲い掛かってきた。
くぅ!避けきれないっ!!
絶望的な速度で襲い掛かってくる剣戟を紙一重で直感だけでかわすが、それでも少しずつ、確実に血潮が飛んでいく。それは脳を焦りの海へと沈めかけていった。
瞬時に次の行動を模索し、どれもがうまくいかない気がしてくる。
だが、そこまで思考が辿り着いた瞬間、ふとそんなことをしていた自分を笑い飛ばす。
ならば!!!考えるな!!ただ、全身全霊全力で全てを出し切れ!それが私!《破壊者》、暁ましろよっ!!!!
「ぅうお、ハァあああああああああああああああああああああっ!!」
思いっきり地面を踏みしめて拳を振りかぶる。剣はそれを嘲笑うようにすかさず迎撃に入r…
「!うぉっ!?」
「え!?」
ユキノの足場が突然軋みを上げながら大きく傾く。それに伴って剣も無理やり軌道が変更された。
当然こうなることは私は知っていた。
何せここはもともと私がクレーターを作った場所だ。いくら瓦礫で塞がっているとはいえ、私の力で踏み込めば崩れるに決まっている!
私は弾丸の如く距離を詰め、ユキノの懐で拳を大きく振りかぶる。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!ぶっ壊れろぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
繰り出した拳は吸い込まれるように腹部に直撃した。ユキノは残像すら追いつかずに吹き飛び、音が遅れて周囲に衝撃が運び渡った。
「………くぅ…さすがに……疲れたわね…」
体が急に重く感じ、思わず膝を突いて苦笑する。よくよく体を見てみると、さっきの猛攻に全身が抉られ、血が服を赤く染め上げ、満身創痍のボロボロになっていた。この傷ではいずれ死ぬ…いや除外されるのも時間の問題だろう。そうなってしまえば、敗北は確定してしまう。
こうなったら…あと一撃で…全てを決める!!!!!
「ユキノーぉおおおおおおおおおおお!!!」
意識が飛びそうなレベルで大切な人の名を精一杯叫ぶ。声が空を切り、空気をビリビリと振動するのを感じられた。
「……………くそ…今まで殴られたので一番……いてぇよ…いてぇぞ!暁ぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」
瓦礫の中から這い出てきたユキノはぶつぶつと言いながら苦笑すると、私に負けないくらいの怒声で叫んできた。
「ユキノ!!次の一撃に私はありったけの自分を込める!これで決めてみせる!!」
「上等だっ!俺も次で全てを終わらせる!!お前には…負けたくねぇんでなぁ!!」
……ユキノなら…そう来てくれると思ったわ!
どんな状況でも、いつも私についてきてくれるユキノが…私は……大好きよっ!
ユキノは自分の胸に深々と自分の剣を突き立て、叫んだ。
「悠!暁を倒す力を俺にくれぇえ!!」
「うん!あのお姉ちゃんを倒せるくらいだねー!!じゃあお兄ちゃん!その分の【存在】沢山もらうよー!!」
それに呼応するように悠、もとい代償の剣が更に白く輝くオーラを纏い始める。
私も拳にありったけの力を篭め、普段ユキノを殴るときには抑えている力を解放する。
「暁ましろ、決着だ!」
「私も全身全霊で君をぶっ壊すわよ!渚ユキノ!!」
二人はコンマひとつずれることなく同時に地面を蹴った。
拳と剣が対象を同時に捉えると、ビッグバンを思わせるほどの大爆発が世界の全てを襲撃し、比喩なく吹き飛ばした。
そして……暫くしてこの全てを出し切った大切な人同士の闘いは幕を閉じた。
【渚ユキノ(なぎさ・ゆきの)戦闘不能になりました。敗北確定】
【暁ましろ(あかつき・ましろ)決闘から除外されました。敗北確定】
【この決闘は敗北確定時刻が同時刻な為、〔引き分け(ドローゲーム)〕とします。】
そんな表示から数秒後、追加で空間があった場所に文字が表示された。
【形成中の異世界が完全に崩壊 修復不能】




