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この学園は最強しかいない!  作者: 魔王さん
《破壊者》と《不死身》が激突したらどうなるので章
20/38

始めようぜ暁!……言っとくが…俺は負けないからな!


 いつも学園長室を訪れる時は空間を直接移動していくのだが、今回は正しい扉から入ってくれとの要望だった。面倒なので無視してもよかったが、それを先回りするように合法ピンクロリに空間移動を制限されたので、素直に従う以外の選択を潰された。

 極めつけ面倒なのが呼び出された理由である。曰く、「暇だから来て~!!」とのこと。もちろん別の理由があると信じてるから訪れるのだが、ここの学園長はどちらも可能性も捨てきれない。

 

 「入るぞぉ…」

 「はぁ~い!いいよぉ!」

 

 

 ルシフェルは中からの可愛らしい声を、げんなりとして聞きながら扉に手を掛ける。

 

 「せぇやぁああっ!!」

 「は?」


 合法ピンクロリ学園長、ラティアは自分の背丈と同じくらいの大きさの剣を、針金のように体をしならせながら、思いっきり振りかざしてきた。

 空を切り裂く勢いから、ルシフェルは瞬時にそれが本物の剣だと理解すると…


 「全く……帰っていいかぁ?……つか、来客にいきなり剣振りかざすなよ。」


 人差し指一本で制止させた。

 ラティアはチロッと悪戯っぽく舌を出して、剣を鞘に収める。


 「いや~この剣、結構強いんだよ?なんてったってこの剣はケルト神話のフラガ…」

 「そんなことを自慢するために呼んだのか?」

 「むむぅ…違うけどさぁ……」


 学園長は寂しそうに肩を落とし、剣をベットの下に仕舞う。そもそも神話の剣をどうして持っているのかとか、何故扱えるのかというツッコミはラティアだから、と言う理由で引っ込める。

 ラティアはなるべく奥にしまいたいのか、ごそごそと動くため、ミニスカートからチラチラッと薄ピンクの可愛らしい下着が目に映るが、ルシフェルは別にロリコンではないので、気にすることなく続ける。


 「というか…さっきまでアンタ…中庭で決闘の許可取ってたよなぁ?」

 「なんだ、そこまで見てたんだ。…確かにあの場所にボクはいるよ?…ただボクは、この学園内ならいつでもどこでも何人でも存在できるだけだよ。もちろん記憶や意識は共有してるから安心して。」

 

 さらっと当然のように、神にも等しいような能力を暴露するピンクロリチート学園長に、もはや苦笑しか出せない。


 「ま、あんたの言いたいことはだいたい分かるけどなぁ…どうせあの剣のことだろぉ?」

 「おぉ!やっぱり君は察しがい


 ゴンッ!!


 「い痛っ!?!?!…つぅ……うぅぅぅ…」


 鈍い音が響いたベットの下から、ラティアが後頭部を抑えながら這い出てくる。

 暫くしてラティアが涙目になりながら立ち上がると、ルシフェルは脱力して肩を落とす。


 「うぅ…ぶつけたよぉ…痛いよぉ…」

 「…………全く…認めたくねぇ……お前が俺より強いなんて…」

 「ふっ…少年よ、ほめても必殺技しか出ないよ!」

 「褒めてねぇ」

 「はうにゃっ!?」


 ルシフェルは、馬鹿な最強チート学園長の(ひたい)に容赦なくビシッ、とチョップを入れる。

 まさかの前方後方に連続ダメージを受けたラティアは再び涙目になりながら額を押さえる。


 「ぅぅ……ううう~~!!今の痛かったんだけど!」

 「少なくとも、人体なら塵すら残らない勢いでやったからなぁ。」

 「そりゃあ痛いよ!ちょっとルシフェル君最近反抗期?ボク怖いよぉ…」 

 「………痛いで終われるお前のほうが、断然怖いけどなぁ」


 そう、ルシフェルは本気の五%ほどの威力、つまり都市一つを吹き飛ばす程の力を解放したチョップなのだが、それが…痛いの一言で終わった。

 ありかわずの無茶苦茶なピンクロリスペックなので、仕方ないと割り切って話を戻す。


 「…んで…何が聞きたいんだよぉ?」

 「うん!じゃあ早速質問するね!」


 学園長は涙目を神速よりも早くキラキラとした目に切り替え、ルシフェルの顔を覗く。


 「ルシフェル君は、『代償の剣』がユキノ君のものになったのを見たよね?あ、ちなみに『代償の剣』の名前は(はるか)ちゃんにきまったらしいよ。」

 

 後半の情報はどうでもいいので無視したルシフェルは、無言で頷き、ソファに我が物顔でどっかりと座る。

 まるで自分の家のように振舞うルシフェルを、全く気にとめる気配の無いラティアは、自分も反対側のソファにぽふっと座る。


 「ルシフェル君…何故ボクが、彼に最強の《剣》を授けたか……分かる?」

 

 ルシフェルの眉が思わず反応したのは、ユキノ達の行動は自発的だったのにも関わらず、まるで自分がユキノを導いて剣を手に入れさせたような口ぶりだったからだ。

 ………いや、事実そうなのだろうか。真相を探る方法は、現在ルシフェルには存在しない。

 

 「…あの剣は【存在】を喰らって剣の所有者に強さを与えるんだろ?なら【存在】が消えることの無い不死身のあいつが手に入れるのが妥当だからじゃないのかぁ?」

 「うん!それもあるよ!」


 それも…ということは別の理由があるのだろうか?

 やがてルシフェルは降参するように片手を振る。


 「……駄目だ、さっぱし分かんねぇよぉ。」

 

 学園長は「ふふんっ!まだ分かんないかぁ!」と偉そうに無い胸を張る。

 

 「それはねー……物語が進んでからのお楽しみ~」

 「帰る………ちっ……さっさとこれ解けよ。結構不便だぞ」


 反射的にこの空間から直接離脱しようとしたが、制限を掛けられていることに気づいてソファに座りなおしてため息をつく。


 「ごめんごめんっ!……ほいっ!解いたよ~!今日は楽しかったよ!またいっぱいお話しようねっ!」

 「全く、……暇つぶしの話し相手なら俺だけじゃなくて魔王とかでもいいんじゃねぇかぁ?」

 「う…サタン君かぁ…あの子はボクのシナリオ的に、まだ出すわけにはいかないんだよねぇ…他の子じゃ、話進まないしぃ……もしかして嫌かい?」

 「…ま、暇つぶしにはちょうどいいよ」

 

 ラティアの言っていることはよく分からないが、どうやらピンクロリの話し相手は他の奴では務まらない役目らしい。


 「何度もこうやって話しているが……結局、お前が何をしたいのか、全然分かんねぇままなんだよなぁ…まぁいい………じゃあな。」

 「うんっ!バイバーイッ!」


 ルシフェルの足元に漆黒の穴が出現し、彼がそこに無音で落下していった刹那には、何事も無かったように穴は塞がっていた。

 部屋の中には少女一人だけが残され、天井を仰いで微笑む。


 「………ま、分かったところで、君にボクのシナリオをどうこう出来る話じゃないと思うけどね。」





   ※   ※   ※





 決闘開始の光が俺と暁を包み込む。

 転送されている時に発生する眩暈のような感覚は、今ではちょうどいい心の引き締めに出来ていた。

 足が地面をしっかり捉え、浮遊感が失われていく。目をゆっくりと開くと、二十メートルほど離れた正面に暁も転移されていた。

 紅蓮の髪がなびき、相手もゆっくりと真っ赤な瞳を開花させる。もうそこに可愛らしい少女の姿は無く、ただ己への絶対的な信頼から来る不敵な笑みを浮かべる《破壊者》の姿があった。


 「ふふっ…まさか、ユキノと勝負する時が来るなんてね。」

 「それはこっちの台詞だ。でもよかった…いつまでもお前におんぶに抱っこじゃ、カッコつかないもんな。」

 「あら?私はユキノと居られるなら、それでもいいけど?」

 

 暁は悪戯っぽく笑うが、そこに一切の隙はない。俺は剣の重さを確認するように握りなおした。


 「お前のそういうことに、俺は甘えていたんだな。」

 「もっと甘えていいのよ?これからユキノが朝起きれない日は、おはようのキスしに行ってあげる?」

 「切実に止めてくれ。眠れなくなる。」 

 「ちょっ!それどういう意味よ!?……そんなに迷惑?」

 「いや、そういうわけじゃ…」

 

 暁は不服そうに怒ったあと、少し悲しそうに上目遣いでこちらに問いかける。…いや、むしろ逆だから…そんなことされたら、朝もっと起きなくなっちゃうから。お前が来るまで、待ちたくなっちゃうから。

 …ようは俺、暁のモーニングキスを楽しみにしてるんだな。

 俺はやっぱり、暁のことが好きなんだな。……まぁ、暁本人が俺のこと、本気でどう思ってるかなんて知らないけど。

 

 

 「ふんだっ!…あとからキスしようって言っても、泥水にその口ぶちこんでやるんだからねっ!」

 「それキスされた後でするやつだから!」

 「そうなのー?お兄ちゃん、(はるか)とキスしたあと泥水であらってないよー?」

 

 唐突に剣が小刻みにゆれ、(はるか)の声が二人の間に響く。ジョジョが分からない悠にこのネタを理解させるのは困難なので、俺たちは互いの顔を見ながら、苦笑する。

 

 ……さて、剣の重みもちょうどいいくらいになって来たし、そろそろ始めるか。


 「…悠、準備は大丈夫か?」

 「うん!二人が話している間に、お兄ちゃんの【存在】沢山食べたから、悠いけるよー!」

 

 俺は、単に暁と時間つぶしをしていたわけじゃない。話している間、悠に【存在】を与えていたのだ。そして、そのことに気づいていた暁は、俺と本気で闘う為に待ってくれていたんだと思う。

 

 「待たせたな、暁。」

 「いいっていいって!…その幼女は全力で負けなきゃ気が済まないらしいからね!」

 「むぅぅー!!お兄ちゃんとなら負けないもんっ!ねーお兄ちゃん?」


 悠の言葉に俺は大きく頷いて、暁の瞳を見つめる。


 「悪いが暁、……俺は負ける気なんてねぇからな!」

 「上等よっ!……じゃあこっちから行くわよ!」

 

 暁は姿勢を低くし、拳を構える。俺も油断無く剣を暁に向け、全神経を戦闘に注ぎ込む!

 暁は次の瞬間、低い体勢から一気に地面を蹴り飛ばし、神速ともいえる速度で突っ込んできた。

 咄嗟に反射速度が追いつかず、攻撃に剣が間に合わせられなかった。

 くそっ!間に合わねぇ!!


 「!!っ」

 

 だが俺の剣は、そんな俺の意識とは関係なく不可視の力で引っ張られるように雷鳴の如く空を駆け抜けると、暁の拳を受け止めた。

 その瞬間、天地が鳴動する激しい衝撃が渦巻き、ぶつかりあった場所では、巨大なクレーターが誕生していた。周囲の景色が吹き飛んだのは言うまでもない。

 

 「はぁああああああああああああああああっ!!!!」


 そこで終わるはずのない暁は、空中で体を思いっきり捻りながら空をも砕く連撃をぶち込んでくる。一撃一撃が鬼神のようなスピードと破壊力で、剣が受け止めてくれなければ確実に瀕死は避けられないだろう。


 「だぁあああああああっ!!」


 暁は地面に一瞬足をつき、渾身の回し蹴りを繰り出してきた。

 だが何故か、俺はその軌道が見えた気がした。


 「行くよお兄ちゃん!悠を離しちゃ駄目だよー!」

 「ああっ!!…おぉおおおおぁあああああああっ!!」


 (はるか)の声が脳に大きく響くと同時に、剣が吸い込まれるように暁の懐に突っ込み、俺は低い体勢から力を込めて切り上げた。

 

 「!?!!っこんっのぉおおおおおおおおっ!!!」


 暁は驚愕と苛立ちをかき混ぜたような叫び声を上げるが、さすがと言うべきか、驚異的な反応速度で軸足をばねにして数メートルも垂直に跳ね上がって剣戟をかわすと、空中で何回転もしながら拳を振りかぶってきた。

 

 「跳ぶよお兄ちゃん!」


 悠の言葉に「あぁ!」と一言だけ返すと、ぐいっという衝撃に引っ張られ、後ろに強制的に跳ね跳んだ。

 

 俺が居た場所に一瞬閃光が奔ったかと思うと、隕石でも落ちたかのような衝撃が世界を揺らし、瞬時に出来上がったクレーターすらも粉々に吹き飛ばした。

 

 相変わらず……なんて…無茶苦茶で規格外なんだよ…


 ……………

 …………ん?暁が出てこないな。確かにクレーターに落ちていったように見えたけど…

 

 「お兄ちゃん…気をつけてー…」

 「あぁ…」


 あいつが自爆した?そんなはずない。この決闘は戦闘不能になった時点で終了するので、あいつはまだ動ける状態という訳だ。


 妙な静けさがあたりを包み込む。

 何故だろう。凄く嫌な予感しかしない。…この場合…あいつなら、暁なら次はどうする?ど派手で、無茶苦茶で、完膚なきなでに相手をぶち壊そうとするあいつなら…?

 背中で汗が流れた直後、足元からピキッと少しだけ割れたような音が聞こえた。


 「悠、俺の【存在】をもっと食べていいから……今すぐ…」

 「?今すぐ…なにー?」

 

 ピキピキッと、地面の割れる音が徐々に大きくなっていく。そして悠がモグモグと声に出しながら【存在】を食べているせいか、眩暈が視界を奪いにかかっていたが、根を上げられる状況では無くなっていた。


 「今すぐ……今すぐ横に跳べぇぇぇええええっ!!」

 「わかったぁー!!」

 

 俺が剣を両手でしっかりと握り、振り落とされないように歯をくいしばると同時に、空を切る程の物凄い勢いに引っ張られ、不可視の力で宙を舞った。

 それが正解だったと一瞬思ったが、なんて馬鹿で浅はかだったんだろうと気づく。俺は今まで暁の何を見てきたのだろうか?

 たかが跳んだ程度で回避が間に合う暁の攻撃など、存在などしないのだ。

 ドッカーンッ!!…っていう擬音があるだろう。まさにあの擬音でしか表現できない事態が地上で発生させられていた。

 それは地面が大きく大爆発を引き起こし、文字通り吹き飛んだ。比喩でもなんでもない。ただ吹き飛んだ。

 射程範囲が全フィールドなのだから、俺はただ無様に爆発に飲み込まれるしかない。

 

 暫くして原形をとどめていない、世界の残骸の上で、同じく意識以外全てが吹き飛んでいるは自然と笑みをこぼしていた。

 

 暁…俺は可愛らしい女の子としてのお前も、《破壊者》としてのお前も、どっちも好きだよ。……

 何故なら、二つ合わせて初めて……暁ましろだからな。


 

 ……でもな、暁……俺はこの程度じゃ…死なないぜ?


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